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第17回 二作目の出版へ向けて~その一~
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美少女水滸伝で行く――そう決まってからは、作品作りに没頭し始めた。
ちょうど同時期に、婚活もやっていた。かなり値の張る結婚紹介所に会員登録して、CAさんから音楽関係者まで、多くの人達とお見合いをした。だけど、どの人達もピンと来なかった。今から思えば、婚活どころではなかった。起死回生、名誉挽回、汚名返上をかけた、渾身の二作目を作ることに、全精力を集中させていたからだ。それ以外、考えることはなかった。
いや、一つあった。父の病気だ。急性白血病となった父は、抗がん剤を打たれながらの闘病で、少なくとも半年は病院から出られないとのことだった。最悪の場合、二度と会うことも出来なくなるかもしれない……。
だけど、心配していても、自分にやれることは何も無い。免疫力が低下している状態の父には、お見舞いに行くことも許されない。
ただひたすら、がむしゃらに、未来に向けて執筆活動を続けるしか他に道は無かった。
会社での待遇は、悪化していた。数年前に自分の勤める会社が、他の会社に吸収合併され、自分の仕事量はこれまでの十分の一くらいに減ってしまった。減れば楽、というものではない。午前中に一、二時間仕事をしたら、後は何もやることが無くなってしまう……そんな毎日が続いていた。ある種、拷問のような扱いだった。しかし、しょうがなかった。自分は吸収される側の会社にいたのだから。そして、自分が今までやっていた業務は、吸収する方の、立場の強い側の会社にいる人々が全て掌握していたのだから。
まだ三十いくつにして、窓際族のような扱いを受け、屈辱と悔しさに苦しむ日々だった。転職も考えたが、どの求人を見ても、これだと思う企業は無かった。
自分がやりたいのは小説を書くことだ!
自分が生きたいのは文筆業の世界なのだ!
だから、会社での扱いが何であろうと、ひたすら耐え抜いていた。「いいよな、お前は定時で上がれて」と周りから心ない嫉妬の言葉をぶつけられて、だったらお前が俺と同じ立場になってみろよと怒りを抱いても、ただただ我慢した。
全ては、二作目を出せば――
最大級の力を込めて書き上げようとしている、この二作目さえ出せば――
自分の本当の人生は開けてくる!
その執念のもと、プロットにOKが出てから約2ヶ月かかったが、13万5千字の長編を書き上げた。仮タイトルは『エデン・ゴッデス』。内容としては、水滸伝に登場するイケメンキャラ燕青を主人公としている点や、他の107人は全部女体化している点が特異であるが、あとの筋書きは出来るだけ原典に忠実な内容としているものだった。
担当編集に送ってみたところ、悪くはない、といった反応が返ってきた。
だがしかし、良いとも言えない様子だった。
電話の向こうで、担当編集は尋ねてきた。
「これはファンタジーですよね」
「ええ、そうです」
「ファンタジーとしてやっていくのであれば、世界観の作り込みが必要です。それこそ細かなところまで設定を作っていかないといけない。まずそこから始めてみませんか?」
「わかりました、やってみます!」
その後1週間ほどかけて、世界観を細かく作り始めた。
天地創造の時代から始まり、世界を見守る神々や仙人の因縁まで考え、どのような流れで作中世界における現在まで至ったのか、大まかな歴史を作った。通貨についても、実際の北宋期における貨幣やその価値を調べて、詳細に資料としてまとめた。
その資料を担当編集に送ったところ、こんな返事がメールで返ってきた。
「その意気やよし!です」
自分の頑張りを認めてもらえ、誉められたのが、何よりも嬉しかった。それとともに、今度の作品は自分が今まで作り上げてきた中で、最高の傑作に仕上がるのではないか、という予感がしていた。
そして年度も変わった、2014年6月初め頃。原稿のバージョン2を担当編集に送った。今度は世界観をしっかり作り上げた上で、物語の構造も、戦闘シーンも、相当凝った内容に仕上げることが出来た。
(これでどうだ!)
と思って、原稿を送ったものの、最初の原稿の時よりも、あまりいい返事は返ってこなかった。
あまりにも設定に追われて、ストーリーラインがゴチャゴチャしている、という評価だった。戦闘シーンも多すぎる印象とのことだった。
ならば、と思い、よりストーリーをシンプルにして、戦闘シーンも厳選したものだけを入れて、バージョン3を作成した。それが2014年6月の終わり頃のことだった。
内容的には概ねOKは出たものの、細部で引っかかる箇所があるので、さらに改稿を重ねていくこととなった。
バージョン3.1、そして3.2とブラッシュアップしていった。
そして、8月の頭になり、担当編集から返事が来た。
まさかの全面的な駄目出しだった。
「いまひとつ売りとなるポイントが見えてこないんですよね。水滸伝要素も、美少女要素も中途半端で、なんだか薄暗い雰囲気のファンタジーで終わっているんです。もっと強烈なテーマ性が必要だと思います」
ここまで来て、マジか、と思った。半年間書き続けて疲弊していた身には、かなりこたえる返事だった。それでも、担当編集の言っていることは正論だった。
打ち合わせの電話が終わった後、さっそく問題点を抽出してみた。
以下は、その当時書いたメモの抜粋である。
※ ※ ※
「水滸伝要素」→男の世界。百八人の仲間集め。戦記物の醍醐味。一番の特徴である男臭さは、すでに織り込めないので、水滸伝要素を押し出すのは諦める。
「美少女要素」→多くの女体化作品は、過剰なまでのお色気描写があってこそ。百合要素、エロ要素。それらを一巻ではことごとく廃してるので、これを売りにするのは現時点では厳しい。
百八人、という数の多さはひとつの売り。ただ、「百八人全員美少女」というのは、上記の通り現時点では売りには出来ない(キャッチコピーとしてはありでも、内容が……)。
美少女である必然性。ラノベだから、と言ってしまえばそれまでなので、もっと納得できてスッキリする理由付けを。ドラマ性とも絡ませる。
※ ※ ※
こうして、バージョン3での問題点をまとめた上で、思い出したのが、水滸伝といえば欠かせないキーワード「天命」だった。
この「天命」を主軸において、物語を構築できないか、と考えた。
登場する107人の美少女達は、そのままだと、やがて悲惨な死を迎える運命にある。それが「天命」。
主人公の燕青は、その「天命」に抗うべく戦う存在。
「キャッチコピーは『運命に、抗え』。よし、これで行こう!」
そして、バージョン4の作成へと取りかかり始めた。
ちょうど同時期に、婚活もやっていた。かなり値の張る結婚紹介所に会員登録して、CAさんから音楽関係者まで、多くの人達とお見合いをした。だけど、どの人達もピンと来なかった。今から思えば、婚活どころではなかった。起死回生、名誉挽回、汚名返上をかけた、渾身の二作目を作ることに、全精力を集中させていたからだ。それ以外、考えることはなかった。
いや、一つあった。父の病気だ。急性白血病となった父は、抗がん剤を打たれながらの闘病で、少なくとも半年は病院から出られないとのことだった。最悪の場合、二度と会うことも出来なくなるかもしれない……。
だけど、心配していても、自分にやれることは何も無い。免疫力が低下している状態の父には、お見舞いに行くことも許されない。
ただひたすら、がむしゃらに、未来に向けて執筆活動を続けるしか他に道は無かった。
会社での待遇は、悪化していた。数年前に自分の勤める会社が、他の会社に吸収合併され、自分の仕事量はこれまでの十分の一くらいに減ってしまった。減れば楽、というものではない。午前中に一、二時間仕事をしたら、後は何もやることが無くなってしまう……そんな毎日が続いていた。ある種、拷問のような扱いだった。しかし、しょうがなかった。自分は吸収される側の会社にいたのだから。そして、自分が今までやっていた業務は、吸収する方の、立場の強い側の会社にいる人々が全て掌握していたのだから。
まだ三十いくつにして、窓際族のような扱いを受け、屈辱と悔しさに苦しむ日々だった。転職も考えたが、どの求人を見ても、これだと思う企業は無かった。
自分がやりたいのは小説を書くことだ!
自分が生きたいのは文筆業の世界なのだ!
だから、会社での扱いが何であろうと、ひたすら耐え抜いていた。「いいよな、お前は定時で上がれて」と周りから心ない嫉妬の言葉をぶつけられて、だったらお前が俺と同じ立場になってみろよと怒りを抱いても、ただただ我慢した。
全ては、二作目を出せば――
最大級の力を込めて書き上げようとしている、この二作目さえ出せば――
自分の本当の人生は開けてくる!
その執念のもと、プロットにOKが出てから約2ヶ月かかったが、13万5千字の長編を書き上げた。仮タイトルは『エデン・ゴッデス』。内容としては、水滸伝に登場するイケメンキャラ燕青を主人公としている点や、他の107人は全部女体化している点が特異であるが、あとの筋書きは出来るだけ原典に忠実な内容としているものだった。
担当編集に送ってみたところ、悪くはない、といった反応が返ってきた。
だがしかし、良いとも言えない様子だった。
電話の向こうで、担当編集は尋ねてきた。
「これはファンタジーですよね」
「ええ、そうです」
「ファンタジーとしてやっていくのであれば、世界観の作り込みが必要です。それこそ細かなところまで設定を作っていかないといけない。まずそこから始めてみませんか?」
「わかりました、やってみます!」
その後1週間ほどかけて、世界観を細かく作り始めた。
天地創造の時代から始まり、世界を見守る神々や仙人の因縁まで考え、どのような流れで作中世界における現在まで至ったのか、大まかな歴史を作った。通貨についても、実際の北宋期における貨幣やその価値を調べて、詳細に資料としてまとめた。
その資料を担当編集に送ったところ、こんな返事がメールで返ってきた。
「その意気やよし!です」
自分の頑張りを認めてもらえ、誉められたのが、何よりも嬉しかった。それとともに、今度の作品は自分が今まで作り上げてきた中で、最高の傑作に仕上がるのではないか、という予感がしていた。
そして年度も変わった、2014年6月初め頃。原稿のバージョン2を担当編集に送った。今度は世界観をしっかり作り上げた上で、物語の構造も、戦闘シーンも、相当凝った内容に仕上げることが出来た。
(これでどうだ!)
と思って、原稿を送ったものの、最初の原稿の時よりも、あまりいい返事は返ってこなかった。
あまりにも設定に追われて、ストーリーラインがゴチャゴチャしている、という評価だった。戦闘シーンも多すぎる印象とのことだった。
ならば、と思い、よりストーリーをシンプルにして、戦闘シーンも厳選したものだけを入れて、バージョン3を作成した。それが2014年6月の終わり頃のことだった。
内容的には概ねOKは出たものの、細部で引っかかる箇所があるので、さらに改稿を重ねていくこととなった。
バージョン3.1、そして3.2とブラッシュアップしていった。
そして、8月の頭になり、担当編集から返事が来た。
まさかの全面的な駄目出しだった。
「いまひとつ売りとなるポイントが見えてこないんですよね。水滸伝要素も、美少女要素も中途半端で、なんだか薄暗い雰囲気のファンタジーで終わっているんです。もっと強烈なテーマ性が必要だと思います」
ここまで来て、マジか、と思った。半年間書き続けて疲弊していた身には、かなりこたえる返事だった。それでも、担当編集の言っていることは正論だった。
打ち合わせの電話が終わった後、さっそく問題点を抽出してみた。
以下は、その当時書いたメモの抜粋である。
※ ※ ※
「水滸伝要素」→男の世界。百八人の仲間集め。戦記物の醍醐味。一番の特徴である男臭さは、すでに織り込めないので、水滸伝要素を押し出すのは諦める。
「美少女要素」→多くの女体化作品は、過剰なまでのお色気描写があってこそ。百合要素、エロ要素。それらを一巻ではことごとく廃してるので、これを売りにするのは現時点では厳しい。
百八人、という数の多さはひとつの売り。ただ、「百八人全員美少女」というのは、上記の通り現時点では売りには出来ない(キャッチコピーとしてはありでも、内容が……)。
美少女である必然性。ラノベだから、と言ってしまえばそれまでなので、もっと納得できてスッキリする理由付けを。ドラマ性とも絡ませる。
※ ※ ※
こうして、バージョン3での問題点をまとめた上で、思い出したのが、水滸伝といえば欠かせないキーワード「天命」だった。
この「天命」を主軸において、物語を構築できないか、と考えた。
登場する107人の美少女達は、そのままだと、やがて悲惨な死を迎える運命にある。それが「天命」。
主人公の燕青は、その「天命」に抗うべく戦う存在。
「キャッチコピーは『運命に、抗え』。よし、これで行こう!」
そして、バージョン4の作成へと取りかかり始めた。
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