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第31話 青木ヶ原樹海ダンジョン③

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 結果は、俺とリコリスが①を引いて、ナーシャとゲンノウが②を引いた。

 それにより、TAKUさんはソロで洞穴へと潜ることとなった。

「大丈夫ですか、一人で?」

 そう聞くのも失礼かと思ったけど、一応聞かずにはいられなかった。

「あはは、心配いらないよ。僕は知っての通り、かなり強いからね。Eランク程度の洞穴なんて、簡単に踏破できるさ」

 頼もしい返事が返ってきた。

 そういえば、TAKUさんはどんなスキルを持っているのだろうか。あまり聞いたことがない。なんでも、配信でも明かしていない、とのことだ。

 別段珍しいことではない。スキルを明かすのは将来的に不利になる、と考えて、隠しているDライバーも多い。一方で、手っ取り早く視聴者の興味を引くことができるので、躊躇無く明かしている人もいる。そもそもスキルを持っていない人もいる。

 とりあえず、先発は俺とリコリスの組となった。

「えっと、よろしくお願いします」
「は、はい。足を引っ張らないように頑張ります!」

 リコリス。あまり名前を聞いたことがないけれど、どんなDライバーなのだろうか。正直、不安はある。自信なさげな言動が、頼りなくて、Eランクのダンジョンでも戦えるのか心配だ。

《:可愛い子きたーーー》

《:なんだよ、ナーシャたんから鞍替えか》

《:リコリスってなんだっけ? なんかアニメのタイトルになってなかった?》

《:彼岸花じゃなかったっけ》

《:それそれ。赤い花》

《:花言葉は「独立」とか「情熱」とか》

《:意外と熱血系?》

《キリク:調べたぜ。リコリスは、いま19歳。Dライバー歴は半年。登録視聴者数は約3000人。配信歴、すごいぞ、毎日ダンジョン配信してやがる》

「ま、毎日配信⁉」

 俺はスマホで自分のチャンネルへのコメントを読んでから、驚きの声を上げた。

 リコリスがビクンと体を震わせて、怯えた眼差しで、俺のことを見てくる。

「ご、ごめんなさい。毎日配信して、ごめんなさい」
「いや、謝ることじゃないって。というか、俺より2歳も年上じゃないすか! 同い年くらいだと思っていた!」
「ううう、幼くて、ごめんなさい」
「いや、だから、謝ることじゃないって」

 なんなんだ、この人。すごく自分に自信がないのか?

 それにしても、毎日ダンジョン配信はすごい。普通の生活が送れなくなるレベルで、もうDライバーで生計を立てている人間のやることだ。けれども、彼女の登録視聴者数は約3000人。稼ぎを得るほどではない。

 何が、彼女を、そこまでダンジョン配信に駆り立てるのか。

 洞穴に入るのと同時に、ドローンのライトが自動で点灯した。さすが最新機器、すごく便利だ。

 リコリスのドローン配信機もまたライトをつける。

 岩や土でゴツゴツした地面に気をつけながら、俺達は慎重に、中へと入っていく。ランクEとは言っても、油断していたら、モンスターに殺される可能性がある。注意するに越したことはない。

 が……どれだけ奥へ進んでも、モンスターは一体も現れなかった。

「妙だな」

 ライブ配信的に退屈極まりない映像になっていることが気になるけど、それ以上に、一体もモンスターが出現しないことに違和感を覚える。

「変ですね……青木ヶ原樹海の洞穴は、コウモリとかモグラとか、そのあたりの動物が凶暴化したのが襲ってくるのですけど」
「知ってるんすか?」
「私、こう見えても、青木ヶ原樹海ダンジョンは攻略5回目ですので」

 マジか。実はベテランなんじゃないか。

 だとしたら、考えをあらためないといけない。

「リコさん的には、どう思います? なんで、こんな状態になっているのか」
「先に誰かが入って、一掃した……としか考えられません」

 そう言って、リコさんはしゃがみ込んだ。地面に落ちている何かを、彼女のドローンがAIで判断して、ライトアップする。

 コウモリの死骸が落ちている。何か刃物で切り裂かれたような傷を胸に負っており、明らかに誰かの返り討ちに遭った様子だ。

「俺達以外に、誰かが、この洞穴内にいる……?」
「可能性は十分にあります。あれだけの数が今回の配信に集まったのですから、攻略場所が重なるというのはあり得ることですけど……でも……」

 立ち上がったリコさんは、不安そうに、周りを見回した。

「なんだか、怖いです……まったく気配を感じないのが……」
「俺達と鉢合わせしないように隠れている?」
「なんで、隠れているのですか」
「さあ……」

 俺が肩をすくめた、その時だった。

「あ、危ない!」

 リコさんが飛びついてきて、俺の体を掴むと、力任せに自分のほうへと引き寄せた。

 急なことで俺はよろめき、そのままリコさんを巻きこんで、地面に倒れてしまう。

 直後、「チッ」と舌打ちが聞こえてきた。

「だ、誰だ!」

 何者かが俺の背後に立ち、奇襲を仕掛けようとしていたようだ。

 振り返って、見てみると、黒いキャップ帽をかぶった不良然とした若い男が、ナイフ片手に身構えている。

 その後ろにはドローンが浮かんでいる。

 襲ってきたのは、まさかのDライバーだった。

「な、なんで……⁉」
「木南カンナ。これはゲームだ。お前を狩るための、な」
「俺を狩る……⁉」
「わかってないなら、それでいい。理由がわからないまま、死んでいきな」
「な、何を言ってるんだよ! 正気か⁉ ライブ配信中に、殺人する気か⁉」
「そうだ。お前を殺す」
「罪になるぞ!」
「それよりも、お前が生きていることのほうが大問題なんだよ」

 襲撃者は、これ以上無駄話をしてもしょうがない、とばかりに、無言で飛びかかってきた。

(く! 壁よ、あいつを叩け!)

 地面に手をつき、念じる。

 洞穴の岩壁がギョンッ! と伸び、襲撃者を横から思いきり殴りつけた。咄嗟のことで、加減を考えていなかったので、かなりのダメージを与えたようだ、バキボキ、と体中の骨が叩き折れる音が聞こえる。

「がはぁ!」

 襲撃者は地面に転がると、そのまま動かなくなった。

「い、今のは、いったい……どうして、同じDライバーが……」

 リコさんはオロオロしている。

 そこへ、さらに新手がやって来た。

「いたいた! 姉者! アタイが殺ってもいいかい⁉」
「好きにしなァ」
「うふふー、バラバラに解体してあげまちょうね~」

 女性三人組のDライバーだ。

 先頭を行くのは、ツナギを着たライダー風のお姉さん。その後ろには、タンクトップ姿のマッチョで図体デカいお姉さんと、ナース服を着ているロリ巨乳な女の子が立っている。

「そいじゃあ、行くぜェェェ!」

 ライダー風のお姉さんが、威勢のいい気合いとともに、俺へ向かって飛びかかってきた。
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