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第30話 青木ヶ原樹海ダンジョン②

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「君達の活躍はいつも見させてもらっている」

 森の中を歩いていると、不意に、ゲンノウが話しかけてきた。

「え? 俺すか?」
「そうだよ、君だ。カンナ君」
「もしかして、チャンネル登録をしてくれてる、とか?」
「当初は、TAKU君の竜神橋ダンジョン配信を見ていたんだけどね、そこでめざましい活躍をしている君達の姿を見て、非常に興味を持ったんだ。それ以来、チャンネル登録している。この間の江ノ島ダンジョンが、特に素晴らしかった」
「マジすか、ありがとうございます」
「ナーシャ君も、実にシンプルながら、強力なスキルを持っているね」

 続いて、ゲンノウはナーシャに声をかけた。

 それに対して、ナーシャはゲンノウをチラッと一瞥しただけで、特に返事はしなかった。

 おいおい、感じ悪いな、ちょっとは愛想よくしろよ、と俺がヤキモキしていると、ゲンノウは一切気にしていない様子で、話を続けた。すごく紳士で大人だ。

「あのスキルは、『バーストショット』だったかな。ガトリングガンという超高速で弾を発射する銃火器とは非常に相性がいいね。一点集中で破壊力が増す。とてもいいスキルだ」
「たしか、ナーシャは、伊勢神宮でもらったスキルだって言ってました」
「なるほど。伊勢神宮の祭神はアマテラスだ。弓道の神でもある。神は、自分の得意分野に特化したスキルを与えるので、銃撃系に適したスキルを授けることもあるだろう。彼女が頼るにはピッタリの神様だ」
「しかし、いまだに不思議です……ある日突然ダンジョンなんてものが世界中に現れたかと思えば、寺社仏閣で神様がスキルを与えるようになった……物語のようなことが現実になって、なんだか夢でも見ているような……」
「ははは、私もだ。だけど、これはチャンスでもある」
「チャンス、ですか」
「そうだよ。私はこれまで、うだつの上がらない人生だった。それが、このダンジョン禍でようやく人より前へと進むことが出来るようになった」

 信じられないな。こんなにも初対面の人と話すのが上手で、しっかりした言動で頼りになる雰囲気がバンバン出ているナイスな紳士が、うだつの上がらない人生を送ってきたなんて。

「きゃっ!」

 目の前で、リコリスが木の根につまづいて、前のめりに転んだ。手の平をすりむいたようで、いたたた……と女の子座りして、半べそかきながら、手を振っている。

「大丈夫かい?」

 すかさず、ゲンノウは胸ポケットからハンカチを差し出した。明らかに未使用だとわかる、パリッとした綺麗な白いハンカチ。

「あ……ありがとうございます」

 ポウッ、と惚けたような顔で、リコリスは手の平に滲んだ血を、ハンカチで拭き取った。

「ごめんなさい……その、汚しちゃって……」
「いや、いいんだ。予備で持ってきていただけだからね。君にあげるから、好きなように処分してくれたまえ」
「な、なんだか、すみません……」
「その代わり、私が転んだときは、同じように助けてくれよ」

 飄々とした調子で言うと、ゲンノウはウィンクした。

 年上の男性に弱いのか、リコリスは顔を真っ赤にして、うっとりとゲンノウのことを見ている。

 ふと、ナーシャのほうを見ると、やたらと険しい眼差しでゲンノウを睨んでいる。どうやら、彼女はこういうタイプの男が嫌いなようだ。女子によって、好みが大きく分かれてくる。

「おーい! 洞穴を見つけたよ!」

 先頭を進んでいたTAKUさんが、手を振りながら、俺達に声をかけてきた。

 樹海の中にポッカリと口を開けている洞穴。森の中にある洞穴なので、江ノ島の岩屋とは、また違った様相だ。こっちのほうが、何倍も薄暗くて、不気味な感じである。だけど、難易度はランクE。危険ではない、とのことだ。

「まいったな。中に入ろうにも、土砂が積もっている。あれをどかさない限りは、入れないぞ」

 洞穴を前にして、TAKUさんが弱り果てていると、

「大丈夫、私に任せなさい」

 ゲンノウが進み出てきた。

 何をするのか、と思って見守っていると、ゲンノウは両手を前に差し出し、手の平を広げた。

 そして、

「ぬん!」

 気合をかけるのとともに、積もっていた土砂は左右に分かれ、あっという間に取り除かれた。一切手を触れることなく、まるで念動力のような技で、障害を取り除いたのだ。

「す、すごい!」
「こんなスキル、見たことないです!」

 俺とリコリスが同時に弾んだ声を上げた。

 TAKUさんは呆気に取られていて、ナーシャも腕組みして気に食わなそうにしながらも目を丸くしている。

「これが私のスキルだよ。見ての通り、わかりやすく『念動力《サイコキネシス》』と呼んでいる」
「そんなスキルを、どこで授かったんですか?」
「ははは、TAKU君。それは企業秘密だよ。万が一、悪い奴が手に入れたら、とんでもないことになるからね」

 ゲンノウは唇に人差し指を当てて、シー、と言ってきた。

「さて、洞穴の中に入る順番を決めようか」
「みんなで一緒に行かないのですか」
「TAKU君、洞穴というのは崩落の危険性もある。全員ひとかたまりになっていたら、全滅する恐れだってある。ここは三つに分けて行くのが望ましい」
「なるほど。では、どのように分けます?」
「カンナ君とナーシャ君は、セットで動くのは確定として、残る我々をどうするか、だね」
「うーん、どうでしょう? せっかくEランクという、ハイキングじみたダンジョン配信なんですし、少しは遊び心を入れてみてもいいんじゃないでしょうか」
「と言うと?」
「くじ引きですよ。それで、組み合わせを決める」

 TAKUさんは手近な石を五個拾い、リュックの中からマジックを取り出すと、何やらキュッキュッと書き始めた。

 そして、俺達の前に、石を並べた。何か書いた面は裏にしてある。

「番号を振っています。①、②、がそれぞれ二つ。それと、無地の石。僕はどの石に何が書かれているかわかるので、一番最後に取ります。皆さんは、順番にこれだ、と思う石を手にしてください。そこに書かれている番号の組み合わせで、中に入る組を決めましょう」
「ほう、面白そうだな。他のみんなはどうかな?」

 ゲンノウに問われて、リコリスはブンブンと首を縦に振った。

「わ、私は、賛成です」
「カンナ君とナーシャ君は?」

 俺は両腕で丸を作り、ナーシャも(なぜか、いまだ不機嫌そうにしながら)渋々といった様子で頷いた。

 こうして、俺達は石のくじ引きを行い、洞穴に潜る組み合わせを決めた。
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