金沢友禅ラプソディ

逢巳花堂

文字の大きさ
上 下
105 / 109
終話 友禅の未来

友禅祭り

しおりを挟む
 五月一七日。
 卯辰山の麓にある龍国寺に、加賀友禅の作家達が、集まっていた。
 毎年開催されている「友禅祭り」だ。

 友禅の始祖・宮崎友禅斎。京都で最初に生み出した友禅の技法を、金沢に友禅斎本人が持ち込んで、独自に発展を遂げたものが、加賀友禅である……と言われている。

 そのため、友禅斎の命日である五月一七日には、必ず加賀友禅の作家達が集まって、祭祀を行っているのである。

 車も駐めにくいような場所なので、特に遠方の作家については無理をせず、ではあるが、金沢市内に在住している作家は、なるべく出席するようになっている。
 とはいえ、強制できるものでもなく、時代の流れか、近年は、出席しない作家も徐々に増えてきている。

(去年より、少し、人が減ったかな)

 龍国寺に到着した綾汰は、周りに集まった作家を見て、そう感じた。

 高齢化が進んでおり、若手も入ってこない中、また独自のスタイルで他の作家とは関わらずに仕事をしている作家もおり、年々、寂しくなってきている。
 作家デビュー前にも、何度も千都子のお供で友禅祭りに出席していた綾汰は、作家の減少が、そのまま加賀友禅の未来を示しているようで、なんだか、寂しさを感じてしまう。

(せめて、僕だけでも、かの友禅斎に、加賀友禅の未来を守ってもらうようにお願いしよう)

 母が愛した加賀友禅の世界。
 それを、時代の流れ「程度」のことで、失いたくはなかった。

「綾汰、何をぼんやりしているんだい。こっちに来な」
「はい」

 千都子に呼ばれて、行ってみると、口髭、禿頭、ガッシリした肉体の大柄な男が、千都子の横に立っており、綾汰と目が合った瞬間、グワハハハハと大声で笑い出した。

「おお! あんたが上条綾汰か! 雑誌の記事を見たぞ! 血は繋がっていないのに、よく静枝さんと似とるな!」
「初めまして、上条綾汰です」

 挨拶して、お辞儀してから、その体勢のまま上目づかいにチラリと見た。
 それで、あなたは? どちら様? という無言のメッセージである。

「俺は花山というもんだ! よろしくな!」
「ええと……失礼します。去年は、いらっしゃってませんでしたよね?」

 どれだけ記憶を辿っても、この大声でやかましい禿頭マッチョというインパクト大の男と、出会った覚えがない。

「会っているわけがないさ。今度、審査を受ける予定の、まだ修行中の男なんだよ」

 千都子に言われて、なるほど、と綾汰は合点がいった。

 それにしても、見た目は四〇代前半か、かなり遅くにこの世界に入ったと見える。

「元々は自衛隊におったんだがな、まあ、色々とあって、坊主の世界に入り、それで色々とあって、加賀友禅の世界に入ったんだ! よろしくな!」

 ガハハハ、と笑いながら、花山は握手を求めてきた。綾汰も手を差し出し、手を握り合ったが、あまりの相手の握力の強さに、口元は笑いながらも、顔をしかめた。

 加賀友禅の作家として協会に認定されるには、審査が必要だ。作品を見せながら、師匠と一緒に並んで、面接を受ける。そんな場を、この大雑把な振る舞いの花村が切り抜けられるのだろうか、と他人事ながら綾汰は心配になった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

意味がわかると下ネタにしかならない話

黒猫
ホラー
意味がわかると怖い話に影響されて作成した作品意味がわかると下ネタにしかならない話(ちなみに作者ががんばって考えているの更新遅れるっす)

妹はわたくしの物を何でも欲しがる。何でも、わたくしの全てを……そうして妹の元に残るモノはさて、なんでしょう?

ラララキヲ
ファンタジー
 姉と下に2歳離れた妹が居る侯爵家。  両親は可愛く生まれた妹だけを愛し、可愛い妹の為に何でもした。  妹が嫌がることを排除し、妹の好きなものだけを周りに置いた。  その為に『お城のような別邸』を作り、妹はその中でお姫様となった。  姉はそのお城には入れない。  本邸で使用人たちに育てられた姉は『次期侯爵家当主』として恥ずかしくないように育った。  しかしそれをお城の窓から妹は見ていて不満を抱く。  妹は騒いだ。 「お姉さまズルい!!」  そう言って姉の着ていたドレスや宝石を奪う。  しかし…………  末娘のお願いがこのままでは叶えられないと気付いた母親はやっと重い腰を上げた。愛する末娘の為に母親は無い頭を振り絞って素晴らしい方法を見つけた。  それは『悪魔召喚』  悪魔に願い、  妹は『姉の全てを手に入れる』……── ※作中は[姉視点]です。 ※一話が短くブツブツ進みます ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げました。

好きになるには理由があります ~支社長室に神が舞い降りました~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 ある朝、クルーザーの中で目覚めた一宮深月(いちみや みつき)は、隣にイケメンだが、ちょっと苦手な支社長、飛鳥馬陽太(あすま ようた)が寝ていることに驚愕する。  大事な神事を控えていた巫女さん兼業OL 深月は思わず叫んでいた。 「神の怒りを買ってしまいます~っ」  みんなに深月の相手と認めてもらうため、神事で舞を舞うことになる陽太だったが――。  お神楽×オフィスラブ。

金澤奇譚

独身貴族
キャラ文芸
時は現代。文都、学都、軍都として栄えた金澤城下町。今は昔の花街に、着物の男が歩いていく。 これは、史実を元にした、パラレル金澤の物語です。

REALIZER

希彗まゆ
キャラ文芸
なんの役にも立っていないのに どうして生きているかもわからないのに そんなあたしが、覚醒した 「REALIZER」 願い事を実現する能力者─── ある日平凡な女子高生から一転して能力者へと変貌を遂げた とある女の子と能力者たちのストーリー。 ※作中に関西弁が出てきますが、こちら関西在住の友人に監修していただきました。 造語バリバリで失礼します。 ※ピクシブから移転しています。

雪の日に

藤谷 郁
恋愛
私には許嫁がいる。 親同士の約束で、生まれる前から決まっていた結婚相手。 大学卒業を控えた冬。 私は彼に会うため、雪の金沢へと旅立つ―― ※作品の初出は2014年(平成26年)。鉄道・駅などの描写は当時のものです。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

大江戸あやかし絵巻 ~一寸先は黄泉の国~

坂本 光陽
ミステリー
サブとトクという二人の少年には、人並み外れた特技があった。めっぽう絵がうまいのである。 のんびり屋のサブは、見た者にあっと言わせる絵を描きたい。聡明なトクは、美しさを極めた絵を描きたい。 二人は子供ながらに、それぞれの夢を抱いていた。そんな彼らをあたたかく見守る浪人が一人。 彼の名は桐生希之介(まれのすけ)。あやかしと縁の深い男だった。

処理中です...