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第29話 甲板上の戦い

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 エビの兵士達は、槍を振り回して、エイジとティタマに襲いかかっていく。

 エイジは剣を抜き、エビの兵士に向かっていく。ティタマはブーメランを構えている。二人とも、あんな武器を持った敵を相手に怯んでいない。すごい。

 私は槍を前にして、すっかり怖くなってしまい、甲板上の積荷の陰に隠れて、様子を窺った。

 二体のエビ兵士が、エイジを挟んで、槍で突き刺そうとしている。それに対して、軽やかな動きで攻撃をかわしながら、エイジはエビ兵士達と戦っている。一度は大怪我を負っていたのに、もうあんなに機敏に動けるなんて、すごい。

 ティタマはティタマで、一対一でエビ兵士と戦っているけれど、映画でのイメージ通り、アクションはお手のもの、まったく危なげなく、逆に見ていて安心するほどだ。

 エイジもティタマもあっという間に、三体のエビ兵士を打ち倒した。甲板に転がったエビ兵士達。ビクンビクンと痙攣している。死んではいないようだが、戦闘不能な状態だ。

 そこで、海より水柱が上がった。

 何事かと驚いて、そちらのほうを見てみると、水柱の中から、槍を構えた人魚姫のロディが、甲板に向かって飛び出してきた。

「お父様の仇ーーー!」

 怒号を上げて、まっすぐ、私に向かってロディは飛んでくる。虚を突かれたエイジとティタマは、慌てて私のほうを振り返って、助けに入ろうと駆け出したけれど、間に合わない。

「きゃあああ!」
 
 私は悲鳴を上げて、側の木箱を抱えると、ロディに向かって盾代わりに突き出した。ロディの槍は、私の木箱を貫き、粉々に粉砕する。しかし、そのお陰で、狙いは逸れて、私の足元へと、槍は突き刺さった。

 チッ、とロディは、映画の時のプリンセスな彼女らしからぬ舌打ちをして、素早く、槍を甲板から引っこ抜くと、再び、私に穂先を向けてきた。

 その鋭い切っ先を見て、私の息は止まりそうになる。あれで刺されたら、確実にアウトだ。

「や、やめて。殺さないで」
「うるさい! あなたはお父様を殺そうとしたじゃないの!」
「あれは不可抗力よ! だって――」
「言い訳は聞きたくない!」

 容赦なく、ロディは、槍を突き出してきた。

 が、横合いから、エイジが剣を振って、ロディの槍を弾き返す。耳をつんざく、鋭い音が、甲板上に鳴り響いた。

「邪魔するな!」

 鬼気迫るロディの怒りは、槍へと宿り、今度はエイジに向かって猛攻を仕掛ける。二人は激しい打ち合いを始めた。一見すると、リーチの長い、ロディのほうが有利だけれど、純粋な戦いの強さとしては、エイジのほうが上みたいで、上手く、ロディの懐に潜りこみながら、剣を閃かせて、一進一退の攻防を繰り広げている。

 そこへ、ティタマも参戦した。ブーメランを武器として、背後からロディに殴りかかる。

 さすがに、二対一では、それまで海のプリンセスとして生きてきて、戦闘経験なんてないであろうロディには、きついのだろう、圧倒的不利な状況に追い込まれている。

 次第に、彼女は、甲板の隅へと押し込まれていった。

「なんでよ! なんで、そいつのことを、かばうのよ!」
「かばっているつもりはない」

 エイジは冷たく言い放つと、ロディの手を、思いきり蹴り上げた。その蹴りで、ロディは槍を弾き飛ばされてしまう。槍は音を立てて、甲板に転がった。

 武器を失ったロディは、青ざめた表情で、うろたえている。

「勝負を挑まれたから、それに応えたまでだ。これ以上続けるというのなら、遠慮無く、俺も立ち向かわせてもらうが、どうだ?」
「くう……!」

 悔しそうに、ロディは呻いた後、身を翻して、海の中へと飛び込んでいった。

 そこからは新手が襲ってくることはなかった。ひとまず、窮地を脱したようだ。

「ごめんなさい、エイジさん、ティタマ。私のせいで、危ない目に遭わせちゃって」
「いいよ、いいよ、気にしてないから。それより、スカーレット、怪我は無い?」
「うん、大丈夫」

 ああ、ティタマは、なんていい子なんだろう。映画を観ていた限りでも、もちろん、いい子だとは思っていたけれど、いざ、こうやって、リアルに会って助けられていると、本当に、心の底から、彼女は心の優しい子なんだと実感させられる。

「俺は、単に降りかかった火の粉を払っただけだ。国へと戻るのに、あいつら海の王国の連中は邪魔だからな。それに――」
「それに?」
「――お前は、森の魔女と対抗するための、貴重な存在だ。奴の悪行を知っているのも、お前だ。こんなところで、死なれては困るからな」
「ああ、そういう理由なのね……」

 ちょっと、エイジが何を言うか期待していただけに、そんな風に、杓子定規にいわれて、ちょっとガッカリした。もっと、優しい言葉をかけてくれるかと思っていたのに。

「それよりも、ティタマ、ヒネさんは大丈夫なの?」
「うん、おばあちゃんは、本気を出したら、すごい魔法も使えるから、そんなに心配はしてないよ」

 そう言いつつも、ティタマの表情に影が差した。

 当たり前だ。たった一人で、海の魔女と、その軍勢を相手にしているのだから、無事でいるはずがない。本当は、ティタマは、すごく不安に思っていることだろう。

 それでも、私のために、その不安の心を見せないでいてくれている。

 ありがたいのと同時に、なんだか、申し訳なく、感じた。
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