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第五章

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「それは、そうかもしれません。だが、それを決めるのはクローディアです。クローディアは……、彼女はずっと隊長を探して求めていました。詳しいことは、本人から聞いてください。ただ、クローディアにも事情があった」

 ふっ、とレオンが短く息を漏らす。今の俺には言えない何かがあるのだろう。俺は自分が川に落ちた経緯をレオンから聞き、そしてこの三年間の様子をレオンに伝えた。

 どうやら冒険者として生きてきたことが、捜索の目をくらましていたようだ。場所を転々とし、かつ名前もジョー、と名乗っていた。ほとんどフェイルズ国にいなかった俺を探し出すことは、至難の業であっただろう。

「レオン、会えて嬉しいよ」

「レーヴァン隊長、明日はクローディアと会ってください。一番、会いたがっているのは彼女です」

「あぁ、そうするよ。今日はもう遅くなったから、明日来て欲しいと伝えてくれ」

「はい、そうします。では、また明日」

 そう言ってレオンが帰ると、途端に腹が減ってくるのがわかる。随分と緊張していたらしい、まだ何も思い出せないが、彼らと会うことで脳が刺激され、いつか思い出せるかもしれない。

 期待で嬉しくなると同時に、クローディアに会いたいと思う気持ちが出てくる。不思議だ、ほんの一瞬しか再会していないのに、瞼を閉じると彼女のブルーラベンダーの瞳を思い出す。

 考えに浸っていると、コンコン、と部屋をノックする音がする。レオンが出て行ったのを見て、サーシャ嬢が夕食をもって入って来た。

「今日は疲れているでしょうから、部屋で食べましょう。ワインも持って来たわ」

「あぁ、ありがとう。サーシャ嬢、君まで一緒にここで食べなくても、もう一人で食べられるよ」

 そう伝えたが、サーシャ嬢は「私もレーヴァンと一緒に食べたいの」と言って、部屋に残る。

 彼女が持ってきたワインは、さすがに領主の館のものなのか極上の味がした。久しぶりに飲む酒は、簡単に俺を酔わせた。





「サーシャ嬢、昨日も申しましたが、レーヴァンと話をさせてください。私は彼と会う必要があるのです」

 領主の館に早朝から来ても、レーヴァンに会うことができない。昨日、レオンが会っているので生存確認はできたが、どうしても彼に会いたい。たとえ私のことがわからなくてもいい、レーヴァンが生きているのだ。

「クローディア様、もう結婚の決まった方が何を申されるのですか? それに、昨日も言いましたように、レーヴァン様は私と結婚する間柄で、昨夜も——」

「サーシャ嬢、客人が到着したと聞いたが」

 その部屋にノックもしないで入って来たのは、レーヴァン、その人だった。日焼けした肌を見せつけるように白いシャツを着た彼は、胸のボタンを二つも止めないでいる。腕まくりをして、簡易の濃紺のズボンを着た彼は、以前の教師然とした姿とはずいぶんと趣が違っていた。

「「レーヴァン」」

 私と、サーシャ嬢と、彼を呼ぶ声が重なる。

「レーヴァン、まだ部屋にいてと伝えたでしょう、また体調が悪くなるといけないからって……」

「サーシャ嬢、お気遣いには感謝するが、俺は自分のことを訪ねてきた人と会いたい。体調はもう大丈夫だ、朝の鍛錬も問題なく過ごすことが出来た」

 彼はそう言ってサーシャ嬢を黙らせると、今度は私に向き合った。

「クローディア嬢、昨日は体調が優れず失礼した。今日は、話を聞かせてくれると嬉しい」

「ええ、ええっ、喜んで。レーヴァン、私もあなたと話がしたかったの」

 彼に触れたい、けれど今の私たちにはお互いに知らないことが多すぎた。思わず涙目になってしまうけれど、レーヴァンの姿を見ているだけで嬉しさがこみあげてくる。

「レーヴァン……」

 恋しくて何度も呼んだ名前を呼ぶ。だが、その声を消すようにサーシャ嬢が割り込んで来た。

「クローディア様、私も同席させていただきますわ。レーヴァンは私と……いえ、将来の話をしている仲ですから。それに、クローディア様も結婚間近の身ですから、男性と二人きりとなるのはよろしくないですわ」

「それは、でも。……ええ、わかりました。レーヴァン、私は話をするのはどこでもいいのだけど……」

 サーシャ嬢の勢いに思わず圧倒されるが、今はとにかく彼と話がしたい。この三年間、どうやって生きてきたのか、思い出していることはないのか、知りたかった。

「では……、庭の東屋に移動しよう。豪華な部屋の中はどうも居心地が悪い」

 彼は頭をかきながらスッと席を立つと、私たちに先に行くようにと一歩下がる。無骨なようでいて、こうした紳士的なふるまいができるのはどうやら、身体が覚えているようだ。

 私たちは三人で東屋に移動し、風が吹いて気持ちのいい庭園を見ながら話し始めた。彼の久しぶりに聞く声が、私の心を震わせた。


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