上 下
63 / 88
第四章

4-11

しおりを挟む
 私は手に持った毒針を、王の首の後ろにぷつっと突き刺した。

「うぐっ」

 フェーブ王は、くぐもった声を出すと目を白くしてそのまま前に倒れていく。媚薬を飲んだ私がまさか、毒針を持っているとは想像もしていなかったのだろう。

 さて、ここからどうしようかと思った時、ドアを叩かれるのと同時にダストン王太子殿下の声が聞こえる。

「陛下、至急お伝えしたい義がございます。ドアを開けていただけますか?」

 身体の上に乗っているフェーブ王をどかせると、私はよろよろとしながらもドアに近づいていく。カチャン、と鍵を開けるとそこにはダストン殿下とクレイグが扉の外に立っていた。

 二人はサッと部屋の中に入ると、床に倒れているフェーブ王をみてパタン、とドアを閉じた。

「クローディア、これは」

 クレイグが私に声をかける。私ははぁはぁとだんだんと苦しくなってくる息を整えつつ、ダストン殿下に向かって話した。

「で、殿下。これは私の仕込んだ毒針です。ただ、これは麻酔作用のみで、三時間ほど気を失うだけです」

「では陛下は意識を失っているだけなのか」

「はい、脈は正常です」

 ダストン殿下はフェーブ王に近づくと、その手首をもって脈を確認した。

「確かに、気を失っているようだが……これほど即効性のあるものとは」

「はい、ただ長時間は持ちません。遅効性のあるものは、一日以上眠らせることができます。遅効性の毒と即効性の毒を混ぜ、同時に大量に摂取すると二度と目覚めることはありません。それらは解毒剤が効きません」

 私は先ほど見せた小瓶の毒であることを説明する。まさか、フェーブ王で実践することになるとは思っていなかったが、ここに倒れていることが証明になる。

 私はだんだん鼓動が早くなるのを感じて、思わずクレイグの手をとった。

「クローディア、何か飲まされたのか? 苦しそうだが……」

 クレイグは、私の口紅のついたワイングラスを見ると、チッと舌打ちをした。

「ク、クレイグ……ワインに仕掛けられていて。でも、飲まないと油断させられなくて……」

 はぁ、はぁとだんだんと息が荒くなる。毒に慣らしている身体だけれど、早く吐き出すか何かしなければいけない。

「水……、水が」

「わかった」

 そう言って、クレイグは水差しの水をコップに含むと、私に飲むように口元に持ってきた。だが、受け取る力も飲む力もでない。それを見た彼は、グイっとコップの水を飲むと、私に口移しで飲ませてくれる。

 ゴクッ、ゴクッと飲むと、また口移しで飲ませてくれる。その間、ダストン殿下は何かを考えるようにして床に横たわる陛下を見ていた。

「殿下、遅効性の毒を使えば一日、眠らせることができます」

 そう言って、私は自分のスカートの中に忍ばせていた毒針を取り出した。これがそうです、と伝えると殿下は「刺してくれ」と私に命じた。

 もう一度、首の裏にそれを刺すと、またしてもピクッとフェーブ王の身体が揺れた。即効性で眠らせた後、遅効性を使えば効果は長い。

「殿下、後のことはお任せします。私たちの提案を、どうかお考え下さい」

 そう伝えると、殿下は「わかった」と言って私達の方を向いた。

「クローディア殿、媚薬を盛られたのであろう。陛下は短絡的に考えすぎる。どうせクローディア殿を襲えばその宝が手に入るとでも思ったのだろう。情けない……」

 そう言って立ち上がると、殿下はクレイグに「どの部屋がいいか」と尋ねられた。

「殿下、至急馬車を用意してください。王宮に私たちが残れば、疑いがかかります。それは後々、良くない噂となるでしょう」

 そう言ってクレイグは私を横抱きにすると立ち上がり、殿下の指示を受けた者と一緒に歩き始めた。私はだんだんと苦しくなっていく呼吸をはくはくとさせながら、クレイグの手のぬくもりを求めるようになる。

 頭の中が痺れ始めた時には、馬車は私たちの宿泊しているホテルに到着していた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

伯爵は年下の妻に振り回される 記憶喪失の奥様は今日も元気に旦那様の心を抉る

新高
恋愛
※第15回恋愛小説大賞で奨励賞をいただきました!ありがとうございます! ※※2023/10/16書籍化しますーー!!!!!応援してくださったみなさま、ありがとうございます!! 契約結婚三年目の若き伯爵夫人であるフェリシアはある日記憶喪失となってしまう。失った記憶はちょうどこの三年分。記憶は失ったものの、性格は逆に明るく快活ーーぶっちゃけ大雑把になり、軽率に契約結婚相手の伯爵の心を抉りつつ、流石に申し訳ないとお詫びの品を探し出せばそれがとんだ騒ぎとなり、結果的に契約が取れて仲睦まじい夫婦となるまでの、そんな二人のドタバタ劇。 ※本編完結しました。コネタを随時更新していきます。 ※R要素の話には「※」マークを付けています。 ※勢いとテンション高めのコメディーなのでふわっとした感じで読んでいただけたら嬉しいです。 ※他サイト様でも公開しています

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

婚約者の本性を暴こうとメイドになったら溺愛されました!

柿崎まつる
恋愛
世継ぎの王女アリスには完璧な婚約者がいる。侯爵家次男のグラシアンだ。容姿端麗・文武両道。名声を求めず、穏やかで他人に優しい。アリスにも紳士的に対応する。だが、完璧すぎる婚約者にかえって不信を覚えたアリスは、彼の本性を探るため侯爵家にメイドとして潜入する。2022eロマンスロイヤル大賞、コミック原作賞を受賞しました。

悪役令嬢は皇帝の溺愛を受けて宮入りする~夜も放さないなんて言わないで~

sweetheart
恋愛
公爵令嬢のリラ・スフィンクスは、婚約者である第一王子セトから婚約破棄を言い渡される。 ショックを受けたリラだったが、彼女はある夜会に出席した際、皇帝陛下である、に見初められてしまう。 そのまま後宮へと入ることになったリラは、皇帝の寵愛を受けるようになるが……。 「悪役令嬢は溺愛されて幸せになる」というテーマで描かれるラブロマンスです。 主人公は平民出身で、貴族社会に疎いヒロインが、皇帝陛下との恋愛を通じて成長していく姿を描きます。 また、悪役令嬢として成長した彼女が、婚約破棄された後にどのような運命を辿るのかも見どころのひとつです。 なお、後宮で繰り広げられる様々な事件や駆け引きが描かれていますので、シリアスな展開も楽しめます。 以上のようなストーリーになっていますので、興味のある方はぜひ一度ご覧ください。

【完結】8年越しの初恋に破れたら、なぜか意地悪な幼馴染が急に優しくなりました。

大森 樹
恋愛
「君だけを愛している」 「サム、もちろん私も愛しているわ」  伯爵令嬢のリリー・スティアートは八年前からずっと恋焦がれていた騎士サムの甘い言葉を聞いていた。そう……『私でない女性』に対して言っているのを。  告白もしていないのに振られた私は、ショックで泣いていると喧嘩ばかりしている大嫌いな幼馴染の魔法使いアイザックに見つかってしまう。  泣いていることを揶揄われると思いきや、なんだか急に優しくなって気持ち悪い。  リリーとアイザックの関係はどう変わっていくのか?そしてなにやら、リリーは誰かに狙われているようで……一体それは誰なのか?なぜ狙われなければならないのか。 どんな形であれハッピーエンド+完結保証します。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

処理中です...