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第二章

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 気持ちのいい天気だ。晴れていて、暑すぎない。これで一人であればもっと最高だ。

「ディー、次はあの店が面白そうだ」

 隣にいるのはエール王国の次期国王、スーレル王太子殿下である。金色のふわふわの髪を今日は帽子の下に入れ、白シャツにベストとトラウザーズを着ている。その姿はどこか高貴な雰囲気を醸し出しているが、着ているものは庶民のものだ。

 お互いにディー、スール様、と呼び合うことにして歩いている。

「スール様、もうお土産は先ほども買いましたよ」

 今日の私は動きやすいようにズボンにシャツとベスト、といつもの男装だ。もちろん毒針に痺れ薬、火薬などの暗器もこれでもか、と体中につけているが、どうかこれを使わないで済むようにと祈るしかない。王太子殿下が襲われるようなことがあれば、それこそ外交問題となってしまう。

「だが、私の愛しの婚約者はこれだけでは許してくれないよ。もっと愛を伝えたいのだ」

「はいはい、スール様は素晴らしいですよぉ」

 この殿下、なかなかの愛妻家になるであろう。もう既に婚約者にメロメロである。さっきは宝飾店に寄って大振りの宝石のついたブローチを購入していた。

「ディーもこうしたブローチをクレイグから貰ったか? 最近の流行りだそうだ」

 どうやら、ブローチの裏側に愛のメッセージを刻印して渡すことが、恋人同士の間で流行しているという。まだパンツを贈り合うよりもいいような気がする。健全だ。

「そうでしたか。スール様、クレイグからは特に貰っていませんが、それよりも先を急ぎましょう」

「ははっ、クレイグは昨日ディーにプロポーズしたのではなかったのか? その時に何も渡さなかったのか?」

「ええ、何も受け取っていませんよ」

 動揺しながらも頷いてしまう。どうして殿下は私が彼からプロポーズされたことを知っているのだろうか。

「そうか、クレイグが朝の会合で宣言していたからな。ディーにプロポーズしたと。ははは」

 クレイグは一体どんな顔で殿下に伝えたのだろうか。もともと同級生だった二人だから、長い旅程で随分と仲良くなったらしい。未来の公爵である私の夫となるクレイグとしては、もちろん良い関係を築きたいだろうが、どうやらクレイグは殿下に対して物おじしないで話をする。そこを気に入られたようにも思う。

「その通りですが、多分彼のことですから。今日帰れば花束が届いているように思います」

「そうだな、ディーのもう一人の婚約者を見て、ようやくアイツも尻に火がついたか」

 昨夜の二人、クレイグとレーヴァン。その際立つ容姿から当然といえばそうなのだが、二人は注目を浴びていた。その真ん中にドレスを着た私がいたのだから、噂話にならないわけがない。

 はぁ、こんなことになるならこの話は断れば良かった。まさか二人が出会うとは思っていなかった。

 そう言いながらも私は今朝耳に付けたサーモンピンクのピアスをつい触ってしまう。この色はレーヴァンが日の下に立った時に彼の赤い髪がうっすらとピンクに変わる、その色にそっくりなのだ。私は早速身に着けていた。





「お姉さま! こんなところでお会いできるなんて! 運命ですわっ」

 スーレル殿下と二人でいるところに、なんと私のファンのひとりであるルフィナ嬢が声をかけてきた。彼女も王都内を散策しているのか、庶民らしいワンピースに、先日教えてくれたブルーラベンダー色の髪飾りをしている。そのせいか、いいところのお嬢さまのような雰囲気を醸し出す彼女は少し危うく見える。

「ルフィナ嬢、ごきげんよう。奇遇だね、こんなところで会えるとは」

「はいっ、とっても嬉しいですわっ! ええっと、お姉さまはあの店をご覧になって?」

 そういって彼女は私の腕を引っ張っていくと、その先に見えるのは女性用下着を扱う専門店であった。

「あのルフィナ嬢。今日はこちらの友人を案内しなくてはいけなくて。君の相手はまた今度させてもらうから」

「お姉さま、ほんの、ほんの少しでいいのですっ、一度一緒にこの店に来たかったのですっ」

 ルフィナ嬢にしては珍しく、私に腕を絡ませてくっついてくる。スーレル殿下の案内をしなくては、と思いつつも可愛い子猫の彼女を無碍には出来ない。

「ディー、私のことはいいから、店に行ったらいい。私は通りを見ながら待っているから」

「スール様、申し訳ありません」

「いいよ、近くに護衛はいるし、君のその慌てている顔も見ものだからね」

 殿下の許可がおりたので二人で移動し、共に下着専門店に入る。スーレル殿下は外で待ちながら、どうやら人々の行きかう様子を面白そうに眺めている。

 店に入ったところで私は彼女に話しかけた。

「ルフィナ嬢、どうして私と殿下を引き離すようなことをするの?」

 今日の彼女の動きは不自然なところが多い。彼女がスーレル殿下とわかって邪魔をしているのか、聞きたかったのだ。

「クローディアお姉さま、それは」

 彼女が答えかけたその時、トンっと首の後ろを叩かれる。
 しまった、油断していた。意識を失いながらもルフィナ嬢は大丈夫か、とその姿を目で追うと彼女は私を攻撃したであろう黒装束の男と話をしている。

 ——まさか、彼女が仕組んだの?

 がくり、と膝が折れると私はその場に横たわる。身の危険以上に殿下を守らなければ、と思うが意識はすぐに落ちてしまった。


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