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第一章

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 私は母から急に呼び出された。

「クローディア、あなたに王宮から呼び出しがかかったわ。クレイグと一緒にとあるけれど、何かしらね」

 招待状は王宮の宰相からだった。不思議に思いながらも王宮へ行く準備をする。

 王宮は私にとって身近な場所だった。母は現エール国王の従妹にあたるので、王子や王女たちと親族関係になり遊びに付き合わされていた。今でこそ皆それぞれ結婚しているので、夜会で時々会うくらいだけれど王族とは親しくしている。

 王宮からの迎えの馬車にはクレイグが乗っていた。黒のジュストコールを着た彼は、いつも通りシダーウッドの香りを身に着けている。その彼が私をエスコートする為に玄関まで降りて来た。

「おはよう、クローディア。今日の君も美しいね、まるで百合の花が咲いているようだ」

 普段と変わらない薄い微笑みを顔に乗せてクレイグが挨拶をしてくれる。

「おはようクレイグ、お迎えありがとう。今日はよろしくね」

 彼は私の方へ腕を出してエスコートをする。こうした仕草をする彼は完璧な紳士だ。

「ねぇ、クレイグ。今日は何故私が呼び出されたのかしら」

 クレイグは商会の仕事の関係で、諸外国の情報に詳しい。その情報のために時々王宮に呼び出されていると、聞いたことがあった。

「多分王太子殿下のブリス王国訪問のことだと思う。出発はもうすぐのはずだ」

「えっ、殿下がブリス王国に行くの? 知らなかった」

「まぁ、極秘ではないが王太子殿下の外遊の一環だ。友好条約の再締結ではないかな」

 クレイグは情報通だ。今の時代は情報が一番利益を生むと信じているから、諜報員を様々なところに派遣していると言っていた。

「そっか、それが私と関係しているのかな」

「この国では君ほどブリス王国に詳しい者はいないから、呼ばれたのかもしれないな」

 馬車に乗り王宮に到着すると、私たちは広い応接室に案内される。さすが国土は狭くとも歴史のある王宮だ。調度品は美しく手入れされており、使用人たちの立ち姿も美しい。高い天井にまっすぐに伸びる白い柱は、それだけで威厳がある。

「宰相様、本日はお招きくださりありがとうございました。クローディアでございます」

 今日はドレスなのでカーテシーをする。クレイグも礼をして敬意を表していた。

「いや、こちらこそ急遽お呼びすることになり申し訳ない。実は王太子殿下のブリス王国の訪問の件についてお願いしたいことがある」

「はい、何でしょうか。私でわかることでしたらいいのですが」

「あぁ、実は王太子殿下と一緒に訪問する予定であった殿下の婚約者に不幸があり、急遽葬儀に出るために訪問を取りやめることになった。ついては殿下のパートナーとして、公式行事等に出席してもらいたい」

 王族が外国を訪問する際は夫婦、または婚約者と一緒なのが外交上望ましい。今回は代理として、親族でブリス王国に馴染みのある私が殿下のパートナーとして急遽選ばれたようだ。但し、殿下と恋仲であるとの噂を立てないために、私の婚約者であるクレイグも一緒に訪問するように、とのことであった。

「どうか、シュテファーニエ公爵令嬢として同行していただけないか。あなたがブリス王国でも地位のある公爵令嬢であることは知っている。二つの国を行き来するクローディア嬢だからこそ、今回の外交員としてお願いしたいのだ」

 宰相様は必至になって私を説得してきた。私はチラリと横にいるクレイグを見ると「自分で決めろ」とばかりに口角をくっと上げる。……やっぱり意地悪だ。

 行きたくないわけではないけれど、ブリス王国にいる時の私は基本的に男装をしている。今回は王太子殿下のパートナーとして行くと、当たり前のことだが女装になる。それを父が許すだろうか。それにエール王国の滞在期間が短くなるが母は許してくれるだろうか。

「ブリス王国の滞在は一週間を予定している。クローディア嬢の持っている知識と人脈を、どうか殿下に教えてほしい。この通りだ」

 宰相様はこんな小娘の私に頭を下げた。

「わかりました宰相様。私で出来ることがありましたら、サポートさせていただきます」

「おお、そうか。それはありがたい。アールベック殿もよろしいか? 一緒に同行をお願いしたいが」

「えぇ、私の方も大丈夫ですよ。これを機会にブリス王国で会いたい人もいますので」

 その言葉を聞いて私はドキン、と心臓が鳴る。もしかして、もしかしたら。クレイグが会いたい人というのはレーヴァンのことだろうか。

 でも今レーヴァンは辺境に行っている時期だから、王都にはいない。どうやらブリス国に滞在する予定期間は学園の休暇中なので、私の知り合いも王都から離れがちだ。
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