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第一章

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 今度はレオンが驚いたのか口をポカンと開けている。

「な、レーヴァン指導官はやっぱりヘタレ……」

 あろうことか、レオンは再度俺をヘタレ呼ばわりしてくる。だが、確かに婚約者だから結婚するのは当たり前すぎて、これまで何もしていない。

「も、もしかして指導官はクローディアとデートもしたことがない、とか言わないでくださいよ」

 レオンは更に俺に問いかけるが、言われてみればこれまで恋人同士のようなことはしていない。訓練や鍛錬ばかりだ。

「子どもの頃はともかく、クローディアが騎士科に入ってからは二人で出かけたことなど、うん、ないな」
「なにやっているんですか、結婚する相手なのに。それとも貴族の常識なんですか?」

「そ、そういうことではないが、幼い頃からの婚約者だから、な。特に意識していなかった」
「そりゃまた、クローディアもかわいそうに」

「ん? レオン、どういうことだ?」
「だって、考えてもみてくださいよ。女の子は結婚に夢を持つものですよ。その結婚のためのプロポーズもない、デートもしたことがない、もしかして髪飾りとかのプレゼントも贈ったことがないんじゃ……」

 思い返してみれば、クローディアをそういう意味での女性として扱ったことがない。誕生日はいつもエール王国に行っているから、そういえばプレゼントを意識したことがない。

「まて、レオン。俺はもしかしたらマズイ状態なのか?」

 思わず年下のこいつに聞いてしまうほど、俺は焦った。大いに焦った。

「そうっすねー、婚約破棄手前じゃないっすか? アイツの親父さんの気が変わればすぐ破棄ですよ」

 なんだ、こいつは。いきなり態度が悪くなるが、それでも今はこいつの意見が聞きたい。

「レオン、もうちょっと詳しく教えてくれ。俺はどうしたらいい?」
「まぁ、この辺境地で人気の髪飾りとかをまずは買って、成人のお祝いにして渡すのはどうっすか? 俺なら花もつけるかな。でもって、二人で夜景の綺麗なレストランに行って、成人おめでとうを兼ねて乾杯するっすね。仕上げは指輪を用意しておいて、プロポーズするかな」

 意外にもレオンはやたらと女性の喜びそうなことに詳しかった。聞くと、上に姉が三人もいるから自然と耳に入ってくるらしい。姉情報によると、想いが通じていると思って言葉や態度で表さない男は、いくら顔や性格が良くてもダメ男になるらしい。

「レーヴァン指導官、ちゃんと好きって言わないと、クローディアの奴は天然の鈍感だから、なんか途方もない誤解をして振られる可能性もあると俺は思いますよ。今頃エール王国で、いい男に言い寄られてフラフラしているかもしれないっすね」

 うっ、また痛いところを突かれる。

「まぁ、婚約者ってことに胡坐をかいていないで、好きな女にはきちんと手間と愛情をかけないと、ってことっすね」
「そうか、そうだよな。手間と愛情か」
「はい。あ、このコロッケ貰うっすね。指導料代わり」

 レオンはサッと俺の皿から残り一つとなっていたコロッケを奪う。こいつ! と思うが確かにレオンのアドバイスは無視できない説得力がある。

「でもなぁ、女物を買う店なんぞ俺は知らん。レオン、お前心当たりがあるか?」
「あー、さすがに俺もここは初めてだから、わからないっすけど。でも、あの領主の娘さんの、なんて言ったっけ、サーシャ様なら詳しそうですね」

 サーシャ、サーシャ、と名前を聞いても誰なのか思い浮かばない。そのことを正直に伝えると、レオンはまたも驚いた顔をした。

「さすがレーヴァン指導官、あんなに可憐で美しい騎士団のマドンナを知らないなんて! いやぁ、マジでクローディアにぞっこんっすね」

 レオンは笑いながらも、俺にサーシャ嬢を教えてくれた。彼女は確かにマドンナと呼ばれるほど美しい造作の顔立ちだ。黒い髪に透き通るような白い肌をしている。まぁ、俺にしてみればクローディアが一番なのであまり関係はない。

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