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第一章
1-7
しおりを挟む翌日から私はレオンを探すけれど、どこにも見当たらない。
「もうっ、レオンと打ち合いしたいんだけど。もうすぐ休暇に入るから、みんな帰省で忙しいのかなぁ……」
私の目的はまだ、叶えることができていない。他にも誰かいないかと探していると、廊下の向こうからレーヴァンがやってくるのが見えた。
「レーヴァン! 昨日ようやく勝てたから、もうレオンと打ち合いしてもいいんでしょ? それなのに……誰も捕まらない。ねぇ、レーヴァンが何か言ったの?」
彼は手を額に当てると、顎を上げて上を向いた。……怪しい。
「レーヴァン。答えて」
低い声を出して、眉をひそめながら私は彼に顔を近づけた。背の高いレーヴァンに近づくため、私は懸命に背伸びをしている。すると廊下の壁に背をつけた彼は私を見下ろしながら話してくれた。
「クローディア、レオンはお前と手合わせをすると俺が怒ると思っている。だから避けているのだろう。大丈夫だ、俺からレオンに言っておく。ただし、手合わせする時は俺の目の前で行うこと」
「もうっ、レーヴァンからレオンに伝えてね。そうすれば、彼も安心して私の相手をしてくれると思うから」
少しホッとして見上げると、レーヴァンは私の肩に両手をおいて懇願するように顔を近づけた。
「クローディアっ」
「はっ、はいっっ」
レーヴァンは真剣な目をして、私を見つめている。ゴクリ、と彼は喉をならした。
「クローディア。もう、あの技は使うな。いいか、誰にも使ってはいけない。わかったか」
「あの技って?」
「昨日の、俺に繰り出した技だ」
「えっと、普通に切りつけただけだよ?」
首をコテン、と傾けてレーヴァンを見上げると、彼はまた「うっ」と言って私から目を逸らした。
「……その……おっ……ポ……だ」
小さい声で、ごにょごにょと言っている。よく聞き取れない。
「え?」
「おっぱいポロリだ!」
顔を赤くしながらレーヴァンは言い切った。聞いた私も思わず赤くなってしまう。
「はっ、はい。もう、しません」
あれは相手がレーヴァンだったから出来た技なのに。彼以外にあんな破廉恥なことは出来ない。
「……でも、レーヴァンが特別だからだよ」
「俺が、特別なのか?」
「当たり前でしょ」
普段は意識していないけれど、彼は私の婚約者なのだ。
思わず俯いた私の顎をすくうようにレーヴァンが持ち上げると、視線の先で彼は嬉しそうに微笑んでいた。
「そうか、特別か」
そう呟くと、レーヴァンは顔を近づけて私の額にやわらかい唇を押し付けてくる。
「えっ」
いつも一緒にいるといっても、レーヴァンは私に不用意に触れることはなかった。
額とはいえ、キスされたことに思わず心臓がトクリと高鳴る。
「特別なんだろう?」
どこか余裕のある顔をしたレーヴァンは、私の頭をくしゃりと撫でた。
「も、もうっ!」
「ほら、探しに行くんだろ。一緒に行ってやるよ」
さっきまで赤くなっていたのに、もう普段の顔を取り戻したレーヴァンは颯爽と歩いていく。
広い背中を追いかけながら、私の心の中には温かいものが広がっていた。
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