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第三章
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「あの、もちろん忙しいのは知っているんですが、その日を恋人同士の期限にしてください」
このお祭りの話を聞いてから、うずうずしてしまう。メイティーラさん達も、このお祭りの日に二人の仲が進展したという。
なんてロマンチック! その日にもう一度、私の気持ちをウィルティム様に、ウィルストン殿下に伝えようと思ったのだ。
それに、転生した記憶のことも伝えよう。こんな変な記憶のある私と結婚なんて、やっぱり嫌がるかもしれない。そうしたら、もう、一緒にいることはできない。
それに、私たちは今まで恋人らしいことをあまりしていない。1日デートしただけで、もっと恋人らしいことをしてみたかった。
「リアリム、そうか。うん、いいよ。わかった、何とかしよう」
そう言ったウィルティム様は、「では、ちょっと用意してくるよ」と言って、一旦外出された。私の無事を伝えることや、宿泊先を整えてくると言っていた。
「あら、お泊りになるなら、我が家に泊っていただければ良かったのに」
メイティーラ様は、ウィルティム様がしばらくこの都に滞在すると聞いて、ありがたくも部屋を提供してくれると言ってくれた。
でも、本当は第一王子だから、護衛の方とかいろいろとあるのかもしれない。この都にも王族用の邸宅があると言っていたから、そちらを使うのだろう。
お祭りの日まで一緒にいたいなんて、無理、言っちゃったかな。
でも、きっと王都に帰ったら私たちの関係は変わる。その前に、ただの騎士であるウィルティム様の恋人として過ごしたかった。
「リア、用意が整ったよ。さぁ、移動しよう」
「えっ、私もですか?」
戻って来たウィルティム様は、なんと私もこのゴウ侯爵邸を出て、一緒に王族用の邸宅に移動しようと言って来た。
「侯爵夫妻、リアリムがお世話になりました。これからは私の方で、看病したいと思います」
彼は身なりを整えて、きっちりとした騎士の制服を着て侯爵邸に再び現れてすぐに、ゴウ侯爵に挨拶をしたのだ。
「リアリム嬢、こちらはいつまでも大丈夫だが、婚約者の方がそう言われているのであれば、そちらの邸宅に移ることも出来るが、どうしたいか言って欲しい」
侯爵に問われると、私は迷わずに「ウィルティム様の邸宅に移ります」と答えた。彼と一緒にいられる時間は、長いようで短い。一緒に過ごすことができるのであれば、その方が嬉しい。
「そうか、寂しくなるね。でも、またいつでも来て欲しい」
数日間であったが、お世話になったゴウ侯爵夫妻に別れの挨拶をする。
元々、街道に倒れていたのを運び込まれた私だったから、荷物など何もない。
最後に夕食を一緒に、と言われた私たちであったが、私が必要以上に疲れるといけないので、とウィルティム様は丁寧に断りを告げた。
「またぜひ、侯爵夫妻とは一緒に晩餐を共にしたいです」
そう告げると、「ではその機会に」と言って二人と別れた。
もう、足の調子は良くなったと伝えても、ウィルティム様は私を横抱きにして移動した。
「ウィル、ウィル、恥ずかしいよ、大丈夫だよ。私、杖があれば歩けるから、」
「リーア、俺が杖替わりだと思えばいいよ。それに、知っているかい? 新しい家に入る時、夫は妻をこうして横抱きにして入るのがこの街の言い伝えだよ」
そんな、新婚家庭であれば可能だろうけど、と思いつつも、そう聞くと嬉しくてポッと頬が染まる。
邸宅で身体を洗って来たのであろう、ウィルティム様からはスッキリとした柑橘系の香りがした。
「リア、あぁ、待ちきれないな。でも、先に何か食べよう。寝室に用意させるから」
馬車に乗っても常に身体のどこかが密着している。指を絡めて私の手を握り締める彼の手を、私もギュッと握ると、蕩けるような視線が降りてきた。
邸宅に着くと、そこに急遽集められたメイド達に支度を言いつける。護衛の為の騎士も揃っていた。準備の早さに驚くと、「こういう時こそ、身分に役立ってもらわないとね」と彼は答えた。
これではまるで、二人きりで過ごすプレ・ハネムーンみたいだ。
終始ご機嫌な顔をしたウィルティム様を見上げながら、私も嬉しくなって期待でドキドキしている。
ほんのちょっぴり、攫われて良かったのかも、と思ってしまう私だった。
「なんだか、風のように去ってしまいましたね。あなた、」
「メイ、寂しいのはわかるよ。君はとても丁寧に対応してくれたから、ね」
侯爵夫妻は慌ただしく屋敷を後にした二人を思い出す。
「でも、良かったのでしょうか。騎士様の身元など、確認しませんでしたが。あなた、何かご存じなの?」
メイティーラとしては、可愛がっていた娘が急にいなくなってしまった感傷に、ついつい文句を言いたくなった。
「メイ、あのお方達のことは、今は詮索してはいけないよ。本当に、未来の国王、皇后陛下になるかもしれないとは、とても思えないけれど」
最後の方は、妻に聞こえないようにゴウ侯爵はぼそぼそと呟いた。
たまたま、街道に気を失って倒れていた女性を助けたつもりが、まさか、第一王子の意中の女性であったとは。女性の実家に便りを出したつもりが、まさか王子本人が迎えに来たことも驚きだった。
二人の様子をみると、どうやら両想いであることは間違いない。お互いを見つめ合う瞳は、信頼しあっている者同士が醸し出すものだった。
きっと、近いうちに慶事として知らせが来るだろう。その時に、メイティーラには彼らのことを知らせようと、普段は無表情なゴウ侯爵は、口角をニッと上げて、その時を楽しみにすることにした。
このお祭りの話を聞いてから、うずうずしてしまう。メイティーラさん達も、このお祭りの日に二人の仲が進展したという。
なんてロマンチック! その日にもう一度、私の気持ちをウィルティム様に、ウィルストン殿下に伝えようと思ったのだ。
それに、転生した記憶のことも伝えよう。こんな変な記憶のある私と結婚なんて、やっぱり嫌がるかもしれない。そうしたら、もう、一緒にいることはできない。
それに、私たちは今まで恋人らしいことをあまりしていない。1日デートしただけで、もっと恋人らしいことをしてみたかった。
「リアリム、そうか。うん、いいよ。わかった、何とかしよう」
そう言ったウィルティム様は、「では、ちょっと用意してくるよ」と言って、一旦外出された。私の無事を伝えることや、宿泊先を整えてくると言っていた。
「あら、お泊りになるなら、我が家に泊っていただければ良かったのに」
メイティーラ様は、ウィルティム様がしばらくこの都に滞在すると聞いて、ありがたくも部屋を提供してくれると言ってくれた。
でも、本当は第一王子だから、護衛の方とかいろいろとあるのかもしれない。この都にも王族用の邸宅があると言っていたから、そちらを使うのだろう。
お祭りの日まで一緒にいたいなんて、無理、言っちゃったかな。
でも、きっと王都に帰ったら私たちの関係は変わる。その前に、ただの騎士であるウィルティム様の恋人として過ごしたかった。
「リア、用意が整ったよ。さぁ、移動しよう」
「えっ、私もですか?」
戻って来たウィルティム様は、なんと私もこのゴウ侯爵邸を出て、一緒に王族用の邸宅に移動しようと言って来た。
「侯爵夫妻、リアリムがお世話になりました。これからは私の方で、看病したいと思います」
彼は身なりを整えて、きっちりとした騎士の制服を着て侯爵邸に再び現れてすぐに、ゴウ侯爵に挨拶をしたのだ。
「リアリム嬢、こちらはいつまでも大丈夫だが、婚約者の方がそう言われているのであれば、そちらの邸宅に移ることも出来るが、どうしたいか言って欲しい」
侯爵に問われると、私は迷わずに「ウィルティム様の邸宅に移ります」と答えた。彼と一緒にいられる時間は、長いようで短い。一緒に過ごすことができるのであれば、その方が嬉しい。
「そうか、寂しくなるね。でも、またいつでも来て欲しい」
数日間であったが、お世話になったゴウ侯爵夫妻に別れの挨拶をする。
元々、街道に倒れていたのを運び込まれた私だったから、荷物など何もない。
最後に夕食を一緒に、と言われた私たちであったが、私が必要以上に疲れるといけないので、とウィルティム様は丁寧に断りを告げた。
「またぜひ、侯爵夫妻とは一緒に晩餐を共にしたいです」
そう告げると、「ではその機会に」と言って二人と別れた。
もう、足の調子は良くなったと伝えても、ウィルティム様は私を横抱きにして移動した。
「ウィル、ウィル、恥ずかしいよ、大丈夫だよ。私、杖があれば歩けるから、」
「リーア、俺が杖替わりだと思えばいいよ。それに、知っているかい? 新しい家に入る時、夫は妻をこうして横抱きにして入るのがこの街の言い伝えだよ」
そんな、新婚家庭であれば可能だろうけど、と思いつつも、そう聞くと嬉しくてポッと頬が染まる。
邸宅で身体を洗って来たのであろう、ウィルティム様からはスッキリとした柑橘系の香りがした。
「リア、あぁ、待ちきれないな。でも、先に何か食べよう。寝室に用意させるから」
馬車に乗っても常に身体のどこかが密着している。指を絡めて私の手を握り締める彼の手を、私もギュッと握ると、蕩けるような視線が降りてきた。
邸宅に着くと、そこに急遽集められたメイド達に支度を言いつける。護衛の為の騎士も揃っていた。準備の早さに驚くと、「こういう時こそ、身分に役立ってもらわないとね」と彼は答えた。
これではまるで、二人きりで過ごすプレ・ハネムーンみたいだ。
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ほんのちょっぴり、攫われて良かったのかも、と思ってしまう私だった。
「なんだか、風のように去ってしまいましたね。あなた、」
「メイ、寂しいのはわかるよ。君はとても丁寧に対応してくれたから、ね」
侯爵夫妻は慌ただしく屋敷を後にした二人を思い出す。
「でも、良かったのでしょうか。騎士様の身元など、確認しませんでしたが。あなた、何かご存じなの?」
メイティーラとしては、可愛がっていた娘が急にいなくなってしまった感傷に、ついつい文句を言いたくなった。
「メイ、あのお方達のことは、今は詮索してはいけないよ。本当に、未来の国王、皇后陛下になるかもしれないとは、とても思えないけれど」
最後の方は、妻に聞こえないようにゴウ侯爵はぼそぼそと呟いた。
たまたま、街道に気を失って倒れていた女性を助けたつもりが、まさか、第一王子の意中の女性であったとは。女性の実家に便りを出したつもりが、まさか王子本人が迎えに来たことも驚きだった。
二人の様子をみると、どうやら両想いであることは間違いない。お互いを見つめ合う瞳は、信頼しあっている者同士が醸し出すものだった。
きっと、近いうちに慶事として知らせが来るだろう。その時に、メイティーラには彼らのことを知らせようと、普段は無表情なゴウ侯爵は、口角をニッと上げて、その時を楽しみにすることにした。
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