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第二章
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ここで、興奮してはいけない。相手の思うつぼだと思うが、さすがにユウ君、ユゥベール殿下の悪口になると冷静ではいられなくなってきた。
「でも、あの引きこもり殿下が夢中になって、ますます淫らな絵を描かれているとのことですわ、なんて厭らしい」
「えぇ、絵を描くことしかできない王子なんて、乱れた方とご一緒になるのがよろしくてよ」
イザベラ様とウィルストン殿下をくっつけたいのだから、自然と私とユゥベール殿下をくっつけようとしている。
ここまで言われてしまっては、さすがに頭にくる。
何をどう言えば一番効果的か考えていると、ピチャッという音がして私の目の前が真っ赤になった。
――赤ワインをかけられた
こんなドラマのようなこと、本当に起こるんだ、と妙に冷静な自分がいる一方で、せっかく殿下に贈ってもらったドレスが赤く染まっている。
ふと目を上げると、怒りに満ちた顔をしたイザベラ様がいた。
「あら、失礼。手元が滑ってしまいましたわ、ごめんなさいね、あちらで着替えて来られたら? この場には相応しくなくてよ」
ホホホ、とまるで高笑いするかのような声が聞こえる。
これまで黙って聞いていたけれど、これは酷い。
これまで彼女の後ろにいた。彼女を心地よくするための言葉を選んで、彼女を褒めてきた。
それなのに、この仕打ちなのか。ほんの少しでも、私の話を聞く気もなかったのか。そっちがそうなら、
私はすぐそばのテーブルにあった白ワインのグラスを手に持つと、彼女の顔をめがけてそれをかけた。
――バシャ
まさか、私がイザベラ様に向かってワインをかけるとは思いもしなかったのだろう、周囲の人たちがシーンと静かになった。
ざわついていた会場も、何事かと思いこちらを見る。だが、わなわなと震えるイザベラ様よりも、赤ワインを被った私の方がひどい有様だ。
「貴方、この私に、何をしたかわかっているの?」
まるで初めて侮辱されたように顔を歪めて私をみるイザベラ様。
あぁ、私は愚かにもこんな人の後ろにいれば、平和な人生を送ることが出来ると思っていたのだ。自分に呆れてしまう。
「されたことを、同じようにしただけですわ。イザベラ様こそ、あちらで着替えられたらよろしいかと」
つい、衝動的にワインをかけてしまった。
これで社交界での死亡フラグは立ったも同然だが、もうどうでもいい。
そんな投げやりな思いに駆られてしまった私は、彼女をえぐる言葉を更に追加した。
「自分の思う通りに行かないことも、受け止めていくことが真の淑女ではなくて? イザベラ様。選ばれたのは、誰なのでしょうね」
私の言葉に、何も言えずさらに顔を歪めている。
悔しい、その気持ちのまま彼女は私の頬をめがけて手を出してきた。
――パァァン――
私は頬をぶたれた。親でさえ、私の頬を叩くことなどなかった。痛みよりも驚きが勝り、頬を抑えて彼女を見る。
プライドが傷ついたのだろう、私は叩かれた痛みもあるが、彼女をそこまで突き動かしてしまったのは、私の至らない言動の為だ。
「イザベラ様」
「た、たかが伯爵令嬢のくせにっ」
昂ったイザベラ様は、そう呟いて私を見下げている。
だが思っていた以上に、彼女が頬を叩いた音はホールに響いていた。騒ぎを聞きつけた人々が駆け付けてくるのが見える。
ど、どうしよう、ただでさえ、今夜は注目を浴びている私だ。その私が赤ワインを浴びせられ、そして頬を叩かれている。
私の目の片隅に、駆け寄ってくる二人の男性が見える。一人はディリスお兄様で、もう一人は、ウィルストン殿下だった。
ここで殿下に駆け寄ってしまうと、騒ぎはもっと大きくなるだろう。私は思わずディリスお兄様の方へ駆け寄った。
「お、お兄様。帰りましょう、ごめんなさい、我慢できなくて」
お兄様の腕をとると、私の頬がぶたれて赤く、またドレスがワインを被っているのをみて、お兄様は一瞬顔をくしゃっと崩した。
そして私をぐっと引き寄せると、「あぁ、帰ろう。一緒に帰るぞ」そう言って、その場を離れさせてくれた。
ふと、目を戻すと私とお兄様の姿をみた殿下が、チャーリー様に抑えられるように止められてその場に立っているのが見えた。
イザベラ様もどうやら誰かに連れて行かれ、着替えに行ったのだろう。既にその場にいなくなっていた。
私はお兄様の腕をとりながら、騒ぎを起こしてしまったことを謝った。
「ごめんなさい」
騒然とするホールを後にして、私はディリスお兄様と一緒に馬車に乗り込んだ。
「でも、あの引きこもり殿下が夢中になって、ますます淫らな絵を描かれているとのことですわ、なんて厭らしい」
「えぇ、絵を描くことしかできない王子なんて、乱れた方とご一緒になるのがよろしくてよ」
イザベラ様とウィルストン殿下をくっつけたいのだから、自然と私とユゥベール殿下をくっつけようとしている。
ここまで言われてしまっては、さすがに頭にくる。
何をどう言えば一番効果的か考えていると、ピチャッという音がして私の目の前が真っ赤になった。
――赤ワインをかけられた
こんなドラマのようなこと、本当に起こるんだ、と妙に冷静な自分がいる一方で、せっかく殿下に贈ってもらったドレスが赤く染まっている。
ふと目を上げると、怒りに満ちた顔をしたイザベラ様がいた。
「あら、失礼。手元が滑ってしまいましたわ、ごめんなさいね、あちらで着替えて来られたら? この場には相応しくなくてよ」
ホホホ、とまるで高笑いするかのような声が聞こえる。
これまで黙って聞いていたけれど、これは酷い。
これまで彼女の後ろにいた。彼女を心地よくするための言葉を選んで、彼女を褒めてきた。
それなのに、この仕打ちなのか。ほんの少しでも、私の話を聞く気もなかったのか。そっちがそうなら、
私はすぐそばのテーブルにあった白ワインのグラスを手に持つと、彼女の顔をめがけてそれをかけた。
――バシャ
まさか、私がイザベラ様に向かってワインをかけるとは思いもしなかったのだろう、周囲の人たちがシーンと静かになった。
ざわついていた会場も、何事かと思いこちらを見る。だが、わなわなと震えるイザベラ様よりも、赤ワインを被った私の方がひどい有様だ。
「貴方、この私に、何をしたかわかっているの?」
まるで初めて侮辱されたように顔を歪めて私をみるイザベラ様。
あぁ、私は愚かにもこんな人の後ろにいれば、平和な人生を送ることが出来ると思っていたのだ。自分に呆れてしまう。
「されたことを、同じようにしただけですわ。イザベラ様こそ、あちらで着替えられたらよろしいかと」
つい、衝動的にワインをかけてしまった。
これで社交界での死亡フラグは立ったも同然だが、もうどうでもいい。
そんな投げやりな思いに駆られてしまった私は、彼女をえぐる言葉を更に追加した。
「自分の思う通りに行かないことも、受け止めていくことが真の淑女ではなくて? イザベラ様。選ばれたのは、誰なのでしょうね」
私の言葉に、何も言えずさらに顔を歪めている。
悔しい、その気持ちのまま彼女は私の頬をめがけて手を出してきた。
――パァァン――
私は頬をぶたれた。親でさえ、私の頬を叩くことなどなかった。痛みよりも驚きが勝り、頬を抑えて彼女を見る。
プライドが傷ついたのだろう、私は叩かれた痛みもあるが、彼女をそこまで突き動かしてしまったのは、私の至らない言動の為だ。
「イザベラ様」
「た、たかが伯爵令嬢のくせにっ」
昂ったイザベラ様は、そう呟いて私を見下げている。
だが思っていた以上に、彼女が頬を叩いた音はホールに響いていた。騒ぎを聞きつけた人々が駆け付けてくるのが見える。
ど、どうしよう、ただでさえ、今夜は注目を浴びている私だ。その私が赤ワインを浴びせられ、そして頬を叩かれている。
私の目の片隅に、駆け寄ってくる二人の男性が見える。一人はディリスお兄様で、もう一人は、ウィルストン殿下だった。
ここで殿下に駆け寄ってしまうと、騒ぎはもっと大きくなるだろう。私は思わずディリスお兄様の方へ駆け寄った。
「お、お兄様。帰りましょう、ごめんなさい、我慢できなくて」
お兄様の腕をとると、私の頬がぶたれて赤く、またドレスがワインを被っているのをみて、お兄様は一瞬顔をくしゃっと崩した。
そして私をぐっと引き寄せると、「あぁ、帰ろう。一緒に帰るぞ」そう言って、その場を離れさせてくれた。
ふと、目を戻すと私とお兄様の姿をみた殿下が、チャーリー様に抑えられるように止められてその場に立っているのが見えた。
イザベラ様もどうやら誰かに連れて行かれ、着替えに行ったのだろう。既にその場にいなくなっていた。
私はお兄様の腕をとりながら、騒ぎを起こしてしまったことを謝った。
「ごめんなさい」
騒然とするホールを後にして、私はディリスお兄様と一緒に馬車に乗り込んだ。
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