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妖銃の戦い

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―――しかし、あの皇子、自分の魔力を共有できる石をアイリスに渡すなど、命を共有しているようなものだ。そこまで信頼している、ということか。すごいな。はは、面白くなってきた。

 サボは、アイリスの後ろをつけながら、レオンハルトの渡した赤のピアスのことを考えていた。禁呪にも近いその魔術は、よほど信頼していないと使うことができない。恋愛事で負けたことのないサボだったが、今回は危ういかもなぁ、と、珍しく弱気にもなっていた。

 正式にプロポーズをするなど、30年生きてきて初めてだった。それくらい、本気になっているが、どうやら恋の女神が微笑んでくれるかどうか、ちょっと怪しくなってきたか。

 赤い石の魔力を辿れば、すぐにアイリスの居場所はつかめた。今は・・・スイレン宮に向かっているだろう。そして、その先に待つ重厚な魔力の塊の気配を感じ取った。

「急ぐか。また姫様は、やっかいなことに首を突っ込んでいるようだしな。」

 と、一人でつぶやいた。

◇◇◇◇◇

 アイリスがスイレン宮の入り口に立つと、中から異様な感触があった。ピリピリと肌に刺すような感触。これは、魔窟の森で、魔物に会った時と似ている。

 なぜ、この魔物の感触が、宮殿の中からするのだろうか。―――怪しい。気を張り巡らせて宮殿に入ろうとした時、肩をぽんと叩かれた。

「きゃあぁぁ―――あ?師匠?」

「ちょっと、姫。耳元で大声を出すのは、やめようね。」

 軽口を叩いてくる、普段と変わらない師匠の姿があった。

「師匠、どうして私がここにいると、わかったのですか?」

「姫。その赤いピアスが、姫様の居場所をバッチリ教えていることくらい、気が付こうね。それでもって、行こうとしている先に、どうやら魔物がいる感じがしたから、さ。やっぱり姫を守るナイトの出番かと思うよ。さ、行くよ。」

 そういうと、サボはアイリスの手をさっと取り、先に進んだ。サボがいてくれれば、安心できる。これまでサボが負けた戦を知らない。やる気を無くして、戦線離脱したことは、あるみたいだけど。

 二人が門の中に入ると、スイレンの花の咲き誇る沼地が広がった。宮殿の周囲を囲む沼だ。スイレンの花の季節になると、宮殿がスイレンの花の上に浮かぶように、美しい姿を見せるのであった。

 その沼地から、異様な魔力を感じる。いったい、なぜ、ここに魔物が放たれているのか。

 と、そう思っていた瞬間、左右からシャーッ、シャーッという音をさせた魔蛇達がアイリスを狙って、襲い掛かって来た。

 『プロテクション』

 咄嗟に自分を守るための、魔術を展開する。ピアスの防御魔術の効果もあって、みえない壁がアイリスの周りに完成した。

 バチッ、バチッと魔蛇が壁に当たる。当たっても、すぐに体制を立て直して再度攻撃するため、近づいてくる。気が付くと、何十匹もの魔蛇に囲まれていた。まだ、沼地からは続々と集まってくる感触がする。―――マズイ。

 とにかく、妖銃アレンで撃退するしかない。防御魔法がどこまで有効かわからないが、レオンの魔力を借りている身である。この状況を早く抜け出さないと、魔力枯れになってはたまらない。本当に、いつ魔力が切れるかわからないのが、歯がゆい。

 アレンを構え、狙いを定める。今回は、単純に魔弾丸で行こう。いつものように妖力を練り上げ、魔力を乗せようとするとーーー

ダダダダダダ―――

機関銃のような、連打する爆裂音がした。―――サボであった。

アイリスが反撃できるよう、様子をみていたが、やはりのそのそしている間に、魔蛇が増えてきているのを見て、手助けを始めた。

「姫、ボヤッとしないで、1匹づつでもいいから撃つんだ。大丈夫、この距離なら、外さないでしょ。」

「は、はい。師匠。やってみます。」

 アイリスは再度、妖銃アレンを構えて、魔蛇に狙いを定める。―――ドン、ドン、――ドン。しらみつぶしに、魔蛇を撃っていく。あらかたの魔物はサボが仕留めていたが、荒っぽい銃弾から避けた魔蛇は、アイリスが丁寧に撃ち殺していった。
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