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新しいピアス

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 このお店に来るのは、一か月ぶりだ。アクセサリー・ショップの入り口のドアを開けると、色とりどりの髪飾りや、ネックレスが目に飛び込んできた。以前来た時は、レオンは仮カレなんて、宙ぶらりんな存在であった。今は、婚約者だ。ちょっと危ういけど。

店に入ると、私の目立つ髪の色をみた店員さんが、声をかけてきた。

「お客様、人をお待ちでしょうか?よろしければ、奥にご案内致します。」

 レオンが先に来ていたのだろうか。私は案内されるままに、個室に入る。そこには、私の会いたかった彼がソファーに座り、貴石を手に取ってみているようであった。彼の隣に座ると、ちょっと肩が触れた。

「レオン・・・会えて嬉しいよ。」

 二日前に会ったときは、あれほど婚約できることへの嬉しさでいっぱいだったのに。今は、目の前の障害の大きさに、胸が押しつぶされるようだった。

**********

 個室にいたレオンは、私が入ってきて喜んだ顔をしたが、すぐに真剣な目をして貴石を再度、見始めた。

「ああ、アイリス、まずは石を選ぶぞ。前にお前に渡したピアス、既に魔力は切れていたから、新しく選ぼう。」

 レオンは赤系の石を何個か手に取ると、店員に渡してピアス用に加工することを依頼した。店員は部屋の貴石を片付けると、しばらくお待ちください、といって、私たちに二人で話す時間を用意してくれた。

「よし、アイリス。大丈夫か。領主から話を聞いたと思うが、俺は、お前を諦めるつもりはない。」

レオンは宣言するように、はっきりと私の眼を見て、話してくれた。やっぱり嬉しい。私も、この赤い眼をみて、彼の声で、その言葉を聞きたかった。

「レオン・・・ありがとう。私も、レオンと婚約したいと、思っているよ。」

 昨日の領主の話を聞いてから、レオンも不安に思っているかもしれない。安心させるためにも、はっきり言わなければと、私は思っていた。

 レオンが、私の手を包み込むように、握ってくれる。彼の手のぬくもりが、嬉しい。

「アイリス、とにかくララクライン嬢を探そう。彼女に戻ってきてもらい、ソルディーエルと婚約してもらう。そうしないと、俺たちの婚約は消えてしまう。いいな。」

「わかったわ、レオン。私も探すわ。」

「じゃあ、手分けしよう。俺たちは一応、接近禁止令がでているからな。」

「そうね、王制復古派が絡んでいると思うけど、私、まずはソルに会いに行こうと思うの。復古派は、彼に接触している可能性は高いと思うし。」

「そうだな・・・俺としては複雑だけど、お前を信じるよ。俺は、リード公爵家の方を当たってみる。しばらく遠方まで行くことになるが、必ず戻る。連絡には、お前に飛ばした伝令魔鳩を使おう。」

「わかったわ。・・・レオンも気を付けてね。」

 二人の視線が重なる。少し沈黙の後、レオンが「いいか」と目で聞いてくる。軽くうなずくと、唇の上にレオンの少し乾いている唇が、重なってきた。

 私を悩ましてきた婚約者問題が、ようやく解決したと思ったのに、どうして運命は私を翻弄するのだろう。私の頬を、涙が一筋、ついと流れた。

 ドアをトントン、とノックする音がする。

 お互い、サッと距離をとる。今は、甘い雰囲気にのまれるわけにはいかない。

ピアスができたようだ。入ってきた店員からピアスを受け取ると、レオンはそれを握り締め、魔法を付与するために詠唱しはじめた。黄色い光がぽわっとピアスを包み込んだ。

少し額に汗がにじんでいる。レオンにしては珍しく、集中して詠唱したみたいだ。そして出来上がったピアスを私に渡してくれた。滾ったような赤。レオンの瞳の色だ。

「これには、防御魔法と探索魔法と、重ねてつけておいた。両耳につけておいてほしい。」

「ありがとう、レオンがいつでも、守ってくれているように感じるよ。これでいつでも、一緒だね。」

 ニコッと笑って返事をすると、レオンは一瞬顔を固めたが、すぐに笑顔になった。

「ああ、あとお前と俺で、魔力がシェアできるようにもなっている。お前、魔力が弱いからな。」

 赤いピアスを耳につける。レオンの魔力を微力ながら感じることができた。彼がすぐ傍にいるみたいだ。

「じゃあ、私が先に行くね。ピアス、ありがとう。遠慮なくおごってもらうわ。未来の旦那様、でしょ?」

 レオンが支払いをしている内に、私は先に店をでることにした。そして、ソルがいると思われる、騎士団詰所に向かい、長い坂を上っていった。

 ソルが普段、騎士団でどういった立場であったのか、私はあまりよくわかっていなかった。滅亡したとはいえ、元王族のソルであれば、優遇されるかと思えば、騎士団では全くそうしたことがないらしい。

 高位貴族でも、平民でも、等しく実力主義だと聞いていた。ただ、騎士団長というポジションだけは、貴族もいる騎士団員の統率を図るため、貴族から選ばれることが伝統であった。その為か、副騎士団長は平民が選ばれることが多かった。

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