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サボの誘い

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 そんなもの教えてほしいと思ったことはない。と、答えたいところであったが、そんなことを言ったら、また何が来るかわからない。ここはあえて、素直に答えておこうと決めた。

「・・・違いは、わかりました。」

 キス一つとっても、慎重な舌使いのソルとも、技も何もない、勢いのレオンとは違っていた。これが、経験の違いか。

「僕なら、姫のもっと奥で、満足させることも、上手だと思うよ。何なら試してみる?」

 その言葉が意味することを、分からなくもないが、いつもの師匠の冗談なのか、本気で言っているのか、判断がつかない。とにかく婚約式を前に、思わず自分の貞操の危機が来ているが、これはさすがに回避しないといけない。

「師匠、冗談はやめてください。あと、上からどいてください。」

 この雰囲気を変えたくて、サボの顔を軽くにらむように、下から上目遣いで見てみる。

「ふふ、そんな顔も可愛いけど、今、ここでやるのは反則かな。」

 そういうと、サボはもう一度口づけをしてきた。逃げられない。

「んー!んー!」

 これ以上はマズイ。必死に抵抗の意を表すべく、サボの胸板を叩いて抵抗した。アイリスの意をくんだのか、満足したのか、サボはゆっくりと唇を離した。そして、茶色の瞳が真っすぐに、アイリスの紫の眼を見て言った。

「姫、逃げたいなら、僕が連れて行ってあげるよ。赤の日なんて、くだらない政策に振り回されることはない。」

「え、師匠、逃げるって・・・」

「今、悩んでいるだろ?ソルディーエルのこととか、あのラインハルトだっけ?もうすぐ赤の日だからね。赤の日に、帝国に自分の結婚相手を決められるなんて、くだらないと思わないか?・・・僕なら、帝国とも王国とも違う世界を、教えてあげるよ。」

「師匠・・・でも、帝国から逃げられるなんて、思えない。」
 
 一度も考えなかったわけではない。こんな馬鹿げた制度から逃げて、帝国の支配の及ばない国に行く。そんな夢物語を想像してみたが、やはり王国を簡単に滅ぼした帝国から、逃げられるとは到底思えなかった。

「僕なら、問題ないよ。帝国を黙らせることくらい、・・・できるよ。姫は、海を渡った先を、見たことがないだろう?新しい土地で、新しいことをしてみないか?姫のわがままは、叶えてあげると昨日も言ったけど。」

 確かに、サボほどの実力と実績があれば、帝国に口出しされることはないのかもしれない。『赤の日』と、今はわからない誰かとの婚約から逃げる。その選択ができるのだろうか。サボを選べば、それが可能になると言われても、実感がなかった。

「あ、勘違いしないように言うけど、これは僕からのプロポーズだよ。逃げるといっても、結婚して外国に行こうね、ってことだから。」

「―――!!!―――」

またも、アイリスを言葉にならない衝撃が襲った。心臓が止まるかもしれない、と思うほどの衝撃(プロポーズ)を受け、息が止まりかけた。

「ああ、深呼吸して。そう息を吸って・・・はは、緊張させてしまったね。すぐに決めなくてもいいよ。赤の日の相手次第と思うなら、それが過ぎた後、婚約式の日に、宣言してから逃げよう。うん、それがいい。」

「サボ師匠、私、師匠にしてみれば女じゃない、って、思っていたのですが。これまで、女扱いされたことなんて、ありませんし。」

「ふふ、姫は自分をわかっていないね。毎年、毎年、君が僕の想像以上の美少女に育ってくれて、僕の楽しみだったよ。今や、その胸にはたわわな白い実が二つもなっているし。ちょっと背が伸びなかったもしれないけど、肌もプルプルしていて、お尻もプルンとしている。まだ開発してないけど、コッチの具合もいいだろうし、抱き心地も最高だよ。大丈夫。ほら、僕の息子も、まだまだ喜んでいるよ。」

 サボは、一度果てたが、またすぐ立派に育った息子を触らせようとしてきたが、さすがにアイリスには刺激が強すぎた。真っ赤になったアイリスは、硬直して答えた。

「無理です・・・」

「ま、今日はこの辺にしておこうか。可愛い弟子を、泣かせたくはないからね。あ、イイコトしている時は、いっぱい鳴かせたいから、覚悟してね。」

上機嫌になったサボは、腕をアイリスから引き抜いて、スルッとベッドから抜け出し、シャワーを浴びに行った。

衝撃でアイリスは動くことができなかったが、しばらくして落ち着いてくると、冷静になろうと服を着た。これ以上、今日はここにいては危ない。サボが浴室から戻ってくる前に、部屋を出て自分の住まいである寮へ帰ることにした。

ついでに、浴室から出ても、サボの髪の毛がすぐに乾かないで、外出が難しくなるように、妖力を使ってお祈りをしておいた。
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