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盲目の聖女11

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「神殿長様、聖女の力を失うように頼んだのは私です。ですから、レオナルド殿下が悪いのではありません。私が罰を受けるので、どうか訴えを取り下げてください」
「訴えを取り下げるなど……、今からできることではない。可能性があるとしたら、王家が控訴するしかあるまい」
「審問会の判決はもう、覆せないのですか?」
「……控訴された時、訴えを訂正することはできる」
「でしたら、どうかお願いします」

 王家がこのまま、判決を飲み込むとは思えない。控訴して再び審問会が開かれるに違いない。その時、神殿長がレオナルド殿下を糾弾するのを控えれば、判決はもっと軽いものになるだろう。

 ユリアナは額が机につくほどに頭を下げた。どうしても、レオナルドを助けたい。

「顔を上げよ。……ところでそなたは、目と足を代償としてから何年がたったのだ?」
「代償のことですか?」

 いきなり話題を変えたシャレールに答えるため、ユリアナは顔を上げた。

「目は見えなくなってから二年たちます。……足の方は、五年経ちました」
「そうか、それはさぞかし辛かったであろう」
「そんなことは」
「アーメント侯爵が何を思っていたか知らんが、神殿はそなたを守ろうとした。だが、王家はそうではない」

 シャレールはいきなり語調を強め、王族を非難し始めた。

「私の大切な姉さまが、王家に利用されて命を削ったのだ。お前の力を奪った第二王子に似た男だ、奴は姉さまが死ぬことをわかっていながら先見の予言を使ったのだ」

 シャレールは忌々しげにかつての王族の仕打ちを語った。姉さま、というのは先代の先見の聖女のことだろう。彼女は若くして亡くなったと聞いているけれど、利用したのがレオナルドに似た王族だったことは、初めて聞く。

 もしかして、それが理由でレオナルドを酷く糾弾したのだろうか。だが、そんな昔のことを何故今頃になって持ち出すのか。

「……そなたは、力だけではない。顔つきまで姉さまに似ている。幼いそなたを見た時、生まれ変わってきてくれたのだと確信した。そなたは、姉さまじゃ」

 シャレールの声は低く昏い。まるで、夢の中で語るような口ぶりだ。ユリアナは彼女の目が覚めるようにと願いながら、はっきりとした口調で答えた。

「私は私です。先代の先見の聖女様ではありません」
「いや、そなたは姉さまだ。そして、あの琥珀色の瞳をした王子がまた、そなたを利用しようとしておる」
「そんなことはありません! 彼は、レオナルド殿下は私のことを愛していると、言ってくれました」

 ユリアナは懸命に答えるけれど、シャレードはどこか話が通じない。それでも、彼女を説得しなければレオナルドが罰を受けることになる。

「お願いします、訴えを下ろしてください。そのためなら、私が罰を受けます。ですから……」
「そなたはそれほどまでに、あの王子が好きなのか?」
「はい、彼は私の……私の全てです」

 ユリアナが必死の想いを告げると、シャレールは顔を歪め忌々しそうな表情をして舌打ちする。ユリアナは神殿長のまとう空気が急に変わったことを感じ、どうしたのかと首を傾げた。

「そなたは……、王家など聖女の奇跡の力を利用することしか考えておらぬのに。そなたを守るために、そのような考えを捨てるまで神殿の北の塔で頭を冷やすがよい」
「なっ、神殿長様!」

 いくらユリアナが叫んだとしても、それ以上言葉が通じなかった。シャレールは側近たちを呼ぶと、ユリアナは見知らぬ男性たちに両脇を抱えられるようにして立ち上がらせられた。

「神殿長様! こんなことは間違っています! 私はもう、聖女ではありません!」

 喉を枯らすように叫んでも返答は聞こえない。あまりにも騒ぐユリアナを黙らせるため、布に染みこんだ匂いを嗅がせられる。すると頭がぐるりと回ったかと思うと、ユリアナは急に意識を失いぐったりとした。


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