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沈黙の護衛騎士28
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「私は……、レオナルド様と一緒の方が楽しいよ。小さなころから一緒に遊んでくれて、今もこうしておしゃべりしてくれるし。エドワード様は優しいけど、時々何を考えているのかわからなくて怖い。けど、レオナルド様は怖い顔をしていても怖くない」
「……怖くないのか? 俺が」
「うん。レオナルド様は私の王子様だから、怖くないよ」
ユリアナは花がほころぶようにふわりと笑った。その笑顔に、思わずドキッとする。だが、その頃はあまのじゃくを胸の中に飼っていた。
「俺はお前の王子様になった記憶はない」
「じゃぁ、今日から私だけの王子様になってくれる?」
「ユリアナが俺だけのものになるなら、なってやらんこともない」
冗談半分で聞くと、真剣な顔つきになったユリアナがハッキリとした声で答えた。
「いいよ。私、レオナルド様のものになる」
桃色のドレスを着て、頬を同じ色に染めた美少女が純真な眼差しで見つめてくる。その時に気がついた。
——この娘が欲しい。俺の、俺だけのものにしたい。
ほの昏い独占欲。自分の中に、こんな感情があるのを初めて知った。それでもまだ幼いユリアナに何かしたかったわけではない。ただ、彼女の未来は自分と一緒がいいと思った。
「わかった。それなら俺も、お前だけの王子様になるよ」
本気で答えた言葉を、ユリアナがどこまで覚えているかはわからなかった。だがその日から、ユリアナはレオナルドにとって唯一の存在となり、気がついた時にはエドワードへの劣等感は消えていた。
ユリアナが見つめる視線の先にいるのはいつも、レオナルドだったからだ。他の誰でもない、自分だけを見つめる少女の存在に、自然と自己肯定感が満たされていく。
——早く、彼女を婚約者として指名しておきたい。
そう思っていたけれど、エドワードが婚約者を指名するまで、自分が先に決めることはできなかった。
幸い、エドワードはセシリアを指名したため、次は自分の番だと思ったところで——。ユリアナはレオナルドを守るために片足を犠牲にしてしまう。
それでも、将来の伴侶にしたいのはユリアナだけだった。周囲に認められる為に騎士団に入り身体を鍛え、三年もかかってしまうが、ようやく求婚する許可が得られた。片足が悪いだけであれば、王子妃として立つことは許されていた。
だが、二年前のあの日。あの襲撃さえなければ彼女に想いを告げ、結婚する段取りをつけていたのに。
あの日の襲撃が、全てを壊し彼女の目の光を奪うことになった。
レオナルドは襲撃犯を縛り上げ、口を割らせた。どちらの襲撃も隣国による攻撃と判明した後、レオナルドは国境で起きていた戦いに率先して身を投じた。生半可に鍛えていなかった彼は狂戦士とまで呼ばれてしまうが、勝利をもぎ取るためには冷酷になる必要があった。
何としても、自分を守るために片足と両目を失ったユリアナの敵討ちがしたかった。王国内にも隣国に手引きをした者がいることはわかっている。その者たちもいつか必ず見つけ出し、罪を贖わせる。
初恋の少女だった彼女は、身を挺して庇ってくれた。その功績を元に彼女を妻として迎えたかったが、周囲はそれを認めなかった。
盲目となった者が、王族の妻になることは許されない。なにより、父親であるアーメント侯爵から拒否されてしまえば、例え王族であっても無理やり娶ることは叶わない。
さらに先見の聖女として神殿が認めてしまい、余計に複雑なことになった。神殿はユリアナを囲い込もうと圧力をかけてきたが、貴族院の議長となったアーメント侯爵は彼女を守るために森の奥に閉じ込めた。
「……怖くないのか? 俺が」
「うん。レオナルド様は私の王子様だから、怖くないよ」
ユリアナは花がほころぶようにふわりと笑った。その笑顔に、思わずドキッとする。だが、その頃はあまのじゃくを胸の中に飼っていた。
「俺はお前の王子様になった記憶はない」
「じゃぁ、今日から私だけの王子様になってくれる?」
「ユリアナが俺だけのものになるなら、なってやらんこともない」
冗談半分で聞くと、真剣な顔つきになったユリアナがハッキリとした声で答えた。
「いいよ。私、レオナルド様のものになる」
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「わかった。それなら俺も、お前だけの王子様になるよ」
本気で答えた言葉を、ユリアナがどこまで覚えているかはわからなかった。だがその日から、ユリアナはレオナルドにとって唯一の存在となり、気がついた時にはエドワードへの劣等感は消えていた。
ユリアナが見つめる視線の先にいるのはいつも、レオナルドだったからだ。他の誰でもない、自分だけを見つめる少女の存在に、自然と自己肯定感が満たされていく。
——早く、彼女を婚約者として指名しておきたい。
そう思っていたけれど、エドワードが婚約者を指名するまで、自分が先に決めることはできなかった。
幸い、エドワードはセシリアを指名したため、次は自分の番だと思ったところで——。ユリアナはレオナルドを守るために片足を犠牲にしてしまう。
それでも、将来の伴侶にしたいのはユリアナだけだった。周囲に認められる為に騎士団に入り身体を鍛え、三年もかかってしまうが、ようやく求婚する許可が得られた。片足が悪いだけであれば、王子妃として立つことは許されていた。
だが、二年前のあの日。あの襲撃さえなければ彼女に想いを告げ、結婚する段取りをつけていたのに。
あの日の襲撃が、全てを壊し彼女の目の光を奪うことになった。
レオナルドは襲撃犯を縛り上げ、口を割らせた。どちらの襲撃も隣国による攻撃と判明した後、レオナルドは国境で起きていた戦いに率先して身を投じた。生半可に鍛えていなかった彼は狂戦士とまで呼ばれてしまうが、勝利をもぎ取るためには冷酷になる必要があった。
何としても、自分を守るために片足と両目を失ったユリアナの敵討ちがしたかった。王国内にも隣国に手引きをした者がいることはわかっている。その者たちもいつか必ず見つけ出し、罪を贖わせる。
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さらに先見の聖女として神殿が認めてしまい、余計に複雑なことになった。神殿はユリアナを囲い込もうと圧力をかけてきたが、貴族院の議長となったアーメント侯爵は彼女を守るために森の奥に閉じ込めた。
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