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占い師の女①

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 寝室を飛び出した私は着替え終わると、朝食を用意しているシェナのところに向かう。すると、ルドヴィーク様は「今夜も遅くなるが来る」と言って早々に屋敷を出てしまっていた。

「アリーチェ様、今朝は驚きました。ご領主様は、あんなにもお美しい方だったのですね」
「シェナもそう思う? どうやら黒い靄を払ったら、本来のお顔が表れたの。多分、恐ろしいと思われていたのは、靄のせいね。呪いか何かだったのかな……」

 この不思議な力が、呪いを解くことができるとは知らなかった。黒い靄は単なる疲れだと思っていた。

 でも、ルドヴィーク様ほどの黒い靄を持つ人に出会ったことはない。だから単にこれまで、呪われた人に会ったことがなかった……だけなのかも。

 シェナもルドヴィーク様のお顔を思い出しているのか、ポーっとなっている。そう、あのお顔は美しすぎる。

「どうしよう……近くにいられる自信がない」
「何を言われるのですか! アリーチェ様のお顔も充分可愛らしく、隣に立つのにふさわしい方です」
「そうなのかなぁ……」
「そうです! このたわわなお胸にくびれた腰、すらっと伸びた手足に触れるとぴったりとくっつく白い肌! もう既にご領主様はメロメロではありませんか」

 そう言われても、これまでアミフェ姉さまを身近に見ていたので自信がない。私には姉さまのような色気もなければ、男性を悦ばせる性技もない。

「ですがアリーチェ様。まだお妻のお役めを果たされていませんね」
「だって、靄を払ったら眠くなってしまって」
「だってではありません!」

 シェナは怒っているけれど、起きたら目の前にあれほど美しい男性がいれば、心臓が止まっても仕方がないと思う。これまで普通に接していたけれど、あれは顔が見えなかったからだ。

「でも、朝から盛るのはダメだって……姉さまの格言があったわ」
「新婚さんは、朝からも盛るものだと聞いております! この耳年増の私が! 断言します!」
「そうなの?」

 シェナはシェナでいろいろ物知りのようだ。王都にいた頃から側にいるけれど、ここにきてからは距離がぐっと近くなった。

「だったら……いけなかったのかしら」
「まぁ、本気で怒っているようなら、今夜も来るとは言われないでしょうから。大丈夫ですよ」
「そう、それならいいのだけど」

 今朝は驚きもあって逃げ出してしまったけれど、結婚したからには覚悟を決めないといけない。ただでさえ、子どもっぽい容姿をしているのだから、呆れられると子づくりはできなくなる。

 シェナに促されて朝食をいただくけれど、美味しいはずの柔らかいパンがなぜか固く感じるのだった。

 ◆◆◆

 午後になると、シェナが息を切らして部屋に入ってくる。私は読んでいた本をパタンと閉じると、首をかしげた。

「そんなに急いで、どうしたの?」
「アリーチェ様、凄腕の占い師が来ております! いい機会なので、みて頂きましょう!」
「……占い師?」

 シェナの話によると、城の中に流れの占い師がやってきてことごとく当てているという。城にいる女性の使用人たちが集まって、占ってもらっているようだ。

「でも、そんなの本当に当たるのかしら」
「いいではありませんか、アリーチェ様がお顔を出せば、使用人の皆さんも喜びます」
「そういうもの?」
「ええ、行きましょう!」

 こうしてシェナに手をひかれ、私は屋敷を出ると広大な庭の一画にある東屋にやってきた。ここまで足を伸ばすのは初めてだ。

 そこは女性たちが十人ほど集まっており、どうやら休憩時間に占ってもらっているらしい。きゃあきゃあとはしゃいだ声が聞こえてくる。

 占い師の女性は真っ赤な服を着て、黄金の飾りを首にも髪にも手首にもじゃらじゃらとつけていた。服だけでなく、唇も真っ赤に染め、妖艶な雰囲気を醸し出している。

「あなたが噂の占い師の方なの?」
「これはこれは……ご領主さまの奥方ですね」
「まぁ、私のことがわかるのね」

 目元に黒く色をつけ、長いまつ毛にくっきりとした眉。香りも独特なものを使っているのか、香木のような匂いが漂っている。

 でも……人より少しだけ違うものが見える私には、彼女の中心がどす黒くなっているのを見つけてしまう。思わず怯んでしまい、視線を外す。

「ええ、よろしければ占いはいかがですか?」
「私は……いえ、いらないわ」

 なぜか不吉な予感がする。とても美人なのに、その顔が仮面のように見えてしまう。近づくのは止めようと思ったその時。

「お前が無断で入って来た占い師か?」
「ルドヴィーク様?」
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