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呪われた美少年①

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「おのれ……年増ですって……この私を! 年増ですって!」

 いきなり激高した女は、呪いのことばを吐き始めると黒い靄が俺の身体にまとわりつく。

「ふ、ふふふ。この私を年増と呼んだお前には、お似合いの呪いよ。これからお前は、美貌の分だけ周囲に恐怖を与え、性欲のある分だけそれを失くすの。ふははっ、この私を見つけて許しを乞えば、呪いを解いてあげるわ」

 高笑いしたまま、女は黒く大きな鳥に姿を変えて羽ばたいていく。黒い靄は次第に体の中に入り込み、動けなくなったところで探しに来た者に見つけられた。

 それ以来、普通の顔をしていても怖がられ、子どもには泣き出されてしまう。これまでは美しい顔だと言われうっとりと見つめられていたのに、急に人々の態度が変わった。

 辺境では美しさよりも強さを求められる。美少年と呼ばれる度に鬱陶しいと思っていたから、当初はこれも悪くないとさえ思っていた。

 だが女のことを調べてみると、彼女は『ショタ喰いの魔女』という二つ名を持つ魔女だとわかる。昔から美少年だけを狙い、襲い掛かる魔女だという。

 年齢のことを示すような言葉を言ってはならない、と伝承が伝わるほど自分の年を気にしている魔女だ。そんなことには気がつかないまま『年増』と叫び、彼女の地雷を踏んで呪われてしまった。

 顔が怖いだけでなく更にもう一つ、重要な現象があった。だが少年だった俺はそのことに気がつかず、しばらくして閨教育を受ける段階で判明する。

「勃たない? まさか!」

 ルドヴィークの男性器は、いくら娼婦が口に咥えようが、裸を見ようが全く反応しなかった。

 美少年と有名だった俺の初物を貰えると、張り切っていた娼婦はふにゃふにゃで力を持たないソレを睨みつける。

「これは……私が原因ではないわ」
「なぜだ? なぜそう言い切れる」
「だって、ルドヴィーク様はこれまで自慰もされたことがないでしょ。そうなると、私ではなくお医者様にかかってください」
「医者……これは、病気なのか?」
「そうかもしれません」

 惜しげもなく裸体を晒されても、ピクリとも動かない。性欲そのものがなく、男性器は勃ち上がらない。

 後日、秘密裡に兵の一人を呼び出し自慰するところを見て打ち震える。あのようにいきり立つ男性器が、自分のものと同じだとは思えなかった。

 その後、娼館で男女のまぐわう姿を見せて貰うが気持ち悪いばかりで何の感情も起こらない。

 その後、両親が馬車の事故で亡くなり爵位を継ぐと、目まぐるしいほどに忙しくなった。

 適齢期になると、周囲からは結婚しろとうるさくなる。けれど、婚約者はおろか女性に近寄るのが面倒だった。そのうち、子どもができないのであれば養子を貰えばいいだけのことと開き直る。

 それよりも俺の顔を見ると、恐ろしくて人が近寄らないことの方が問題だった。以前の美麗な顔を知る者はそれほどでもなかったが、魔女と出会った以後に会う者は、一様に怖がり避けられる。

 辺境伯として騎士団をまとめ上げる者としては、恐怖を与える顔つきは役立つこともある。だが、領地を治める者としては、領民に恐れられてしまい表に出ることを控えざるを得ない。

 鍛え抜いた身体に恐ろしい顔と、ついには『冷徹な辺境伯』と呼ばれ、噂だけが先行していく。ついでに嫁も決まらない。

 だが昔から面倒を見てくれているデイモンドから、結婚するようにせっつかれた俺はとうとう折れて、何人かの令嬢と見合いをする。けれど顔を見た途端逃げてしまうのだから結婚など出来ない。

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