太陽と月

曙

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夕暮れ時から始まったバースデーパーティーは、自転車通勤の咲恵が帰宅する時間にはお開きとなった。

最後まで片付けをしていた鹿島と楠瀬が帰路に着いたことで静かになった室内で、改めて陽と2人。

『たのしかった』

少しだけ蜂蜜を入れたホットミルクを飲みながら、陽がうっそりと呟く。

今年も昨年と同様、皆が『おめでとう』を言う中、朔也はやはり『生まれてきてくれて、ありがとう』を伝えた。
恐らく来年も同じことを伝える。ずっと感謝し続けるだろう。
そしてプレゼントは去年のブレスレットに続き、今年はプラチナで誂えたアンクレットを用意した。

手枷であり、足枷である。
これで物理的に陽を縛り付けられるなどとは思っていない。
しかし、閉じ込めてしまいたいと思うほどには陽のことを愛している。
実際に監禁しているのと変わらない生活ではあるが、そろそろ陽に他の選択肢を用意してやらなければならないとは思う。

様々な物を見て触れても、朔也が一番なのだと思わせる自負が朔也にはある。

その一つが吾妻経由で工藤からもたらされた提案だ。

『陽くんをフリースクールに入れてみてはどうか』

と。元々は工藤総合病院の院内学級で子供達を指導していた教員が定年退職後にフリースクールを開校したと言う。
本人は悠々自適の老後を楽しもうと思っていたようだが人望の厚さが、それを許さなかったのだ。
各方面から請われ、元々は工藤総合病院の看護師寮だった建物を改装した校舎で子供達を導いている。

極々少人数だが、児童生徒の年齢層は広く、小学校低学年から高校生までが通学しているのだと言う。

社会に馴染めない子供達のために開かれたと言うよりは、身体が丈夫ではないために支援が必要な子供達のために用意された学校と言う位置付けだ。

退院したら、普通に学校に通える。本人も家族もそう信じて退院していくものの、大病や大手術の後で体力的な問題から登校できない児童生徒が一定数出てしまうことから、工藤総合病院がスポンサーとなりフリースクールを立ち上げたのだと言う。

以前、亜美と南野の一件から陽の存在を知った工藤から話を持ちかけられたのだ。
陽の身の安全が保証できると踏んだのだろう。

咲恵や楠瀬に相談すれば、当然社会に混じった方がいいと言う。とうしても陽至上主義になってしまう今の生活では身に付けられないことが多いのだと。

もう随分前だが咲恵に小学校を舞台にした絵本を読んでもらった陽は、学校の存在を知っている。
自宅マンションからも遠く小さくはあるが小・中学校の校舎が見える。
しかし陽にとって学校は絵本の中のもの、窓の外のもの、自分とは無関係のものと捉えている節がある。

『なぁ陽』

学校に行ってみるか？