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天岩戸
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『見合いっ?』
麗らかな陽射しが室内を照らす昼下がり、その穏やかな空気とは対照的な鋭い声が朔也の執務室に響き渡る。
声の主は言わずと知れた朔也本人だ。
『はい』
抑揚のない返答は、こちらもまた言わずと知れた吾妻からだ。
土門を通じて創世会の総裁である八神からの言付けを賜った。
八神の旧知の友人である国会議員の不知火友和から朔也に見合いの話が持ち込まれた。
さすが八神の友人と言ったところか、黒い噂の絶えない議員ではあるが、30代半ばで国政デビューを果たし当選回数十数回を数えるベテラン国会議員として各メディアへの露出も多い。
その不知火の孫娘との見合い、と言うことらしいのだ。恋愛結婚が主流の昨今でも政略結婚は山ほど存在する。
創世会としても不知火の力は拝借したいことが多い。なんだかんだと言ってもマル暴を立ち入らせない力を持っている輩なのだから。
そして不知火としても創世会からの金脈は魅力的だろう。その金脈は間違いなく明星会と辰星会により作られている。
経営者としても一流と言われる明星会の天海か辰星会の工藤を孫娘にと安直とも思える結論に至ったのだろう。
そうなると当然、素朴な疑問が湧く
『なぜ俺なんだ?』
辰星会の工藤は朔也に劣らない経営者だ。年齢もそれほど変わらない。そして何より、朔也よりもヤクザらしくない。気遣いは一流で物腰も柔らかく不知火の地盤を継ぐようなことになっても後継者として期待以上の働きを見せるはずだ。それなのに工藤でなく朔也なのか。
『工藤には子種がないそうです』
先天性の無精子症で子供を望めない工藤に対し、不知火は興味を示さなかったのだと言う。つまり自身の後継者としてだけでなく、その後の事までを考えているのだ。
工藤でなく朔也に白羽の矢が立ったのは順風な世襲の可能性を少しでも高めておくためなのだろう。
『どう断ればいいんだ?』
朔也には陽がいる。何に代えても守りたいのは陽だけだ。端から見合いなどするつもりはない。
しかし相手が悪い。実質的にこの見合いは八神からの、そして創世会からの命令だ。余程のことがなければ辞退など許されない。
所詮は政略結婚なのだ。愛人を囲うことなど簡単に許されるだろう。
そうなると辞退の理由が見つからない。
『とにかく一度はお会いするべきかと』
吾妻は至って冷静だ。陽との純愛を貫くため、慎んでご辞退申し上げられるようなヌルい話ではない。面倒なことこの上ないが、八神の顔に泥を塗るようなことはできない。この組織の中で生きる以上それは仕方のないことだ。
『それにしてもな』
相手が悪いのは八神だけではない。不知火の孫娘の爛れた噂は、興味のない朔也や吾妻の耳にも時折、漏れ聞こえてくるものだった。
麗らかな陽射しが室内を照らす昼下がり、その穏やかな空気とは対照的な鋭い声が朔也の執務室に響き渡る。
声の主は言わずと知れた朔也本人だ。
『はい』
抑揚のない返答は、こちらもまた言わずと知れた吾妻からだ。
土門を通じて創世会の総裁である八神からの言付けを賜った。
八神の旧知の友人である国会議員の不知火友和から朔也に見合いの話が持ち込まれた。
さすが八神の友人と言ったところか、黒い噂の絶えない議員ではあるが、30代半ばで国政デビューを果たし当選回数十数回を数えるベテラン国会議員として各メディアへの露出も多い。
その不知火の孫娘との見合い、と言うことらしいのだ。恋愛結婚が主流の昨今でも政略結婚は山ほど存在する。
創世会としても不知火の力は拝借したいことが多い。なんだかんだと言ってもマル暴を立ち入らせない力を持っている輩なのだから。
そして不知火としても創世会からの金脈は魅力的だろう。その金脈は間違いなく明星会と辰星会により作られている。
経営者としても一流と言われる明星会の天海か辰星会の工藤を孫娘にと安直とも思える結論に至ったのだろう。
そうなると当然、素朴な疑問が湧く
『なぜ俺なんだ?』
辰星会の工藤は朔也に劣らない経営者だ。年齢もそれほど変わらない。そして何より、朔也よりもヤクザらしくない。気遣いは一流で物腰も柔らかく不知火の地盤を継ぐようなことになっても後継者として期待以上の働きを見せるはずだ。それなのに工藤でなく朔也なのか。
『工藤には子種がないそうです』
先天性の無精子症で子供を望めない工藤に対し、不知火は興味を示さなかったのだと言う。つまり自身の後継者としてだけでなく、その後の事までを考えているのだ。
工藤でなく朔也に白羽の矢が立ったのは順風な世襲の可能性を少しでも高めておくためなのだろう。
『どう断ればいいんだ?』
朔也には陽がいる。何に代えても守りたいのは陽だけだ。端から見合いなどするつもりはない。
しかし相手が悪い。実質的にこの見合いは八神からの、そして創世会からの命令だ。余程のことがなければ辞退など許されない。
所詮は政略結婚なのだ。愛人を囲うことなど簡単に許されるだろう。
そうなると辞退の理由が見つからない。
『とにかく一度はお会いするべきかと』
吾妻は至って冷静だ。陽との純愛を貫くため、慎んでご辞退申し上げられるようなヌルい話ではない。面倒なことこの上ないが、八神の顔に泥を塗るようなことはできない。この組織の中で生きる以上それは仕方のないことだ。
『それにしてもな』
相手が悪いのは八神だけではない。不知火の孫娘の爛れた噂は、興味のない朔也や吾妻の耳にも時折、漏れ聞こえてくるものだった。
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