太陽と月

ko

文字の大きさ
上 下
117 / 197
続く朔日

114

しおりを挟む
一方その頃、箱根では本格的に陽の体調が悪くなりつつあった。
ほとんど食事が摂れないにも関わらず、嘔吐を繰り返し、衰弱し疲弊した陽の体は悲鳴を上げていた。

これ以上の衰弱を食い止めるべく佐伯により用意された鎮静剤を楠瀬が宥めたり誉めたりしながら飲ませ、意識が薄れたところで咲恵が点滴を取り出す。
さすがは小児医療の元看護師と言ったところだ。細い血管を探ることもなく難なく針を留置させる。

『本当は少しでも食べさせたいわね。病気ではないから』

そんな咲恵の提案で鹿島も喉ごしがよく栄養価の高いデザートをいくつか用意した。

『皆に相談があるんだけど、少しいいかい?』

北見を含む別荘にいる全員をリビングに集めた佐伯が、迷うように考えるように話し始める。本当に相談なのだ。

『皆が知っている通り、まだ若の目が醒めない』

それでも脳にも臓器にも以上がなければ、数日で個室に移されるはずだと佐伯は言う。
咲恵が隣で頷いているのを見れば、医療従事者としては当たり前の見解なのだろう。

『若が個室に移ったら、陽くんを連れて行ってみようと思うんだ』

それは陽の為であり朔也の為でもある。しかし、目を醒まさない朔也を目の前に、陽がどれだけのショックを受けるのか計り知れないのだ。

2人を逢わせてやりたい、その一方で逢わせるべきではないのかもしれないと佐伯は答えを出せずにいた。陽をよく知るメンバーに相談することで、答えを出そうとする。
もちろん、それで陽の心身に不調が起これば佐伯が徹底的に付き合うつもりはある。責任は自らが取ることは決めているが、逢わせた方がいいのか、逢わせない方がいいのか皆の意見を聞きたかったのだ。

『逢わせてやった方がいいんじゃないか?』

一場に口を開いたのは北見だった。なぜ朔也が迎えに来ないのか、来れない事情があるのだと理解すれば陽が楽になれるのではないかと言う。

『僕は今の陽くんに、今の若を会わせることが不安です』

常に控え目な楠瀬だが、保育士だけのことはある。陽に心を寄り添わせ、陽のことを一番に考えたのだろう。目を醒まさない若を見たら、恐怖や不安で陽の心が壊れてしまうのではないかと憂慮する。
ただ、やはり謹み深い楠瀬は自分の意見をごり押しするようなことはない。

『陽くんを若に会わせて、辛い想いをしたのなら』

全力でサポートするとも言う。皆それぞれが陽を想い朔也を想い、意見を出し合うが最終的には咲恵が締める。迷う男達の意見を纏められるのは咲恵だけなのだろう。

『逢わせてあげましょう。2人のために』

そう。もっと簡単に根本を考えるべきだったのだ。陽も朔也も互いに逢いたいと、そう思っているはずなのだ。
逢ったことでどんな結果になったとしても、今の2人の想いを尊重してこそのサポートチームだろう。

そうと決まれば、少しでも陽の体調を戻すことを考えなければならない。

『デザートであれば、食べやすいかもしれません』

ここ数日、数種類のデザートを用意し続けていた鹿島が、更に陽が口にしそうなデザートを考えると言う。陽は元々鹿島の作る料理が好きだ。鹿島も陽の嗜好を理解している。
少しでも食べられればと願いながら、鹿島は今夜も試行錯誤するのだろう。

『若が個室に移れば吾妻君から連絡が来るだろう』

そしたら陽くんを連れて一度都内に戻ろう。

1人では出せなかった答えを出し、佐伯は安堵のため息を吐いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

少年ペット契約

眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。 ↑上記作品を知らなくても読めます。  小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。  趣味は布団でゴロゴロする事。  ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。  文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。  文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。  文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。  三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。  文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。 ※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。 ※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。

ずっと女の子になりたかった 男の娘の私

ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。 ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。 そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男

湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。 何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

くまさんのマッサージ♡

はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。 2024.03.06 閲覧、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。 2024.03.10 完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m 今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。 2024.03.19 https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy イベントページになります。 25日0時より開始です! ※補足 サークルスペースが確定いたしました。 一次創作2: え5 にて出展させていただいてます! 2024.10.28 11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。 2024.11.01 https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2 本日22時より、イベントが開催されます。 よろしければ遊びに来てください。

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

処理中です...