116 / 197
続く朔日
113
しおりを挟む
『天海は目を覚ましたのか?』
まるで今日の天気の話しでもするかのように切り出した土門だが、やはり朔也のことを心配している。
このまま朔也が復帰できなければ、明星会だけでなく創世会での均衡が崩れてしまう可能性もある。
朔也は会内で、それ程までに強い力を持っている。
明星会だけに力をつけさせぬよう心を砕いてきた土門は同時に明星会が力を失うことも憂慮している。
絶妙なバランスで成り立っている創世会に牙を剥いた炎星会に非情な判断を下したのもその為だ。
炎星会の一件が鎮火しつつある今になって既に部外者である篠崎が再び火を放ったのだ。許されるようなことではない。
『篠崎の処分は工藤に一任した』
創世会とはもう無関係なのだと言う。つまりは工藤が篠崎等に対し、どのような扱いをしたとしても創世会から誉められるようなことも咎められるようなこともない。
工藤のことだ。スマートに篠崎と小飼連中を消してしまうだろう。あまり汚れ仕事はさせたくないが、工藤は自ら手を下すことを選んだ。いや、選んでくれた。
『天海に万が一のことがあれば吾妻』
お前が明星会を仕切ることになる。
言いきる土門に吾妻は首を縦に振るしかない。吾妻に選択権などないのだから。
会長がいるとは言え、実質的に組もフロント企業も仕切って来たのは朔也なのだ。
朔也が戻れないと決まったわけではない、喉元まで出かかった言葉を既の所で飲み込む。
今はそう言った話ではない。
定まらない近い将来に創世会として保険をかけるべきではある。そしてその使者が土門だった。
土門に対し非情な人間だと評価する声は多い。しかし義理人情に厚い人間であることも間違いない。
土門はそれを言葉ではなく、形で表している。
傘下の組の若頭の命が危機的状況にあると言っても、多分な金額の見舞いを自らが携えて訪ったのだ。
ここまでする土門の人柄も、ここまでさせる朔也の存在も己は持ち合わせていないのだと吾妻は思う。
卑屈になっているわけではなく、そんな彼らに仕えられる己が誇らしくもある。
『若に何かあれば、ご連絡さしあげます』
きっとそれは、朔也が目を醒ましたと言う連絡になるはずだ。言葉は交わさないが、土門も吾妻もそう信じている。信じたいと思っている。
でなければ、土門は帰り際に
『天海が目を覚ましたら、見舞いに行く』
などとは言わないはずだ。
組事務所のエントランスから土門の自動車が見えなくなるまで頭を下げ、吉報を届けたいと願う吾妻だった。
まるで今日の天気の話しでもするかのように切り出した土門だが、やはり朔也のことを心配している。
このまま朔也が復帰できなければ、明星会だけでなく創世会での均衡が崩れてしまう可能性もある。
朔也は会内で、それ程までに強い力を持っている。
明星会だけに力をつけさせぬよう心を砕いてきた土門は同時に明星会が力を失うことも憂慮している。
絶妙なバランスで成り立っている創世会に牙を剥いた炎星会に非情な判断を下したのもその為だ。
炎星会の一件が鎮火しつつある今になって既に部外者である篠崎が再び火を放ったのだ。許されるようなことではない。
『篠崎の処分は工藤に一任した』
創世会とはもう無関係なのだと言う。つまりは工藤が篠崎等に対し、どのような扱いをしたとしても創世会から誉められるようなことも咎められるようなこともない。
工藤のことだ。スマートに篠崎と小飼連中を消してしまうだろう。あまり汚れ仕事はさせたくないが、工藤は自ら手を下すことを選んだ。いや、選んでくれた。
『天海に万が一のことがあれば吾妻』
お前が明星会を仕切ることになる。
言いきる土門に吾妻は首を縦に振るしかない。吾妻に選択権などないのだから。
会長がいるとは言え、実質的に組もフロント企業も仕切って来たのは朔也なのだ。
朔也が戻れないと決まったわけではない、喉元まで出かかった言葉を既の所で飲み込む。
今はそう言った話ではない。
定まらない近い将来に創世会として保険をかけるべきではある。そしてその使者が土門だった。
土門に対し非情な人間だと評価する声は多い。しかし義理人情に厚い人間であることも間違いない。
土門はそれを言葉ではなく、形で表している。
傘下の組の若頭の命が危機的状況にあると言っても、多分な金額の見舞いを自らが携えて訪ったのだ。
ここまでする土門の人柄も、ここまでさせる朔也の存在も己は持ち合わせていないのだと吾妻は思う。
卑屈になっているわけではなく、そんな彼らに仕えられる己が誇らしくもある。
『若に何かあれば、ご連絡さしあげます』
きっとそれは、朔也が目を醒ましたと言う連絡になるはずだ。言葉は交わさないが、土門も吾妻もそう信じている。信じたいと思っている。
でなければ、土門は帰り際に
『天海が目を覚ましたら、見舞いに行く』
などとは言わないはずだ。
組事務所のエントランスから土門の自動車が見えなくなるまで頭を下げ、吉報を届けたいと願う吾妻だった。
10
お気に入りに追加
259
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
少年ペット契約
眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。
↑上記作品を知らなくても読めます。
小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。
趣味は布団でゴロゴロする事。
ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。
文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。
文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。
文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。
三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。
文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。
※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。
※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
ずっと女の子になりたかった 男の娘の私
ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。
ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。
そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。
僕は肉便器 ~皮をめくってなかをさわって~ 【童貞新入社員はこうして開発されました】
ヤミイ
BL
新入社員として、とある企業に就職した僕。希望に胸を膨らませる僕だったが、あろうことか、教育係として目の前に現れたのは、1年前、野外で僕を襲い、官能の淵に引きずり込んだあの男だった。そして始まる、毎日のように夜のオフィスで淫獣に弄ばれる、僕の爛れた日々…。
ショタ18禁読み切り詰め合わせ
ichiko
BL
今まで書きためたショタ物の小説です。フェチ全開で欲望のままに書いているので閲覧注意です。スポーツユニフォーム姿の少年にあんな事やこんな事をみたいな内容が多いです。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる