太陽と月

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続く朔日

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朔也の意識が戻らないまま3日が過ぎた。執刀医の鴨志田は手を尽くしてくれた。
後は言われた通り、朔也の生への執着のみが頼りなのだ。

そしてその3日の間に陽はやはり体調を崩した。

朔也の手術翌日の夕方には篠崎とその小飼を拘束したと工藤から吾妻のスマートフォンに連絡があったため危険は少ないと判断した吾妻は陽を少しでも慣れた環境で生活させようと、朔也の自宅マンションへと連れ帰ろうとしたのだが陽はなかなかに頑なだった。

食事も睡眠も満足にとれず、ほんの3日で長谷美由紀の元から保護した時ほどに衰弱してしまった陽だが力のない声で必死に訴えるのだ

『おるすばん。さくやをまってる』

確かに約束をした。必ず迎えに来るから、ここで待っていて欲しい、と。
しかし、どう考えても今の朔也が陽を迎えに来れるわけなどない。
逡巡する吾妻に助け船を出したのは、別荘を管理している北見だった。

『陽くんは、ここで待って若に迎えにきてもらうことに縋るような思いを抱いているのでは』

陽くんの好きにさせてみてはどうかと穏やかに柔らかに提案される。

ただし、これ以上咲恵や佐伯を付き合わせていいものだろうかとも思う。

『私も、ここにもう暫くは居たいわ』

そんな言葉で吾妻の迷いを払拭してくれる咲恵も、やはり陽をここに置いた方がいいと思っているのだろう。

箱根に留まったところで、朔也が陽を迎えに来れるとは限らない。
然りとて、都内のマンションに戻ったとしても同じなのだ。

箱根に留まれば、朔也が迎えに来ると信じている陽の想いを汲むべきなのだろう。

『咲恵さん、もう暫くご不便をお掛け致します』

深々と頭を下げる吾妻を気遣ったのだろう。咲恵は明るく悪戯な笑みで

『ここの温泉、肌にいいわよね』

たくさん入ったら、綺麗になるかしら?などと鼻唄を歌ってくれる。

そして、陽が体調を崩している以上、医師である佐伯の力を借りないわけにはいかない。

『佐伯先生にも、ご迷惑をお掛け致します』

朔也同様、あまり人に頭を下げる機会のない吾妻が今日は頭を下げっぱなしだ。

『ねぇ、吾妻君。』

僕は陽くんの優しい主治医になると言っただろ?注射はしたくないけど。
おどけた表情でそんなことを言う佐伯だが、だから、と続く言葉には真剣な思いが込められていた。

陽くんのことは僕らに任せて、組のことと、そして朔也の回復に注力するべきだと。

再び頭を下げた吾妻は、陽に向き直り柔らかな笑顔で伝える。

『朔也が迎えに来るまで、もう少し待っていて』

その言葉に力なく、それでもほっとしたように頷く陽になんだか泣きたくなる吾妻だが、佐伯と咲恵、そして北見に陽を委ねることにする。

『僕達もフォローしますから』

鹿島と楠瀬も、陽のために心を砕いている。

何があっても朔也を目醒めさせると心に決めて箱根を後にした吾妻だった。
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