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再燃する憎悪
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本当は、手ずから篠崎の息の根を止めてしまいたい。
しかし、それは工藤が買って出てくれたのだ。
吾妻は今、己がすべきことの優先順位を考える。
集中治療室の近くから離れることに躊躇いがないわけではないが院内の通話可能エリアへと移動し土門を通じて創世会本部へと顛末を報告し、明星会会長にも連絡を入れる。
そして、最後にタップしたのは箱根で陽と共に過ごしている佐伯の番号だった。
数度の呼出音の後に電話に出た佐伯は、少し声を潜めている。継いで足音とドアを閉める音が聞こえ
『陽くんからは離れたよ。で、どうしたんだい?』
陽には聞かせられない話だと既に察したのだろう。相変わらず聡い男だ。
『若が撃たれました』
淡々と現状を伝える吾妻に佐伯もまた、淡々と尋ねる。
『容態は?』
何も隠すことなく、医師の鴨志田から告げられたことを正確に佐伯に伝えれば
『吾妻君、若は大丈夫だよ』
無責任とも取れる言い様だが、だって、と続けられる言葉に吾妻も共感する。
陽と出逢い、陽を守りたいと思っている朔也は誰よりも生きることに執着するはずだ、と。
『でも吾妻君』
今回の若の失態は、若らしくないね。若の目が醒めたら陽くんに、しっかりと叱ってもらおうね。
ミモザのように儚げな陽が、ヤクザの、しかも若頭を叱る。想像すれば笑いが込み上げてくる構図だ。しかし、朔也には何よりもいい灸となるのは間違いない。誰かに叱られる朔也と言うのも見てみたいものだ。
『ただね』
憂慮が多分に含まれた電話越しの佐伯の声に、スマートフォンを握る吾妻の手に力が入る。
まだ短時間であるにも関わらず、朔也のいない生活が陽には大きなストレスとなっているようだ。
楠瀬から報告があがっている通り、食事がうまく摂れない。昨晩もなかなか寝付くことができず、夜中に何度も目を覚まし無意識に朔也を探すように視線を彷徨わせていたと言う。
『若が目を醒ますのが先か、陽くんが体調を崩すのが先か』
陽は繊細だ。朔也がいないと言う日常に耐え得るとは到底思えない。
しかも、佐伯は朔也が目を醒ますことを前提として話しているが、万が一そうならなかったら?
金銭的にも人員的にも陽の生活の面倒を見ることなど他愛もないことである。協力者も多い。
しかし陽の拠り所になってやれるのは朔也だけだろう。
朔也が目を醒まさなければ陽の心は間違いなく壊れてしまう。
『とにかく陽くんには、この事は伝えないでおくよ』
何かあったら、また連絡を。そう言って通話を終わらせた吾妻と佐伯だが、違う場所で2人同時に溜め息をついた。
悲観しているわけでは決してない。
それでも、現実は皆にとって厳しいものだった。
しかし、それは工藤が買って出てくれたのだ。
吾妻は今、己がすべきことの優先順位を考える。
集中治療室の近くから離れることに躊躇いがないわけではないが院内の通話可能エリアへと移動し土門を通じて創世会本部へと顛末を報告し、明星会会長にも連絡を入れる。
そして、最後にタップしたのは箱根で陽と共に過ごしている佐伯の番号だった。
数度の呼出音の後に電話に出た佐伯は、少し声を潜めている。継いで足音とドアを閉める音が聞こえ
『陽くんからは離れたよ。で、どうしたんだい?』
陽には聞かせられない話だと既に察したのだろう。相変わらず聡い男だ。
『若が撃たれました』
淡々と現状を伝える吾妻に佐伯もまた、淡々と尋ねる。
『容態は?』
何も隠すことなく、医師の鴨志田から告げられたことを正確に佐伯に伝えれば
『吾妻君、若は大丈夫だよ』
無責任とも取れる言い様だが、だって、と続けられる言葉に吾妻も共感する。
陽と出逢い、陽を守りたいと思っている朔也は誰よりも生きることに執着するはずだ、と。
『でも吾妻君』
今回の若の失態は、若らしくないね。若の目が醒めたら陽くんに、しっかりと叱ってもらおうね。
ミモザのように儚げな陽が、ヤクザの、しかも若頭を叱る。想像すれば笑いが込み上げてくる構図だ。しかし、朔也には何よりもいい灸となるのは間違いない。誰かに叱られる朔也と言うのも見てみたいものだ。
『ただね』
憂慮が多分に含まれた電話越しの佐伯の声に、スマートフォンを握る吾妻の手に力が入る。
まだ短時間であるにも関わらず、朔也のいない生活が陽には大きなストレスとなっているようだ。
楠瀬から報告があがっている通り、食事がうまく摂れない。昨晩もなかなか寝付くことができず、夜中に何度も目を覚まし無意識に朔也を探すように視線を彷徨わせていたと言う。
『若が目を醒ますのが先か、陽くんが体調を崩すのが先か』
陽は繊細だ。朔也がいないと言う日常に耐え得るとは到底思えない。
しかも、佐伯は朔也が目を醒ますことを前提として話しているが、万が一そうならなかったら?
金銭的にも人員的にも陽の生活の面倒を見ることなど他愛もないことである。協力者も多い。
しかし陽の拠り所になってやれるのは朔也だけだろう。
朔也が目を醒まさなければ陽の心は間違いなく壊れてしまう。
『とにかく陽くんには、この事は伝えないでおくよ』
何かあったら、また連絡を。そう言って通話を終わらせた吾妻と佐伯だが、違う場所で2人同時に溜め息をついた。
悲観しているわけでは決してない。
それでも、現実は皆にとって厳しいものだった。
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