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再燃する憎悪
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思わず知らず工藤に縋るような視線を向けてしまう。
工藤は自ら篠崎に制裁を加えようとしている。しかも今回朔也が撃たれたこととは無関係に、一度は逃走を許した男への落とし前をつけると言う体で。
確かにおかしな話ではない。あの漁港からの帰り道、創世会に牙を剥くために逃げ出した篠崎に当事者である辰星会が手を下すと言うのなら、土門に小言の1つや2つ言われたとしても、大事には至らないだろう。
しかし朔也が撃たれた今、そこまでを辰星会にさせるべきではない。明星会が動くべきなのだ。
本部もそれを許すだろう。
そして何より極道としては些か繊細な工藤にあまり手荒なことはさせたくなかった。
実業家として大成する器を持った男に汚れ仕事をさせるのは朔也だけで十分なのではないだろうか。
もっとも朔也に汚れ仕事をさせるに当たって、自身も極道に身を落とした吾妻だが、工藤に対して今、同様のことができるわけではない。
『吾妻さん』
私も極道の端くれなのだから自身の汚名は自身で返上するのだと言う。
『それに吾妻さんは』
今は篠崎のような小物に時間も労力も割かず、明星会のため朔也のために時間を割く方が建設的なのではないかとも。
甘えてしまおうと思った。甘えてもいいのではないかと思った。
『篠崎のこと、お任せ致します』
座ったままではあるが深々と頭を下げる吾妻に恐縮するのは工藤の方だ。
ただの汚名返上であって、他意はないといい募るが、周囲からしたら工藤は、わざわざ返上しなければならないほどの汚名など負ってはいない。
冷酷な極道でありながら、冷静な実業家でありながら、明星会の、吾妻の荷物を半分いや、それ以上に背負おうとしてくれているのだ。
しかし、この時点で吾妻は、工藤の純粋で柔らかな感情には全く気づくことはできずにいた。
年甲斐もなく淡い想いを抱いている工藤に、バッサリとビジネスの提案をしてしまう吾妻は、正に空気の読めない男と言ったところだろう。
『であれば、工藤さん』
駅前の再開発は、辰星会のフロント企業の1つである不動産会社に任せます。と言いきってしまう。
いくつものテナントビルで利益を上げる明星会だが、土地開発に関してはあまり得意な分野ではない。しかし工藤はこれまでも様々な新規開発や再開発で辣腕を奮って来た男だ。
結果的に創世会への上納も多くなる。名案とばかりに提案する吾妻だが、工藤は苦笑いを浮かべ
『その話は、天海さんの目が醒めてからですね』
と言ったきり、ソファから立ち上がってしまう。
『こんな時に長居をしてご無礼致しました』
綺麗な所作で頭を下げ、薄暗い廊下を後にしたのだった。
工藤は自ら篠崎に制裁を加えようとしている。しかも今回朔也が撃たれたこととは無関係に、一度は逃走を許した男への落とし前をつけると言う体で。
確かにおかしな話ではない。あの漁港からの帰り道、創世会に牙を剥くために逃げ出した篠崎に当事者である辰星会が手を下すと言うのなら、土門に小言の1つや2つ言われたとしても、大事には至らないだろう。
しかし朔也が撃たれた今、そこまでを辰星会にさせるべきではない。明星会が動くべきなのだ。
本部もそれを許すだろう。
そして何より極道としては些か繊細な工藤にあまり手荒なことはさせたくなかった。
実業家として大成する器を持った男に汚れ仕事をさせるのは朔也だけで十分なのではないだろうか。
もっとも朔也に汚れ仕事をさせるに当たって、自身も極道に身を落とした吾妻だが、工藤に対して今、同様のことができるわけではない。
『吾妻さん』
私も極道の端くれなのだから自身の汚名は自身で返上するのだと言う。
『それに吾妻さんは』
今は篠崎のような小物に時間も労力も割かず、明星会のため朔也のために時間を割く方が建設的なのではないかとも。
甘えてしまおうと思った。甘えてもいいのではないかと思った。
『篠崎のこと、お任せ致します』
座ったままではあるが深々と頭を下げる吾妻に恐縮するのは工藤の方だ。
ただの汚名返上であって、他意はないといい募るが、周囲からしたら工藤は、わざわざ返上しなければならないほどの汚名など負ってはいない。
冷酷な極道でありながら、冷静な実業家でありながら、明星会の、吾妻の荷物を半分いや、それ以上に背負おうとしてくれているのだ。
しかし、この時点で吾妻は、工藤の純粋で柔らかな感情には全く気づくことはできずにいた。
年甲斐もなく淡い想いを抱いている工藤に、バッサリとビジネスの提案をしてしまう吾妻は、正に空気の読めない男と言ったところだろう。
『であれば、工藤さん』
駅前の再開発は、辰星会のフロント企業の1つである不動産会社に任せます。と言いきってしまう。
いくつものテナントビルで利益を上げる明星会だが、土地開発に関してはあまり得意な分野ではない。しかし工藤はこれまでも様々な新規開発や再開発で辣腕を奮って来た男だ。
結果的に創世会への上納も多くなる。名案とばかりに提案する吾妻だが、工藤は苦笑いを浮かべ
『その話は、天海さんの目が醒めてからですね』
と言ったきり、ソファから立ち上がってしまう。
『こんな時に長居をしてご無礼致しました』
綺麗な所作で頭を下げ、薄暗い廊下を後にしたのだった。
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