80 / 197
違和感の正体
80
しおりを挟む
なんとも殺伐とした気分のまま帰宅した朔也は、すぐさまゲストルームのドアを開けた。
急いた気持ちを押さえつつ、音を立てぬようドアを開ければ、佐伯に額の汗を拭われながら陽が眠っている。
夕方暗くなる前に咲恵を帰宅させ、その後は佐伯が陽の様子を見ていたようだ。
楠瀬からのメッセージで、陽の様子は報告が入っていたが、やはり医師の存在は心強い。
『解熱剤を自分で飲めたんだよ』
だから点滴も必要なく、熱も落ち着いてきたと言う。
陽の年齢だけを考えれば、薬を飲むなど造作もないように感じるが、何せ初めての飲み薬なのだ。
確率的に少ないとは言え医師として副反応にも気を回したのだろう。
『予想はしてたけど』
初めての外出は、やはり陽にとっては大きな負担だったのだ。
疲れて体調を崩してしまっただけだから、休めば元気になるけど、と続く佐伯の言葉に少々安堵した朔也だが、やはり目の前の陽が心配でならない。
あの男「タツヤ」は、こんな風に陽を心配したのだろうか。
ふと過る、そんな思考を頭を振って追い払う。
前田達也は長谷美由紀と陽を置いていった男なのだ。気に留める必要などない。
頭では解っていても、何故こんなにも感情を乱されるのか。
朔也自身、既にその答えに辿り着いていた。
当然、陽を捨てたことを許せないから。しかし、それだけではない。
陽にとって何者でもない自分と、陽と血縁のある「タツヤ」を比べたのだ。
醜い嫉妬。そう言われても仕方のない感情。
嫉妬を燃やすに値しないことなど、頭では理解しているのだ。
陽を知り、この歳になって覚えたばかりの感情を、やはり今も巧く消化できずにいる。
『若、何かあったのかい?』
つい先日まで、朔也が何を考え何をしていようとも興味を持たなかった佐伯が訝しげに問う。
佐伯に話したところで、吾妻の報告を待たなければ、何かが変わるわけではないのだが
『陽の父親が見つかったかもしれない』
闇医者などと言う生業で生きている佐伯は、組関係の仕事のみを依頼していた時は常に眉間に皺を寄せていた。ところが、陽の診察を依頼してからこっち、陽の前では柔らかな表情を見せていた。
しかし、たった今の朔也の告白が以前の佐伯の表情を呼び戻したようだ。
険しい表情を朔也に向けている。
『探しだしたのかい?』
明星会はそれほど暇ではないか。
朔也が答える前に、自身の疑問に自身で答えを出した佐伯は朔也からの答えを待っている。
『いや。恐らく偶然だ』
前田達也は、朔也が陽を保護したなどと思ってもいないだろう。
陽が『陽』と呼ばれていることも知らなければ、生死すら知らないはずだ。
知りたいとも思っていないのかもしれない。
『吾妻に調査を命じてある』
無意識のうちに息を詰めていたのだろう。佐伯がふっと息を吐く。
『それなら、すぐに真実がわかるね』
真実が露呈したならば、己はどうするべきなのだろう。どうしたいのだろう。
黙り込む朔也に、佐伯はそれ以上何も聞かず、男2人で陽の寝顔を見守った。
急いた気持ちを押さえつつ、音を立てぬようドアを開ければ、佐伯に額の汗を拭われながら陽が眠っている。
夕方暗くなる前に咲恵を帰宅させ、その後は佐伯が陽の様子を見ていたようだ。
楠瀬からのメッセージで、陽の様子は報告が入っていたが、やはり医師の存在は心強い。
『解熱剤を自分で飲めたんだよ』
だから点滴も必要なく、熱も落ち着いてきたと言う。
陽の年齢だけを考えれば、薬を飲むなど造作もないように感じるが、何せ初めての飲み薬なのだ。
確率的に少ないとは言え医師として副反応にも気を回したのだろう。
『予想はしてたけど』
初めての外出は、やはり陽にとっては大きな負担だったのだ。
疲れて体調を崩してしまっただけだから、休めば元気になるけど、と続く佐伯の言葉に少々安堵した朔也だが、やはり目の前の陽が心配でならない。
あの男「タツヤ」は、こんな風に陽を心配したのだろうか。
ふと過る、そんな思考を頭を振って追い払う。
前田達也は長谷美由紀と陽を置いていった男なのだ。気に留める必要などない。
頭では解っていても、何故こんなにも感情を乱されるのか。
朔也自身、既にその答えに辿り着いていた。
当然、陽を捨てたことを許せないから。しかし、それだけではない。
陽にとって何者でもない自分と、陽と血縁のある「タツヤ」を比べたのだ。
醜い嫉妬。そう言われても仕方のない感情。
嫉妬を燃やすに値しないことなど、頭では理解しているのだ。
陽を知り、この歳になって覚えたばかりの感情を、やはり今も巧く消化できずにいる。
『若、何かあったのかい?』
つい先日まで、朔也が何を考え何をしていようとも興味を持たなかった佐伯が訝しげに問う。
佐伯に話したところで、吾妻の報告を待たなければ、何かが変わるわけではないのだが
『陽の父親が見つかったかもしれない』
闇医者などと言う生業で生きている佐伯は、組関係の仕事のみを依頼していた時は常に眉間に皺を寄せていた。ところが、陽の診察を依頼してからこっち、陽の前では柔らかな表情を見せていた。
しかし、たった今の朔也の告白が以前の佐伯の表情を呼び戻したようだ。
険しい表情を朔也に向けている。
『探しだしたのかい?』
明星会はそれほど暇ではないか。
朔也が答える前に、自身の疑問に自身で答えを出した佐伯は朔也からの答えを待っている。
『いや。恐らく偶然だ』
前田達也は、朔也が陽を保護したなどと思ってもいないだろう。
陽が『陽』と呼ばれていることも知らなければ、生死すら知らないはずだ。
知りたいとも思っていないのかもしれない。
『吾妻に調査を命じてある』
無意識のうちに息を詰めていたのだろう。佐伯がふっと息を吐く。
『それなら、すぐに真実がわかるね』
真実が露呈したならば、己はどうするべきなのだろう。どうしたいのだろう。
黙り込む朔也に、佐伯はそれ以上何も聞かず、男2人で陽の寝顔を見守った。
10
お気に入りに追加
259
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
少年ペット契約
眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。
↑上記作品を知らなくても読めます。
小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。
趣味は布団でゴロゴロする事。
ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。
文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。
文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。
文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。
三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。
文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。
※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。
※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。
ずっと女の子になりたかった 男の娘の私
ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。
ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。
そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。
女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男
湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。
何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
くまさんのマッサージ♡
はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。
2024.03.06
閲覧、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。
2024.03.10
完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m
今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。
2024.03.19
https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy
イベントページになります。
25日0時より開始です!
※補足
サークルスペースが確定いたしました。
一次創作2: え5
にて出展させていただいてます!
2024.10.28
11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。
2024.11.01
https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2
本日22時より、イベントが開催されます。
よろしければ遊びに来てください。
童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった
なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。
ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる