太陽と月

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違和感の正体

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咲恵に陽を託し、後ろ髪引かれる思いで自宅を発ち、麻生の運転で件の風俗店へと向かう。

車中でノートパソコンを広げ、何本かの電話をかける。1時間弱の移動時間で最低限の仕事をこなす頃には、一軒のテナントビルの前で車が停まった。

明星会のフロント企業の1つである不動産会社が所有するテナントビルは一見するとオフィスビルのようにしか見えないのだが、入居しているのは全てが特殊な会員制の風俗店である。
そして、入居している風俗店の運営も全て明星会のフロントが担っているのだ。
有事の際は共倒れになる恐れもあるフロント企業同士の商売だが、どちらも黒字経営を継続している。

ビルのメインエントランスを通り抜けるにも各々の店が発行している会員証が必要となる。
商売柄、様々な犯罪に巻き込まれることを防ぐ為の手段であり、ゲストだけでなくキャストも何時、誰が出入りしているのかは詳細に記録されている。

朔也とて例外ではない。

スタッフとして登録している自身の会員証をエントランスのリーダーに翳し、麻生と共にエレベーターへと乗り込む。

3階でエレベーターのドアが開くと改装が済んだばかりの店舗への扉が開いている。
面接開始の予定時刻まで30分以上あるが、朔也を迎える為に店長がエレベーターホールで待機していたのだろう。

『社長お疲れさまです』

やや緊張の面持ちで、朔也と麻生を店内へと案内する。

面接は接客フロアの一角を利用するようだが

『バックヤードから映像も音声も確認できるよう用意しております』

朔也が表に立つことなく様子を伺えるようにとの配慮だろう。
であれば、面接は店長に任せ、朔也は麻生を伴いバックヤードで目を光らせることが可能なのだ。

店長がバックヤードで朔也と麻生2人分のコーヒーを用意した頃には1人目の面接予定者が現れた。

いくら関係者からの紹介とは言っても全ての人間が採用となるわけではない。
風俗畑での経験が長い店長の眼鏡にかなった者でなければ容赦なく弾かれていくのだ。

だからこそなのだろう。風俗店と言う看板が掲げられているのにも関わらず、特にトラブルが起きたことはない。

今回も店長に任せておけば何等問題はないはずだが、朔也は自ら違和感の正体を確かめるべくバックヤードからモニターとスピーカーに集中したのだ。

面接は風俗店でのそれとは思えないほど粛々と行われ、最後の1人が現れた瞬間、朔也は片眉をピクリと上げ、モニターに釘付けとなった。

直感で、違和感の正体はこの男だと思ったのだ。
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