65 / 197
陽の試練 蒴也の忍耐
65
しおりを挟む
そうして暫く炎星会の監視を続けていたが、特に動きはない。
ハッカー達に監視を任せ、蒴也は吾妻と共に執務室へと籠った。
炎星会のことだけに感けてはいられないのだ。フロント企業の1つである不動産会社では大きな取引を控えているし、風俗店も何軒かオープンが間近に迫っている。他にも蒴也の決裁がなければ動かない案件がいくつもあるのだ。
本当ならば、それぞれのフロント企業に出向き仕事をするべきなのだが、如何せん時間が足りない。
組事務所の自身の執務室であれば情報を集約した状態で合理的な仕事ができるのだ。
吾妻も普段であれば吾妻個人にあてがわれた別の執務室に入るのだが、今日は蒴也と共に仕事をするつもりらしい。上背のある吾妻には使い難いだろうに、ソファに腰掛け早々にノートパソコンを立ち上げている。
そして吾妻の容赦ない声が蒴也の耳に届く。
『とりあえずメールのチェックを』
吾妻により山のような添付ファイルのくっついたメールが50件ほど送信されたようだ。
『それを片付ければ、今日は陽くんの所に帰っていただいて構いませんよ』
結城がすぐには動かないと踏んだのだろう。
1日組事務所に詰める必要はないと言っているのだ。
とは言っても、この量のメールを1つずつチェックするとなれば、丸1日かかってもおかしくはない。
誰よりも蒴也のスイッチを押すのが巧い吾妻は蒴也に能率的な仕事をさせるため、ここで陽の名前を出したのだ。
勿論今の蒴也がそれに乗らないわけがない。一刻も早く陽の下へと帰りたいのだから。
ヤクザと言えど元々は経営者色の強い蒴也なのだ。事務処理の能力には長けている。
しかも必要な情報も材料も吾妻を初めとする幹部やフロント企業の役員達が集めてくれている。
そこに獣も顔負けの天性の勘を働かせ、巧妙に仕掛けられたトラップの有無を見破るのが蒴也の主な仕事なのだ。天性の勘と言うよりも洞察力と経験なのだろうが、それを巧く言葉にするのは、なかなかに難儀なことでもあった。
やはり今日も1つ引っ掛かりを覚えた蒴也だった。
『吾妻』
パソコンのモニターを睨んだままの蒴也はメールの添付ファイルを読み直している。
『この風俗店のオープニングスタッフの面接俺が行く』
新たにオープンする風俗店のうちの1つ、ゲイ専門の風俗店の面接に蒴也自身が面接官として行くのだと言う。
『何か気になることでも?』
面接予定者の一覧名簿を眺めながら吾妻が確認しても
『よく解らねえが、何か気になる』
野生の勘が発動したらしい。
『かしこまりました。計らいます』
フロント企業直営の風俗店とは言え、スタッフの面接を蒴也自身がすることなど殆んどない。
何が起こるのだろうか。吾妻だけでなく当の蒴也にも漠然とした違和感があるだけなのだが、ここは外してはいけないような気がしたのだ。
ハッカー達に監視を任せ、蒴也は吾妻と共に執務室へと籠った。
炎星会のことだけに感けてはいられないのだ。フロント企業の1つである不動産会社では大きな取引を控えているし、風俗店も何軒かオープンが間近に迫っている。他にも蒴也の決裁がなければ動かない案件がいくつもあるのだ。
本当ならば、それぞれのフロント企業に出向き仕事をするべきなのだが、如何せん時間が足りない。
組事務所の自身の執務室であれば情報を集約した状態で合理的な仕事ができるのだ。
吾妻も普段であれば吾妻個人にあてがわれた別の執務室に入るのだが、今日は蒴也と共に仕事をするつもりらしい。上背のある吾妻には使い難いだろうに、ソファに腰掛け早々にノートパソコンを立ち上げている。
そして吾妻の容赦ない声が蒴也の耳に届く。
『とりあえずメールのチェックを』
吾妻により山のような添付ファイルのくっついたメールが50件ほど送信されたようだ。
『それを片付ければ、今日は陽くんの所に帰っていただいて構いませんよ』
結城がすぐには動かないと踏んだのだろう。
1日組事務所に詰める必要はないと言っているのだ。
とは言っても、この量のメールを1つずつチェックするとなれば、丸1日かかってもおかしくはない。
誰よりも蒴也のスイッチを押すのが巧い吾妻は蒴也に能率的な仕事をさせるため、ここで陽の名前を出したのだ。
勿論今の蒴也がそれに乗らないわけがない。一刻も早く陽の下へと帰りたいのだから。
ヤクザと言えど元々は経営者色の強い蒴也なのだ。事務処理の能力には長けている。
しかも必要な情報も材料も吾妻を初めとする幹部やフロント企業の役員達が集めてくれている。
そこに獣も顔負けの天性の勘を働かせ、巧妙に仕掛けられたトラップの有無を見破るのが蒴也の主な仕事なのだ。天性の勘と言うよりも洞察力と経験なのだろうが、それを巧く言葉にするのは、なかなかに難儀なことでもあった。
やはり今日も1つ引っ掛かりを覚えた蒴也だった。
『吾妻』
パソコンのモニターを睨んだままの蒴也はメールの添付ファイルを読み直している。
『この風俗店のオープニングスタッフの面接俺が行く』
新たにオープンする風俗店のうちの1つ、ゲイ専門の風俗店の面接に蒴也自身が面接官として行くのだと言う。
『何か気になることでも?』
面接予定者の一覧名簿を眺めながら吾妻が確認しても
『よく解らねえが、何か気になる』
野生の勘が発動したらしい。
『かしこまりました。計らいます』
フロント企業直営の風俗店とは言え、スタッフの面接を蒴也自身がすることなど殆んどない。
何が起こるのだろうか。吾妻だけでなく当の蒴也にも漠然とした違和感があるだけなのだが、ここは外してはいけないような気がしたのだ。
0
お気に入りに追加
258
あなたにおすすめの小説
歩けなくなったお荷物な僕がセレブなイケメン社長に甘々なお世話されています
波木真帆
BL
僕、佐伯ひかるは生まれてすぐに両親に置き去りにされ、児童養護施設で育った。
引取先が見つからないまま義務教育を終えたその日、ようやく引きとられたのは商店街にある小さな定食屋。
やっと両親ができたと喜んだもの束の間、ただの労働力だったと知るもどうすることもできず働き詰めの毎日を過ごしていた。
そんなある日、買い物を言いつけられ急いで帰る途中に和服姿の少し年配の女性を庇って交通事故に遭ってしまう。
もう一生歩けないかもしれないと言われた僕は養父母からお荷物はいらないと言われてしまって……。
可哀想な人生を送ってきた心優しい美少年とセレブなイケメン社長とのハッピーエンド小説です。
R18には※つけます。
潜入した僕、専属メイドとしてラブラブセックスしまくる話
ずー子
BL
敵陣にスパイ潜入した美少年がそのままボスに気に入られて女装でラブラブセックスしまくる話です。冒頭とエピローグだけ載せました。
悪のイケオジ×スパイ美少年。魔王×勇者がお好きな方は多分好きだと思います。女装シーン書くのとっても楽しかったです。可愛い男の娘、最強。
本編気になる方はPixivのページをチェックしてみてくださいませ!
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=21381209
溺愛弁護士の裏の顔 〜僕はあなたを信じます
波木真帆
BL
僕は21歳の大学生。コンビニでバイト中あらぬいざこざに巻き込まれてバイトを辞めることになった。けれど、その時助けてくれたスーツ姿のイケメン弁護士さんに事務所で働かないかと誘われて働くことに。けれど、彼には何か秘密があるようで……。
何か秘密を持っているイケメン弁護士と美少年大学生のイチャラブハッピーエンド小説です。
あらすじでネタバレになるのはつまらないかなとかなり端折ってますが、ずっと読んでくださっている方にはすぐにピンとくるかもしれません笑
タイトルに悩みまくって少しいつもとテイストが違ってますが中身はいつもと同じ溺愛モードになってますので楽しんでいただけると思います。
一応シリーズになりますが、こちらは単体でも楽しんでいただけます。
R18には※つけます。
ひとりぼっちになった僕は新しい家族に愛と幸せを教えてもらいました
波木真帆
BL
迫田直純(14歳)は自分の母親が誘拐という重大な犯罪を犯し警察に捕まえられていくのを目の当たりにする。
そのことで日本での仕事が難しくなった父は中東で単身赴任という道を選んだ。
ひとりで日本に取り残されることになった僕は、その場に居合わせた磯山という弁護士さんの家にしばらくお世話になることになった。
そこでの生活は僕が今まで過ごしてきた毎日とは全く別物で、最初は戸惑いつつも次第にこれが幸せなのかと感じるようになった。
そんな時、磯山先生の甥っ子さんが一緒に暮らすようになって……。
母親に洗脳され抑圧的な生活をしてきた直純と、直純に好意を持つ高校生の昇との可愛らしい恋のお話です。
こちらは『歩けなくなったお荷物な僕がセレブなイケメン社長に甘々なお世話されています』の中の脇カップルだったのですが、最近ものすごくこの2人の出番が増えてきて主人公カップルの話が進まないので、直純が磯山先生宅にお世話になるところから話を独立させることにしました。
とりあえずあちらの話を移動させて少しずつ繋がりを綺麗にしようと思っています。
年齢の都合もありR18までは少しかかりますが、その場面には※つけます。
天涯孤独になった僕をイケメン外国人が甘やかしてくれます
波木真帆
BL
日本の田舎町に住む高校生の僕・江波弓弦は、物心ついた時には家族は母しかいなかった。けれど、僕の顔には父の痕跡がありありと残っていた。
光に当たると金髪にも見える薄い茶色の髪、そしてグリーンがかった茶色の瞳……日本人の母にはないその特徴で、父は外国人なのだと分かった。けれど、父の手がかりはそれだけ。母に何度か父のことを尋ねたけれど、悲しそうな顔をするだけで、僕は聞いてはいけないことだと悟り、父のことを聞くのをやめた。母ひとり子ひとりで大変ながらも幸せに暮らしていたある日、突然の事故で母を失い、天涯孤独になってしまう。
どうしたらいいか途方に暮れていた時、母が何かあった時のためにと残してくれていたものを思い出し、それを取り出すと一枚の紙が出てきて、そこには11桁の数字が書かれていた。
それが携帯番号だと気づいた僕は、その番号にかけて思いがけない人物と出会うことになり……。
イケメンでセレブな外国人社長と美少年高校生のハッピーエンド小説です。
R18には※つけます。
おっさん聖女は王国一の騎士と魔法契約を交わす
月歌(ツキウタ)
BL
30代後半の疲れ気味なサラリーマン、山下真琴は数人の女子と共に、聖女として異世界に召喚された。そこは、乙女ゲーム『☆聖女は痛みを引き受けます☆』の世界だった。男の真琴も聖女と認定され、戦場に赴く王国一の騎士と魔法契約を交わした。離れた場所で、傷を共有しながら、戦争を終結に導くのが聖女の役目。戦争が終わり、役目が終わりかと思えば、騎士との恋愛ゲームが待っていた。おっさんは、早くバッドエンドを迎えたい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる