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魔のバスタイム
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普段言葉を発することが少ない陽がハッキリと
「痛い」と口にしたことで蒴也の罪悪感と、そして庇護欲が同時に発動した。
罪悪感に関して言えば、痛みを与えてしまったことだけでなく、卑猥な欲を抱えたその手で陽に触れてしまったことで更に大きくなったのだが。
陽に痛みを与えたのは間違いなく己なのだと思えば、目一杯甘やかしたくなるのは仕方のないことだろう。
柔軟剤の効いたバスタオルで陽の全身を包み丁寧に拭う。
陽を幼子のように縦抱きしてリビングに戻る。つもりだったのだが、キッチンに少し寄り道をする。冷蔵庫の扉を開け、紙パックのジュースを取り出した。
『陽、どれがいい?』
林檎と、桃と、あと葡萄もあるぞ。陽がおやつで食べたのは葡萄だったな。
1つずつ見せれば、陽は葡萄ジュースに手を伸ばした。
『陽は葡萄の味が好きなのかもな』
ストローを刺してジュースを渡せば、蒴也に抱っこされたままコクコクと嚥下する。
少々行儀が悪いのは解っているが、陽を甘やかしたいのだから仕方ない。
ソファに座っても陽を膝の上に乗せ、柔らかな髪の感触を楽しんだ。
風呂に入ったせいで喉が渇いていたのだろう。大して時間をかけずにジュースを飲み終わった陽は既に眠そうである。
『陽、歯磨きして、髪の毛乾かしてから寝ような』
艶のある黒髪にドライヤーの熱を当てコーミングすれば、歪み1つない真ん丸の天使の輪が現れる。
『やっぱり陽は天使なんだよな』
蒴也は陽と同じ年齢の頃から、既に悪いことばかりしていた。そして世間に顔向けできないようなことを現在進行形でしてもいる。
それでも蒴也の下に舞い降りてくれた天使を改めて愛おしいと、護りたいと思う。
そして、これからも何度となく同じことを思うのだろう。
そんな天使が歯ブラシを口の中でモゴモゴと動かすのをいかがわしい想いを抱きながら見守る。
いや、それどころではないのだ。
『夜だけは仕上げ磨きしてあげてね』
咲恵の言葉を思い出す。
『陽、あーん。あーんできる?』
陽と目線の高さを合わせ、蒴也が「あーん」とやって見せれば、それにつられて陽が口を開くのだが…
『あっ ちょっと陽。あーんしたままだよ。はい、あーん』
他人からされる歯磨きに慣れないのか、くすぐったいのか、すぐに口を閉じてしまう。
仕上げ磨きの時の陽はなかなかに手強かった。10分以上かけて磨き終わる頃には、陽の瞼が半分閉じかかっている。
『おしっこ』
眠い目をこすりつつ、蒴也の指に指を絡ませる。
蒴也にとっては本日最後の修行となるだろう。
もっとも、明日も朝から始まる修行ではあるのだが。
『おやすみ』
昨日まで同様、陽をゲストルームのベッドに横たえる。
そして昨日同様、陽は繋いだ手を離さない。
だが、ゲストルームのベッドは些か狭い。
自宅と言う究極のプライベート空間に複数人を迎え入れると言う概念がなかったからだ。
『それなら』
俺の部屋で一緒に寝よう。
蒴也の部屋であれば、長身に見合ったクイーンサイズのベッドがあるのだ。
『陽が初めてなんだからな』
このマンションへの出入りが一番多い吾妻とは、何年か前まではリビングでよく酒を呑んだ。もっとも最近は、そんな時間すら取れず、酒も呑まずに仕事を片付けるばかりの部屋になってしまったのだが、今も昔も、そのまま2人してリビングで寝てしまうのが常だった。
蒴也の部屋の蒴也のベッドで朝まで過ごした相手などいない。
蒴也のベッドに入っても相変わらず互いの指を絡めたまま。
先ほど本日最後の修行を終えたはずの蒴也は、また悶々とする夜を過ごす覚悟を決めた。
『陽おやすみ』
「痛い」と口にしたことで蒴也の罪悪感と、そして庇護欲が同時に発動した。
罪悪感に関して言えば、痛みを与えてしまったことだけでなく、卑猥な欲を抱えたその手で陽に触れてしまったことで更に大きくなったのだが。
陽に痛みを与えたのは間違いなく己なのだと思えば、目一杯甘やかしたくなるのは仕方のないことだろう。
柔軟剤の効いたバスタオルで陽の全身を包み丁寧に拭う。
陽を幼子のように縦抱きしてリビングに戻る。つもりだったのだが、キッチンに少し寄り道をする。冷蔵庫の扉を開け、紙パックのジュースを取り出した。
『陽、どれがいい?』
林檎と、桃と、あと葡萄もあるぞ。陽がおやつで食べたのは葡萄だったな。
1つずつ見せれば、陽は葡萄ジュースに手を伸ばした。
『陽は葡萄の味が好きなのかもな』
ストローを刺してジュースを渡せば、蒴也に抱っこされたままコクコクと嚥下する。
少々行儀が悪いのは解っているが、陽を甘やかしたいのだから仕方ない。
ソファに座っても陽を膝の上に乗せ、柔らかな髪の感触を楽しんだ。
風呂に入ったせいで喉が渇いていたのだろう。大して時間をかけずにジュースを飲み終わった陽は既に眠そうである。
『陽、歯磨きして、髪の毛乾かしてから寝ような』
艶のある黒髪にドライヤーの熱を当てコーミングすれば、歪み1つない真ん丸の天使の輪が現れる。
『やっぱり陽は天使なんだよな』
蒴也は陽と同じ年齢の頃から、既に悪いことばかりしていた。そして世間に顔向けできないようなことを現在進行形でしてもいる。
それでも蒴也の下に舞い降りてくれた天使を改めて愛おしいと、護りたいと思う。
そして、これからも何度となく同じことを思うのだろう。
そんな天使が歯ブラシを口の中でモゴモゴと動かすのをいかがわしい想いを抱きながら見守る。
いや、それどころではないのだ。
『夜だけは仕上げ磨きしてあげてね』
咲恵の言葉を思い出す。
『陽、あーん。あーんできる?』
陽と目線の高さを合わせ、蒴也が「あーん」とやって見せれば、それにつられて陽が口を開くのだが…
『あっ ちょっと陽。あーんしたままだよ。はい、あーん』
他人からされる歯磨きに慣れないのか、くすぐったいのか、すぐに口を閉じてしまう。
仕上げ磨きの時の陽はなかなかに手強かった。10分以上かけて磨き終わる頃には、陽の瞼が半分閉じかかっている。
『おしっこ』
眠い目をこすりつつ、蒴也の指に指を絡ませる。
蒴也にとっては本日最後の修行となるだろう。
もっとも、明日も朝から始まる修行ではあるのだが。
『おやすみ』
昨日まで同様、陽をゲストルームのベッドに横たえる。
そして昨日同様、陽は繋いだ手を離さない。
だが、ゲストルームのベッドは些か狭い。
自宅と言う究極のプライベート空間に複数人を迎え入れると言う概念がなかったからだ。
『それなら』
俺の部屋で一緒に寝よう。
蒴也の部屋であれば、長身に見合ったクイーンサイズのベッドがあるのだ。
『陽が初めてなんだからな』
このマンションへの出入りが一番多い吾妻とは、何年か前まではリビングでよく酒を呑んだ。もっとも最近は、そんな時間すら取れず、酒も呑まずに仕事を片付けるばかりの部屋になってしまったのだが、今も昔も、そのまま2人してリビングで寝てしまうのが常だった。
蒴也の部屋の蒴也のベッドで朝まで過ごした相手などいない。
蒴也のベッドに入っても相変わらず互いの指を絡めたまま。
先ほど本日最後の修行を終えたはずの蒴也は、また悶々とする夜を過ごす覚悟を決めた。
『陽おやすみ』
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