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新たな生活
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リビングに戻った佐伯は、ソファに腰を下ろすなり懐からスマートフォンを取り出す。
時刻は9時前。一般的に電話をかけるには少し早い時間のような気もするが、それを気にしないほどの仲なのだろう。若しくは一刻も早く中野咲恵の答えを聞きたいのか。
『あ、咲恵さん朝早くごめんね、実は』
佐伯は穏やかに、そして誠実に陽の過去と現状を伝えている。当然蒴也の立場にも触れたのだが、会話は止まることなく続いていた。
『ありがとう。咲恵さん。』
で、いつからお願いできる?聞いた佐伯が唖然として聞き返す。
『本当に?ちょっと待ってて』
スマートフォンから一度耳を離し吾妻に視線を合わせた佐伯は
『これから来るって言ってるんだけど住所を教えても?』
あまりの早急さに戸惑いを見せながらも、期待を滲ませた表情で首を傾げている。
『構いませんよ。と言うより助かります』
調査結果に問題はなかったのだ、否はない。
佐伯は吾妻の答えに1つ頷き、咲恵にマンションの住所を伝えている。
『じゃぁ、待ってるね。着いたら僕に電話して』
中野咲恵は、蒴也のマンションから5~6キロ離れた隣町の住宅街に住んでいる。夫である中野保夫が残した家だが、医師の自宅らしからぬ質素な家だと言う。
そして咲恵自身も慎ましやかな生活を好む女性で、移動手段は公共交通機関か自転車で、今日も自転車での来訪らしい。
『お迎えにあがらなくても、よろしいのでしょうか』
陽のサポートをお願いするのだ。吾妻にとっては、それが当然だったのだが
『咲恵さんは、そう言うのを好まないからね』
どのような条件で、どのようにサポートを依頼するか、具体的な話は何もない中、咲恵は自ら足を運んでくれると言う。
吾妻はそこに佐伯と咲恵の信頼関係を見たような気がした。
咲恵との短い通話を終え暫くした頃、陽と蒴也がゆっくりとトイレから戻る。
既にコーヒーを入れ終えた吾妻だが、それをソファテーブルに置く前に先日コンビニで買い込んだ紙パックのお茶を手に取った。
ソファに座った蒴也にそれを渡せばストローを刺し、隣に座らせた陽の口元に近づけている。
『陽、お茶、飲めるか?』
無言のままだが、ストローに口をつけた陽がコクリコクリとお茶を嚥下しているのが見える。
吾妻はそれを確認して
『レトルトですが、お粥を用意しましょうか』
陽ではなく、佐伯に問う。
『そうだね。どの程度食べられるかも見たいし』
蒴也と佐伯の前にコーヒーカップを置くと、早々にお粥を温める。たかだかレトルトのお粥だ。用意するのに時間がかかるわけではない。
器に移して陽の前に置けば、当然のように隣の蒴也がそれを手に取る。
幼子にするように冷ましたお粥を口元に近づければ、特に躊躇うこともなく陽はお粥を嚥下する。
無表情、無反応ではあるが、嫌がる素振りはなく、用意した半分ほどの量を食べたところで、陽は口を開けなくなった。
『う~ん。元々食が細いのか、病み上がりだからなのか』
食べる量が少ないことが気になるようだが今すぐどうにかできるものでもない。
『咲恵さんにも相談だな』
そして、佐伯のスマートフォンが鳴る。相談したい相手が到着したようだ。
時刻は9時前。一般的に電話をかけるには少し早い時間のような気もするが、それを気にしないほどの仲なのだろう。若しくは一刻も早く中野咲恵の答えを聞きたいのか。
『あ、咲恵さん朝早くごめんね、実は』
佐伯は穏やかに、そして誠実に陽の過去と現状を伝えている。当然蒴也の立場にも触れたのだが、会話は止まることなく続いていた。
『ありがとう。咲恵さん。』
で、いつからお願いできる?聞いた佐伯が唖然として聞き返す。
『本当に?ちょっと待ってて』
スマートフォンから一度耳を離し吾妻に視線を合わせた佐伯は
『これから来るって言ってるんだけど住所を教えても?』
あまりの早急さに戸惑いを見せながらも、期待を滲ませた表情で首を傾げている。
『構いませんよ。と言うより助かります』
調査結果に問題はなかったのだ、否はない。
佐伯は吾妻の答えに1つ頷き、咲恵にマンションの住所を伝えている。
『じゃぁ、待ってるね。着いたら僕に電話して』
中野咲恵は、蒴也のマンションから5~6キロ離れた隣町の住宅街に住んでいる。夫である中野保夫が残した家だが、医師の自宅らしからぬ質素な家だと言う。
そして咲恵自身も慎ましやかな生活を好む女性で、移動手段は公共交通機関か自転車で、今日も自転車での来訪らしい。
『お迎えにあがらなくても、よろしいのでしょうか』
陽のサポートをお願いするのだ。吾妻にとっては、それが当然だったのだが
『咲恵さんは、そう言うのを好まないからね』
どのような条件で、どのようにサポートを依頼するか、具体的な話は何もない中、咲恵は自ら足を運んでくれると言う。
吾妻はそこに佐伯と咲恵の信頼関係を見たような気がした。
咲恵との短い通話を終え暫くした頃、陽と蒴也がゆっくりとトイレから戻る。
既にコーヒーを入れ終えた吾妻だが、それをソファテーブルに置く前に先日コンビニで買い込んだ紙パックのお茶を手に取った。
ソファに座った蒴也にそれを渡せばストローを刺し、隣に座らせた陽の口元に近づけている。
『陽、お茶、飲めるか?』
無言のままだが、ストローに口をつけた陽がコクリコクリとお茶を嚥下しているのが見える。
吾妻はそれを確認して
『レトルトですが、お粥を用意しましょうか』
陽ではなく、佐伯に問う。
『そうだね。どの程度食べられるかも見たいし』
蒴也と佐伯の前にコーヒーカップを置くと、早々にお粥を温める。たかだかレトルトのお粥だ。用意するのに時間がかかるわけではない。
器に移して陽の前に置けば、当然のように隣の蒴也がそれを手に取る。
幼子にするように冷ましたお粥を口元に近づければ、特に躊躇うこともなく陽はお粥を嚥下する。
無表情、無反応ではあるが、嫌がる素振りはなく、用意した半分ほどの量を食べたところで、陽は口を開けなくなった。
『う~ん。元々食が細いのか、病み上がりだからなのか』
食べる量が少ないことが気になるようだが今すぐどうにかできるものでもない。
『咲恵さんにも相談だな』
そして、佐伯のスマートフォンが鳴る。相談したい相手が到着したようだ。
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