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出逢い そして救出
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依然として手を洗い続ける美由紀を防音室の外から覗いた佐伯は、往診鞄から注射器を用意する。
『吾妻君、ちょっと乱暴かもしれないけど手を貸してくれるかい?』
鎮静剤を投与するために美由紀の体を拘束しろと言っているのだ。
頷き協力する旨を伝えると、佐伯が防音室のドアを開ける。
男2人の入室に一瞬驚いたような顔をした美由紀は、それでも手を洗い続けている。
2人の男からもたらされる危険を認知し回避することよりも、手を洗うことを優先しているのだ。
吾妻が美由紀の動きを封じるように体を抑えれば、すかさず佐伯が鎮静剤を投与する。
間もなく体の力が抜け、その場に座り込んだ美由紀に佐伯は言い聞かせるように話し始める。
『長谷美由紀さん、ですね?怪我を消毒してもいいかな?』
美由紀からの返事はない。ないが、佐伯は額の傷の周囲に手を這わせ
『傷は浅いから、本当に消毒だけだよ』
美由紀の了承を得られないまま傷の手当てを始めたが鎮静剤の影響だろう。騒ぐこともなく手当てを受けている。
『長谷さん、随分と丁寧に手を洗えたね。もう手は汚れていないよ』
だから清潔な包帯を巻いて、また手が汚れてしまわないようにしよう。穏やかに語り掛ける佐伯は、ふやけて血の滲む手に薬を塗りガーゼをあて、厚めに包帯を巻く。
『これで、もう汚れないね』
佐伯の口調は幼子に対するそれのようだ。鎮静剤のせいなのか、はたまた佐伯の口調のせいなのか、漸く美由紀が口を開いた。
『あの子が吐いたから、あの子も私も汚れた。』
美由紀が言う『あの子』とは間違いなく、あの少年のことだろう。
『それなら長谷さん、これから体の消毒に行こうか』
佐伯の大学での同期が精神科の開業医をしているらしい。とりあえず、そこに入院させることが目的なのだろう。
専門医の力を借りなければ、これ以上は佐伯にもお手上げのようだ。
『佐伯先生、私は同伴できませんが、お願いしても?』
組の人間を付けるかとも聞いてみたが、組絡みのいざこざと無関係であれば佐伯1人に任せていいと言ってくれる。
あの少年は、意識のないまま佐伯の人間性すら変えてしまったのだろうか。
吾妻の中での佐伯は、もっと狡猾で強かな闇医者だった。
『僕は、この女に興味があるわけではないよ。ただ、あの子のことは救いたいと思う』
柄にもなく真っ直ぐに言う佐伯の言葉に嘘がないことは今までの付き合いから解っている。狡い男だが、こう言った場面で嘘をついたり誤魔化したりするような人間ではない。今は佐伯に甘える他に術がない。
他の幹部は若衆を連れ炎星会のことで多忙を極めている。
吾妻自身も創世会本部への報告書をあげなければならないし、フロント企業の方でもいくつか片付けなければならないこともある。
そして蒴也とあの少年の様子も気になっているのだ。
『それでは、麻生を運転手にお使いください。何かあれば私に連絡を。』
吾妻は今までないほど真摯に佐伯へと頭を下げる。
佐伯にもそれがわかったのだろう。
『明日の朝には若のマンションに行くから、その時に何か1つでもお土産が用意できればと思っているよ』
長谷美由紀を精神科の専門医に受診させれば、何らかの進展があることを佐伯は予想しているのだろう。であれば、1つと言わず幾つかの土産を持って蒴也とあの少年の下へ訪うことは予想に難くない。
『楽しみにお待ちしております』
再度頭を下げ、佐伯と長谷美由紀を見送った。
『吾妻君、ちょっと乱暴かもしれないけど手を貸してくれるかい?』
鎮静剤を投与するために美由紀の体を拘束しろと言っているのだ。
頷き協力する旨を伝えると、佐伯が防音室のドアを開ける。
男2人の入室に一瞬驚いたような顔をした美由紀は、それでも手を洗い続けている。
2人の男からもたらされる危険を認知し回避することよりも、手を洗うことを優先しているのだ。
吾妻が美由紀の動きを封じるように体を抑えれば、すかさず佐伯が鎮静剤を投与する。
間もなく体の力が抜け、その場に座り込んだ美由紀に佐伯は言い聞かせるように話し始める。
『長谷美由紀さん、ですね?怪我を消毒してもいいかな?』
美由紀からの返事はない。ないが、佐伯は額の傷の周囲に手を這わせ
『傷は浅いから、本当に消毒だけだよ』
美由紀の了承を得られないまま傷の手当てを始めたが鎮静剤の影響だろう。騒ぐこともなく手当てを受けている。
『長谷さん、随分と丁寧に手を洗えたね。もう手は汚れていないよ』
だから清潔な包帯を巻いて、また手が汚れてしまわないようにしよう。穏やかに語り掛ける佐伯は、ふやけて血の滲む手に薬を塗りガーゼをあて、厚めに包帯を巻く。
『これで、もう汚れないね』
佐伯の口調は幼子に対するそれのようだ。鎮静剤のせいなのか、はたまた佐伯の口調のせいなのか、漸く美由紀が口を開いた。
『あの子が吐いたから、あの子も私も汚れた。』
美由紀が言う『あの子』とは間違いなく、あの少年のことだろう。
『それなら長谷さん、これから体の消毒に行こうか』
佐伯の大学での同期が精神科の開業医をしているらしい。とりあえず、そこに入院させることが目的なのだろう。
専門医の力を借りなければ、これ以上は佐伯にもお手上げのようだ。
『佐伯先生、私は同伴できませんが、お願いしても?』
組の人間を付けるかとも聞いてみたが、組絡みのいざこざと無関係であれば佐伯1人に任せていいと言ってくれる。
あの少年は、意識のないまま佐伯の人間性すら変えてしまったのだろうか。
吾妻の中での佐伯は、もっと狡猾で強かな闇医者だった。
『僕は、この女に興味があるわけではないよ。ただ、あの子のことは救いたいと思う』
柄にもなく真っ直ぐに言う佐伯の言葉に嘘がないことは今までの付き合いから解っている。狡い男だが、こう言った場面で嘘をついたり誤魔化したりするような人間ではない。今は佐伯に甘える他に術がない。
他の幹部は若衆を連れ炎星会のことで多忙を極めている。
吾妻自身も創世会本部への報告書をあげなければならないし、フロント企業の方でもいくつか片付けなければならないこともある。
そして蒴也とあの少年の様子も気になっているのだ。
『それでは、麻生を運転手にお使いください。何かあれば私に連絡を。』
吾妻は今までないほど真摯に佐伯へと頭を下げる。
佐伯にもそれがわかったのだろう。
『明日の朝には若のマンションに行くから、その時に何か1つでもお土産が用意できればと思っているよ』
長谷美由紀を精神科の専門医に受診させれば、何らかの進展があることを佐伯は予想しているのだろう。であれば、1つと言わず幾つかの土産を持って蒴也とあの少年の下へ訪うことは予想に難くない。
『楽しみにお待ちしております』
再度頭を下げ、佐伯と長谷美由紀を見送った。
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