太陽と月

出逢い そして救出

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少年の側から離れない蒴也を部屋に残し、吾妻は麻生の運転する自動車で組事務所に戻った。
創世会傘下の同じく一次団体である辰星会の若頭補佐を始めとする幹部と炎星会の今後の扱いに関する意見調整のためだ。

明日の夜、炎星会が大量の薬物を積んだ船を北陸の漁港に接岸させるはずなのだ。
その動きを蒴也が盗聴で掴んだことを創世会本部に報告した際、明星会が証拠を掴み明星会が決着を付けるとなると、負担が大きすぎるのではないかと言いだした。

今の明星会にとっては、そこに割く金銭的な負担も人員的な負担も大したことではない。
しかし創世会全体としてみれば、明星会だけ面倒を強いらせると言う構図は避けたかったのであろう。
蒴也の、明星会の働きを認めた上で、同じ一次団体である辰星会に後の処理を担わせよ、とのお達しがあったのだ。

辰星会は明星会同様フロント企業をいくつも持つ資産は潤沢な組ではあるが、いかんせん抗争だなんだと言われる手荒なことはめっぽう苦手としている組だ。
そんな辰星会に炎星会とチャイニーズマフィアの取引現場を押さえるなど誰が考えても乱暴なことこの上ないと思うのだが、これはこれで巧くいくだろうと明星会サイドも、辰星会サイドも考えていた。


明星会も辰星会もインテリヤクザなのだ。やはり頭はいい。出たとこ勝負などと言う愚かなことは決してしない。
明星会が掴んだ情報は惜しみ無く差し出し、辰星会はそれを元に様々なシミュレーションを繰り返す。
そのシミュレーションに抜けや欠けがないか吾妻から意見を仰ぎ、更にアレンジを加えていく。如何なるシチュエーションに於いても万全の結果が得られるよう綿密な計画をたてるのだ。

もう3時間以上同じことを繰り返して、ここにいる全員が全てのシミュレーションを記憶しただろう。それほどまでに入念な計画をたてなければ無駄な怪我人を出してしまう恐れがあるからだ。
昔気質のやり方が悪いとは言わないが、無駄な血は流したくない。
それが明星会と辰星会の共通認識だ。

一通りのシミュレーションと意見調整を終え辰星会の面々が帰路につく。

吾妻はそれを見送り、もう1つの懸案に取り掛かるため事務所内の執務室へと向かった。

相手の正体がわかっていれば、先ほどのようなシミュレーションがいくらでも可能だ。

しかし見えているにも関わらず正体の掴めない相手には、いったいどうすればいいのだろう。

その答えに少しでも近付くため、吾妻はパソコンの電源をオンにした。