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第Ⅰ章

第5話 

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 百年祭2日目。
 祭りは昨日に比べさらに熱気が増していた。セイラのドレス姿お披露目は体調不良により延期となった、ということになっている。
「ではラグナたちよ、準備はよいか?」
「ああ」
「私も」
「大丈夫です」
「うむ。では始めよう」
 王は三人を三角形に立たせた。
 そして中心に立ち、右手を掲げた。
「時空よ、空間よ、そして世界樹の精霊よ。今、第三代エルリア国王の名のもとに、四賢者を蘇らせん!」
 国王が唱えると、三角形の魔法陣が現れた。
「ギガアクセル!」
 そして魔法の名前を詠唱する。たちまち国王の手から青色の光が発生し、大きな渦ができた。風が強い。
「行け!セイラを頼んだぞ!絶対に死ぬんじゃないぞ!」
「わかってる!待ってろよ、魔王!」
 ラグナたち三人は渦に飛び込んだ。セイラのときのように、白い光を出しながら消えていった。

 国王は玉座で一人つぶやいた。
「ラグナ……必ず、戻ってこい。…私は待っているぞ……」
 国王は天井の絵を見上げた。


★★★


 気づいたら、三人は何やらどでかい宮殿の前にいた。
「どこなんだ、ここ…」
 ラグナはつぶやいた。
 まるで怪獣でも入れそうな巨大な扉。白くそびえ立つ無数の柱。宮殿というよりかは、神殿という言葉のほうが似合いそうなその建造物に、ユンは思わず「うわあ…」と目を輝かせていた。
 もし国王の言っていたことが本当なら、この宮殿は……。
「ようこそ、刻の迷宮へ」
 一人の男が門に立っていた。
「と、刻の迷宮?じ、じゃあ、ここが…」
「そうです。ここが、四賢者の作りし究極の楽園エターナルエデン。エルリア神話では刻の迷宮と呼ばれています」
 男は淡々と話す。
「な、なあ!ここに、俺と同じ歳ぐらいの女の子来なかったか!?」
「まぁまぁそう焦らずに。まずは宮殿の中でお話を聞きましょうか」
 男は三人を中へ案内した。

 男は時の番人と名乗った。
「私はこの宮殿、もとい刻の迷宮を管理しているものです。ここを城に例えるなら、城主みたいなものですね」
「じゃあ、お前も四賢者の一人なのか?」
「うーん…そうでもあるし、そうでもないというか…」
 どうやら微妙な存在らしい。
「まあともかく、私がここの管理者ですから、もし何かわからないことがあったら、私に言ってください」
 ふう、と一息つくと、番人は話し始めた。
「では本題に入りましょう。あなた方は、A.D.3200、エルリア暦100年の百年祭2日目から来られたんですね?」
「え、ええ、まあ」
 クルアが答える。詳しすぎだ。
「私は時空を管理していますからね。時の動きには敏感なもんで」
「すげえな。で、俺達は、」
「わかっています。セイラ姫を探しに来たのでしょう?」
 時の番人はまるで既定事項だったかのように話す。
「ああ。わかってるなら話が早い。単刀直入に聞くが、セイラは今どこにいるんだ?」
「それが…」
 番人は深刻な顔をした。その後で困ったような顔をし、頭をボリボリと掻いた。
「私にも、わからないんです」
「「「はあ!?」」」
 三人の声が重なった。
「お前!さっき時空を管理してるって言ったじゃねえか!」
「落ち着いてください!これは、私だけの問題じゃないんです!」
 番人は三人をなだめた。そして説明を始めた。
「セイラ姫があなた方の時代から来たとき、実は妙なことが起きていたんです」
「妙なこと?」
「ええ。まず、あなた方が呼んでいるその『セイラ』という名前は、彼女の本当の名前ではないんです」
「どういうこと?」
 ユンが食い気味に聞く。
「『セイラ』という名前は、古代から呼ばれていた王家の姫の通り名なんです。彼女の本当の名前は、アンルシアといいます」
「アンルシア…」
「そうです。エルリアン・ステラ・アンルシア。これが彼女の名前です」
 三人は衝撃の事実に驚愕した。
「そして、その『セイラ』という名前は当然どの時代の姫にもついているわけです」
「確かに、それが本当ならそうなるな」
 クルアは納得したようだ。
「で、あなた方の時代の『セイラ』姫が刻の迷宮に来たとき、ほかの時代の『セイラ』姫すべてが刻の迷宮に召喚されたんです」
「ま、待て!ど、どういうことだ!?」
「つまり、各時代それぞれの『セイラ』姫が、それぞれの時代の刻の迷宮に同時に召喚されていたんです」
「なら、セイラを攫った奴は、ほかの時代の『セイラ』姫も全員攫ってたってことか?」
「現時点で誰に攫われたかは特定できていませんが、そういうことです」
「てかよ、お前さっきそれぞれの時代の刻の迷宮って言ったよな?刻の迷宮っていっぱいあるのか?」
「刻の迷宮は1年ごとに新しく生まれ変わるんです。例えば去年、つまりA.D.3199にはA.D.3199の刻の迷宮があります。初めて刻の迷宮が誕生したのがB.D.2700ですから、現時点で10500棟の刻の迷宮が存在しています」
「なら、10500人の『セイラ』姫が攫われたのか!?」
「いえいえ、流石にそんなにいませんよ。人類は一度滅亡していますし、第一次時空冥界決戦やその後の『空白の時代』、ソロモンの復活などもありましたからね。ざっと5000人ぐらいの『セイラ』姫が攫われたと時空管理局が報告しています」
「目的は?」
「それがわからないんです。一体誰がやったのかも、未だわかっていません。ただ…」
「何なの?」
「あなた方の時代のセイラ姫が、あの後どの時代へ飛ばされたかはわかっています」
「な、なんだって!?」
「ええ。私の担当の時代の人がほかの時代に行ったのですから、そりゃ覚えてますよ。ただ、その時代のどこに行ったのかはまだ不明です」
「で、ど、どの時代に行ったんだ!?」
「うーん、言っていいのかどうなのか…」
 番人は迷っていた。何か規律でもあるのだろう。
「ところであなた方は、その時代へ行ったとしてどうするつもりなんですか?」
 時の番人は聞いた。
「そりゃ、セイラを取り戻すに決まってるだろ」
 ラグナが当然の事のように答える。だが、時の番人はまるで信じられないものを見るような目で三人を眺めた後、さらに聞いた。
「あなた方はセイラさんを攫ったのが魔王だとお思いのようですが、もしさらった輩が邪神や悪魔などだったらどうするんですか?あいつらなんかと比べたら魔王なんて可愛いもんですよ」
「セイラを攫ったやつが神だろうが悪魔だろうが俺には関係ない。どんな手を使っても俺はセイラを取り戻す」
 心なしかユンが悲しい顔をした。
「セイラさんが飛ばされた時代はとても危険です。下手すれば、あなた達は瞬殺かもしれませんよ。ラグナさんは大丈夫かもしれませんが、そちらのお二人はまあ敵わないでしょうね。それでも…行きますか?あの時代に」
「そんなに危険…なの?」
「ええ、かなり」
 しばし沈黙が流れた。三人は口をつぐんだ。
「どんなに危険な時代だろうが、俺は行く。絶対にセイラを助ける」
「私も、姫様が危険な時代に飛ばされているのに、私だけ行かないとは言えません。まして私は兵士の身。この命、姫様に使って悔いはない」
「私も…行くよ。遠いところでセイラは苦しんでるんだ。ほっとくわけにはいかないよ」
「…そうですか。それなら仕方ないですね。あなた達の決意、受け取りました。では…」
 番人は三人に言う。
「今からあなた達を、B.C.1350に飛ばします。必ず、生きて帰りなさい。そして、セイラ姫を助けるのです!」
 番人は手を掲げ、お馴染みの魔法を唱えた。足下には三角形の魔法陣。
「ギガアクセル!」
 三人は渦に飛び込んだ。
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