上 下
10 / 61

9.*天国のち、大爆発*

しおりを挟む
 全ての理性と感情の枷を強制的に解き放ったら、人間はどうなるのか。
 そんな知りたくもない答えを、僕は身をもって実感する事態になっていた。

「あっ、あ、あはっ……!んぁっあ!あー!ん、ふふ、ふぁっあ、ぁあっ!い、っきもちぃいっ!」

「そうかそうか、余も嬉しいぞ?まだ続けるか?」

「ふぁいっ!もっと、もっろしてぇ……!あっ、あ!イク、またっこれ、イッちゃ…!あっ、い、あ―――!」

 頭の奥の片隅の、更にその深部の端くれにかろうじてしがみついている理性らしきものが、阿鼻叫喚の叫び声を上げ続けているような気もする。
 でも、穏やかにゆさゆさと体を揺さぶられ、ごちゅ、じゅちゅっ、と粘着質な水音を伴いながら何度も体内をこじ開けられていく感覚が気持ちいい。

 魔王の精液をナカに出された瞬間から、途方もない快感が体中を暴れまわっているみたいだった。
 口は開きっぱなしのまま意味のない笑い声を時折上げる他は、快楽に溺れていることを実況するだけで、もはや嫌悪の気配は微塵もない。

 一番強い刺激は体内を男の雄でずりずりと擦り上げられることだが、大きな掌が腰を掴む感覚も、長い指先に平坦な胸で小さく存在を主張する尖りを摘まれ転がされるだけでも、否応なく一際高い声がただ生まれていく。

「ふぁっ、んぁ、あッ!ひぐっ!?あ、やっ…いま触らなっ、あぁッ!」

 本能的に背を弓なりにしならせて、腰の奥でドロドロのマグマのように溜まっていた熱が何度目かの解放を求める衝動を悦んで受け入れる。
 その寸前で、そんな限界寸前の性器へするりと絡みついた男の指先が後押しするように裏筋と鈴口を弄ぶものだから、余計な強い刺激にまたチカチカとした白い星が視界を踊った。

 それでも自分の腹を伝う粘ついた体液の不快感も、同性相手に無理矢理組み伏せられて犯されている抵抗感も、何一つ感じない。
 ただただ、体中を満たすような熱と、頭の中まで走り抜けていくこの強烈な快感が気持ちいい。

 そして何よりも、美しく精悍な顔つきをした極上の男がその不思議な双眸を甘く甘く眇めて、こんな自分を愛おしそうに見下ろしている姿が、笑いたくなるほどに心地良かった。

「ひっぅ――ッ、ん、ぁ……はっ、ぁ、あ……まお、きす、きすしよぉ……?」

 何度となく繰り返される絶頂の波をまたひとつ乗り越えた後、荒い息を整えながらそう無意識に口づけを請えば、長い指先がそっと僕の唇をなぞり

「ならば、余の望む通りに強請ねだってみるか?」

にやりと口元を歪めた男がそう意地悪な交換条件を出してくるものだから、僕も負けじと正しい解答こたえをすぐさま口にした。

「ラグナ、キスして」

「キタ直球ッ!……んんっ、フッ……其方の望みは、余の望み……」

 デレッと相好を崩したかと思えば、すぐに精悍な顔つきに戻したりと顔面が忙しい魔王は、そう囁きながらも思いの外そっと唇を合わせてくれる。

「ん、んぅ……ふ、ぁ……んっ」

 ゆっくりと絡み合う舌先からはまた、ぽっ、と火が灯るような熱がじんわりと体に広がってくる。
 まるで凍えた体を温められているかのようなその心地良さに、正常位で繋がったままの男の腰へ足が勝手に絡みついていく。
 そうすれば少しだけ更に奥へと体内を穿つ雄の熱と存在感に、体中が小さく歓喜する。

 爪先が震え、背筋をビリッと這い上がっていく甘さを伴った痺れる感覚にまた、頭の中まで心地良さに満たされていく。

(あったかい、きもちいい、体のなかも頭の奥も全部ぜんぶ気持ちいい――――これ、好き……)

 いやでもあの、これって多分『メスイキ』で『アマイキ』ってやつなんじゃないの?いいの僕!?と溺死間際の理性が声を届けてくるが、だって気持ちいいんだから仕方ない。

 しばらく堪能したその深い口づけの後、はふっと息をつく僕と嫣然と微笑む魔王――ラグナの唇に微かな銀糸が繋がって、消える。
 それがなんだか勿体ないと感じるくらいには、僕の頭は完全にのぼせ上っているのだから。

「ぁ、あ、やっ……らぐな、もっと……」

 がっしりとはしているがそこまで目立つ筋肉に覆われていない肩、そこを流れるように伝う長い銀髪を鷲掴むようにして、離れかけた秀麗な顔を引き寄せてもう一度、自分から唇を合わせた。
 視界の隅に映ったラグナのガッツポーズはもちろん無視だ、無視。
 さっさと僕をまた、気持ちよくしてほしい。


 抱き締めて、温めて、熱を注いで、優しい声で名前を呼んで、


「フフッ……やはり其方はいな?ユーリオ。」


そう、そうやって僕を――愛して欲しい。





 そんな狂ったことを思っていた時間が、確かに僕にもありました。
 非常に不本意ながら昨夜、そう多分昨夜のことです。

「う、うむ……健やかな目覚めのようで余も嬉しいぞ、ユーリオ。」

 天蓋から垂れ下がる黒いレース状の布地を通しても、はっきりくっきりと明るくなっているベッドの上。
 そこで昨夜と同じ半裸姿のまま、そう小さく口元を引きつらせて笑う魔王がいる。

 僕の記憶が正しいのならばあの後、この男は散々嬌声を上げて泣いてよがる僕が意識を飛ばすまで離さずに「愛いな、愛い、愛いぞ」と抱き続けてくれた。
 異常なほどの快楽と熱に前後不覚になって自分から「もっとして、もっと奥ぅ」などと強請る僕に応える形でな!!


「~~~っも、ふざけんなぁぁああぁぁあッッ!!出てけ―――!!!」


 涙目のついでに顔が真っ赤になっているのも自覚しながら、羞恥と屈辱に混乱が加わった感情を大爆発させた僕は、そのまま振り上げた枕を魔王の顔面に向かって叩きつけていた。


 当然、全裸のままで。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

隠し攻略対象者に転生したので恋愛相談に乗ってみた。~『愛の女神』なんて言う不本意な称号を付けないでください‼~

黒雨
BL
罰ゲームでやっていた乙女ゲーム『君と出会えた奇跡に感謝を』の隠し攻略対象者に転生してしまった⁉ 攻略対象者ではなくモブとして平凡平穏に生きたい...でも、無理そうなんでサポートキャラとして生きていきたいと思います! ………ちょっ、なんでヒロインや攻略対象、モブの恋のサポートをしたら『愛の女神』なんて言う不本意な称号を付けるんですか⁈ これは、暇つぶしをかねてヒロインや攻略対象の恋愛相談に乗っていたら『愛の女神』などと不本意な称号を付けられた主人公の話です。 ◆注意◆ 本作品はムーンライトノベルズさん、エブリスタさんにも投稿しております。同一の作者なのでご了承ください。アルファポリスさんが先行投稿です。 少し題名をわかりやすいように変更しました。無駄に長くてすいませんね(笑) それから、これは処女作です。つたない文章で申し訳ないですが、ゆっくり投稿していこうと思います。間違いや感想、アドバイスなどお待ちしております。ではではお楽しみくださいませ。

処理中です...