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8.*終わる?*

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「っあ、やっ……やらぁ!ひぁ、っぁ……ん!」

「ふむ、まだ嫌か?かといって慣らしからやり直すには時間が惜しいが……」

 そう言ってまたしつこげに魔王は軽く腰を前後し、僕の体の内側を浅く擦り上げてくる。
 それだけでもう何度目かわからない、ジンとした痺れのようなものが腰から這い上がってきて、その気持ちよさにまた僕は同じ言葉を吐き出した。

「ぁあっ!やだっ…これやだぁっ……きもひぃいのっ…やぁあっ!」

 なんだそっちか、と小さく笑う魔王の気配を背中に感じても建前上の否定すらできず、ただせわしない息を繰り返しながらシーツをぎゅっと握りしめる。

 後から後からぞわぞわと背筋を這い上がってくるこの未知の感覚が、怖いようで心地いいなんて……なんで、なんでこんなことになってるのか自分でもわからないしッ!!


 そう、確か――うつ伏せで腰を突き出すような体勢を取らされて、お尻の中に指を突っ込まれた辺りまでは本気で嫌だったんだ。
 いいかげん覚悟を決めて黙ってはいられたけれど、顔の下に抱えこんだ枕は涙でどんどん湿っていくし、自分でも触ったことのない場所を弄られる羞恥と不快感にただただ唇を噛んでいた。

 それなのに剥きだしの背中に軽く吸いつくようなキスを幾度も降らされ、そうそう良い子だ頑張れ、と場違い極まりない爽やかな声援を受けていると……非常に腹立たしくて、仕方なかった。

 そんな気遣いするくらいなら!僕の気持ちを!もうちょっとだけでも考えてほしいんですけどッッ!!

 頭の中だけでそう声を荒げて、喉の奥で小さく唸っていた時だ。
 ちゅ、とささやかな音を立てて腰の辺りから魔王の唇がまた離れた途端、触れられていた場所から小さな熱が体に染み込んでくる感じがした。

 それは一瞬で、痛みとまではいかないけれども何かとても異様な感覚で、無言のままに僕が戸惑っているうちにも、指を咥え込まされていた場所までジンジンと熱くなってきて――気がついたら、声を上げている自分がいた。

「ふぁ、っあ!?っぁや……っ!」

「――っ、鼻血止め魔法を掛けておいて正解だったか……」

 小さく息を飲んだ後にボソッとそう呟いた魔王の指は更に奥へと進み、狭い肉壁を押し広げるようにゆっくりと動かされる。
 かと思えば再び浅い位置まで引き抜かれ、またじっくりと時間をかけながら深く押し入ってくる、長い指。
 その動きに合わせてくちくちと粘着質な音が時折零れるだけで、嫌悪感とは違う意味で心臓が忙しくなるような……。

「ひっ、ぁ?んぅっ……うー!」

 否応なく意識が下腹部に集中した状態で、その指の動きをありありと感じながら足先から昇ってくる小さな熱を誤魔化すために、僕は枕に顔を埋(うず)めた。
 漏れそうになる変な声もついでに抑えられるから、一石二鳥だもんね。

 はっ、ひ、とリズムの悪い息を繰り返すなか、これって僕が感じてるってこと?とまた余計な声が頭の隅で上がる。

 違う違う、ただなんだか熱くてジンジンしているだけ、多分気持ち悪さの延長なだけ。ということにしたい自分と、さっきお尻に潤滑剤とかいって何か挿れられたじゃん?きっと催淫系の薬だったんだよ、だからちょっと気持ちよくなってきてるのかも!とこの感覚を正当化したい自分がしばしせめぎ合う。

 その一方で少しだけ、疑問が顔を出す。
 求婚当夜に嫌がる僕をこうして無理矢理にでも抑え込んだわりに、魔王からは行為自体への性急さが微塵も感じられないのだ。

(……ちゃんと、慣らして?……くれてるし、今も背中にキスしてくれるし……あ、まただ、熱い?ううん、あったかい……)

 僕の汗ばんだ体に纏わりつくことなく、さらさらと肌の上を流れていく長い髪の不思議な感触。
 それにも内心首を傾げながら体の奥からじわじわと侵食してくる熱に戸惑って、僕はまたきつく目を閉じてただ枕に縋った。


 それからは……しつこいくらいの前戯、というのだろうか。
 もう違和感も不快感もあっという間にかき消されて、ただ気持ちよさだけが穏やかに体中へ広がっていくみたいだった。

 それなのに、しつこい。ほんっとうに、しつこい。
 二本から三本になった指を受け入れている場所は、ぐずぐずに溶けているのではないかというくらい熱くて痺れているような感覚をひっきりなしに伝えてくるのに、魔王はいつまでたっても「もう少し、な?」「いや、まだ早い……」「ユーリオは良い子だな、もう少しだけ我慢ぞ」と繰り返すばかり。

 なんだか色々ショックではあるが、後ろを弄られてしっかり感じてしまっている僕は早々に勃ってるし、でも決定的な刺激がないから生殺しで、そんな状態も背後の男からはずっと丸見えなわけで……。
 終いには自分から「もういいからさっさと突っ込んで!」と、魔王をけしかけるしかなかったとか……。

 神様!僕が一体何をしたというんでしょうかッ!前世か!?前世で何かとんでもない業でも背負ってる!?もうそれしかないッ!!

 そう前世の自分を呪い始めたところでようやく、魔王はやっとその気になってくれたらしい。
 指を引き抜かれ、代わりに宛がわれた熱の存在感に思わず喉を鳴らしたのは恐怖だったのか、期待だったのか、自分でもよくわからなかったけれど。

「ユーリオ、痛みがあればもう少し慣らすぞ?」

「っだからさっさとやって!!」

「う、うむ……」

 人の覚悟を台無しにしてくれそうな魔王をそう自棄(やけ)気味に後押しすれば、ゆっくりと、だが確実に体の中に押し入ってくる雄の熱と、質量。

(あ、わ、……――――――ッッ!!)

 それに頭の中ですら言葉にならない声を上げながら、ぎゅうっと強く強く枕にしがみついて何ともいえない時間をやり過ごそうとした。

 体を内側から圧迫する異物には違和感はあれど、痛みはほとんどない。
 ただ、まだ入口付近だというのに圧迫感だけはものすごくて、もしかして裂ける?え、流血とか無理なんですけど、と目まぐるしいそれ系の前世知識が走馬燈のように脳裏をよぎった。


 その瞬間、体が沸騰した。


「え、ぁっ!?……ひ、っう、あぁぁあっ!?ひぁあぁっあ、あ!?」


 バチッと目の前に白い光が散ったような衝撃と、爪先から脳天まで駆け抜けていく強烈で鮮烈な感覚に、ただ声を上げる。
 僕の名を慌てたように呼んで背中にくっつく温もりと、その動きで更に深くまで体内を穿ってくる熱を勝手に後口が喰い締める。

 それがとてつもなく、気持ちいい。

 灼けるような熱の存在感を堪能するみたいに勝手に内側がきゅうきゅう蠢いて、挿れられているだけでがくがくと膝が震えだすなんて。
 自分の性器から少しだけ体液が噴き出していたことには、一拍遅れて気づいた。

 こんなのありえない、でも気持ちいい。
 何度も「大丈夫か?」と僕を気遣う素振りを見せる男の声も、肩に触れる唇からまた肌に灯る熱も、全てが気持ちいいとしか思えない。

 これはだめだ、気持ち良すぎてなんだか怖い。頼むから嫌悪感、仕事して。

 最後の抵抗じみた思いでそんなことを考えながら、僕はただ魔王に願った。
 もうさっさと終わってほしい、と。
 懇願したその言葉が、自分でも知らない蕩けた甘ったるい声だったことには気づかないふりをして。

 幸いにも二つ返事で頷いてくれた魔王は、そのまま小さくゆっくりと動き始めてくれたんだけど――……

 だ か ら し つ こ い!



「んやっぁ……あっあ!ふゃあぁッ……!ひっ、あ!」

「ふふ、そうかいか。慣らしが上手くいったようで余も一安心ぞ。」

 ずっ、ぐちっ、と小さな音を引き連れて動かれる度に背筋には痺れが走ったみたいになるし、体の奥から何かがせり上がってくる感覚が近くなる。
 それなのに魔王のペースは相変わらず余裕ぶっていて、いつ終わりがくるともしれない動きのままだ。

「あ、ふっ……も、もぉイって……んぁ、あ!はっ、う……お、終わってってばぁ……ッ!」

 心理的なものからではない涙で視界を滲ませながら、首をひねって薄暗がりの中に灯る蒼い双眸を振り返った僕は、乱れた息の合間にもう一度そう懇願した。

 その結果、一度動きを止めた魔王はとても愉し気に口元を吊り上げて、その体を引いた。
 ズルっと体内から抜け出ていく熱の存在に、え!?と無意識に声を上げかけた寸前で、ぐるりとまた体をひっくり返される。

 仰向けにされた状態で両足の膝をグイっと胸につくくらい折り曲げられ、その向こうに薄闇を従える魔王を見つめた。
 こんな格好、拷問じみてるほどに恥ずかしいんですけど、と頭に過るなかで、

「終わるかは、其方しだいだがな?」

 そう意味深に告げる男にイラッとしたのも束の間、再びぐっと体の中へと入り込んできた雄が浅い位置でその欲を吐き出した時、体が勝手に跳ね上がっていた。

 それをどこか遠くで感じながら、どうでもいいことを考えていた気がする。
 魔族なんだから、そもそも人間とは体のつくりが違うのは当然だよね。でも射精まで自由自在な生き物だとか、知らなかった。 

 ナカで出された瞬間、体を駆け巡るような強烈な快感に飲み込まれて、ただ声を上げることしかできなくなるなんて、聞いてない――と。



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