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第六章 山口観光騒動記

第二百一話 萩での再会

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 零夜達は空を飛びながら萩に向かっているが、彼とミミの内心は穏やかではなかった。何故なら零夜とミミの家族も来る事になるので、とんでもない事が起こりそうな予感がするのだ。
 当然選ばれし戦士としての活躍が広まれば、恋愛関係も分かってしまうのも無理はないだろう。

「ねえ……零夜君とミミちゃんの両親ってどんなの?」

 倫子は気になる表情で零夜とミミに質問し、ヒカリ達も興味津々で同様の表情をしていた。零夜とミミは観念したと同時に、家族の事について話し始める。

「俺の父は忍術格闘家、母は薙刀の使い手、二歳年上の姉は剣道の免許皆伝を取っている」
「私のところはお父さんが武術の館長を務めていて、お母さんはサポート。二歳年上のユナお姉ちゃんは家事手伝いで、一歳年上のアミお姉ちゃんは策略家の武術家なの」
(((す、凄すぎる……)))

 零夜とミミの家族構成の話を聞いた倫子達は、冷や汗を流しながら唖然としていた。こんな一家はなかなか存在せず、安易に近付くと酷い目に遭うのは確実となるだろう。
 しかも二人はその家庭で育っていた為、選ばれし戦士としての実力があると認められていた。しかし理由は他にもあるが、今は語る時ではない。

「でも、その一家が萩に来るとなると……物凄く大変な事になりそうですね……」
「特に零夜の嫁問題がメインとなりそう……」

 ルリカとエヴァも零夜とミミの家族が来る事に冷や汗を流していて、余計な事をしたんじゃないかと考えている。零夜の優しさに触れて好きになったのは良いが、逆に家族には迷惑を掛けたんじゃないかと思っているだろう。

「現在、零夜君を好きなのは……ミミちゃん、エヴァ、ルリカちゃん、私、アメリア姫の五人。零夜君って……恋愛関係は鈍感じゃないの?」
「うっ!?」

 美津代からの指摘を受けた零夜は、ギクッと背筋を伸ばしてしまった。誤魔化そうとしても、バレてしまうは確定である。
 確かに零夜はプロレス、仕事、任務の事、仲間達の安全を考えているが、恋愛に関しては疎い部分がある。其の為、ミミ達から噛み付かれてしまう事もある為、鈍感である事には否定できないのだ。

「言われてみればそうかも知れませんね……それに……ミミ姉とは許婚の関係ですし……」
「「「許婚!?」」」

 零夜からの衝撃発言に、ミミ以外のメンバーが驚きを隠せずにいた。まさか零夜とミミが幼馴染の関係だけでなく、許婚の関係である新事実にビックリしてしまうのも無理はない。
 特にルリカとエヴァは攻めづらく、彼女達は家族がいない。このハンデがあるのは仕方がないと言えるが、零夜を賭けた恋愛争奪戦はますます不利になってしまう。

「親が決めたんだけどね。これをお父さんが聞いた以上、大変な事になるわよ……」
「ああ……さっさと萩に行って刺客を倒さないとな!出会ってしまったらお陀仏だ!」
「あっ、待ってよ!」 

 ミミからの話に零夜は冷や汗を流しつつ、彼はスピードを上げて萩へと向かい出す。家族と出会えば騒動が確定になる以上、下手したらぶっ飛ばされる事もあり得るのだ。
 それを見たエヴァ達も慌てながら後を追いかけ、急いで目的地へと駆け出したのだった。



 萩に着いた零夜達は、目的地である吉田松陰の生家に着地する。そこは杉家旧宅であり、吉田松陰が謹慎していた場所であるのだ。

「ここって、吉田松陰の謹慎していた……」
「ええ。彼は伊豆下田でアメリカ軍艦による海外渡航に失敗して捕らえられ、萩に送られたわ。翌年に釈放となったけど、実家である杉家に帰され謹慎生活を送り、読書と著述に専念したのよ」

 アミリスの丁寧な説明にエヴァ達が納得の表情をしていて、零夜とマーリンも頷きながら同意する。
 アミリス、マーリン、零夜の三人は歴史好きなので、興味のある事は色々調べる癖がある。其の為、三人で意見交換をしたりするなど、交流が深いのだ。

「それによって松下村塾ができたからね。さっ、次はそこに行かないと!」

 マーリンの合図と同時に、隣にある松下村塾へ全員が向かい出した。彼等が去った直後、新たな人物達がこの杉家住宅に入ってきた。彼等は零夜とミミの家族である。
 零夜サイドは父親の東修吾あずましゅうご、母親の東文香あずまふみか、姉の東栞あずましおり。ミミサイドは父親の春川哲郎はるかわてつろう、母親の春川恵はるかわめぐみ、長女の春川ユナ、次女の春川アミだ。

「ここが吉田松陰の生家である杉家旧宅か。見事な物だな」
「うむ。そう言えば先程人の気配がした様な気がするが、彼等もここに来ているのではないか?」

 修吾と哲郎が杉家旧宅を見ている中、零夜達が萩に来ている事を哲郎が感じ取る。先程零夜達はこの場所に来ていたので、その気配を哲郎は感じ取っていたのだ。

「確かにそうかも知れないな。文香、すまないが気配を察してくれないか?」
「ええ」

 文香は両手を合わせたと同時に、集中力を高めながら零夜達の行方を探し始める。彼女は集中する事で相手の居場所をすぐに分かる特技があるのだ。
 すると彼等の居場所がすぐに分かった。

「分かったわ。彼等は隣の松下村塾にいるわ」
「すみませんな。東君、早く彼等を捕まえるぞ!聞きたい事があるからね!」
「うむ!アイツの恋心は鈍感だからな。少しはキツいお仕置きを与えないとな!」

 修吾と哲郎は零夜を捕まえに駆け出してしまい、この様子に文香達は苦笑いをしてしまうのも無理はない。

「こりゃ、お仕置きは確定かもね」
「同感ですね……」

 この様子にアミは呆れた表情をしていて、栞に至っては唖然とするしかなかった。同時に零夜がお仕置きを受けてしまうのは確定だと感じ、修吾と哲郎の後を追いかけ始めた。



「うっ!なんか寒気が……」

 零夜は修吾と哲郎が来る事に寒気を感じていて、思わず背筋を伸ばしてしまう。現在彼等は松下村塾にいて、中の様子を確認していた。吉田松陰の肖像画もあり、実に見事だと感じているだろう。

「どうしたの?」
「いや、何でもないです……」

 日和は心配そうに零夜を見つめ、彼は苦笑いしながら応える。本当の事を伝えたら皆がパニクってしまうからだ。

「この松下村塾によって倒幕の動きが盛んになり、今の日本が作られた。ここが明治維新となる始まりの地でもあるのね」
「ええ。それによって安政の大獄で吉田松陰は処刑。それを弟子達が後を継いだからね」

 アミリスとマーリンの説明に皆が納得する中、キララが尻尾を真上に伸ばしながら気配を感じる。修吾と哲郎ではなく、別の気配を感じたからだ。

「敵が来るわ!その数三十四人!」
「二倍以上か!構え用意!」

 零夜の合図で戦闘態勢に入ったその時、何処からか殴る音が聞こえてくる。しかも敵の悲鳴が次々と響き渡っているとなると、何者かによってやられているだろう。

「あれ?何かあったのかしら?」
「確か向こう側で戦いが……あっ!」

 エヴァが指差す方を見ると、なんと六人目の刺客の男が打ち上げられているのが見えた。丁髷で着物姿の男だが、殴り飛ばされた跡が顎に残っていた。
 するとウィンドウが姿を現し、六人目の刺客のデータが映し出される。

丁髷の松吉
博打を得意としている男で、博打格闘術の使い手。
しかし、東修吾と春川哲郎の二人にやられてしまった。

「ちょっと待て……その二人って……」
「もしや!」

 零夜とミミが大量の冷や汗を流した直後、松吉の身体から煙が出てしまう。彼はサイコロとなって落ちてしまったが、修吾が片手でキャッチしながら姿を現した。

「いきなり襲い掛かったが、大した事なかったな」
「久しぶりだな、二人共」
「親父!」
「お父さん!」

 修吾と哲郎が姿を現した事で、零夜とミミが驚くのも無理はない。彼等の家族が登場した事で、旅行はさらなる波乱が巻き起ころうとしているのだった。
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