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第六章 山口観光騒動記

第百九十八話 巌流島へ

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 零夜達は下関に到着すると、防府とは違う景色が待ち構えていた。東京都は違う都会さもあるが、海沿いの街なので潮風が吹いているのだ。

「潮風が気持ち良い……懐かしさを感じるわ……」

 特にマーリンは海の中にある海底都市で幼少期を過ごしていて、十五歳になったと同時に陸に上がって生活する様になった。其の為、潮風を受ける度に故郷の事が頭に浮かび上がるのだ。

「マーリンは海で暮らしていたからね。それじゃ、早速巌流島に行きましょう!」

 アミリスの合図と同時に、彼女達はバスに乗り込む。そのままバスは巌流島のフェリー乗り場の近くへと向かい出し、零夜達は席に座りながら景色を楽しんでいた。

「確か巌流島フェリーの近くには、水族館があるわ。折角だからそこにも行きましょうか」
「水族館か……確か名前は下関海響ランドよ。そこにはイルカや様々な海の生き物がいるから!」
「本当!?行ってみたいわ!」

 倫子からの提案にミミが反応し、水族館の事を簡単に説明する。それにヒカリ達は反応し、水族館の事について話し合っていた。巌流島の事を置き去りにしていて……

「あのな……俺達の目的は巌流島だろ?こんなところで道草なんか食っている場合じゃ……」

 零夜がミミ達に注意しようとしたその時、隣にいるルリカが彼の頭を自身の胸に埋めこむ。それに零夜は赤面しながらバタついてしまうが、ルリカは一切気にしてない。

「巌流島の後に水族館に行きましょうか!」
「「「賛成!」」」
(駄目だこいつ等……)

 ルリカの提案にミミ達は賛同するが、零夜は心からガックリと項垂れてしまう。これが今後の旅行に影響が無ければ良いのだが……



 フェリー乗り場に到着した零夜達は、丁度巌流島行きのフェリーを発見する。すぐにチケットを購入したと同時に、そのままフェリーへと乗り込んだ。
 フェリーにいるのは零夜達だけで、後は誰もいなかった。この場合は貸し切りとなるだろう。

「他の客がいない分、ゆっくりできるみたいね」

 コーネリアの意見に皆も同意する中、フェリーはそのまま巌流島へと向かい出した。するとフェリーは高速でスピードを上げ始め、そのまま巌流島まで直行となった。その衝撃で船は凄い揺れてしまい、ミミ達はひっくり返ってコケてしまった。

「スピード早過ぎるわよ!」
「普通ならこんな速度出ないわよ!どういう事!?」

 ミミ達が文句を言う中、フェリーの運転席の中は誰もいなかった。自動操縦となっている為、何者かが仕掛けたに違いない。

「この展開……まさか!?」

 アミリスがすぐに原因を察したその時、フェリーは巌流島に到着し、ミミ達はまたもやひっくり返ってコケてしまう。おかげであちこちにダメージを受けてしまい、皆が涙目で頭を抑えていた。

「痛い……」
「うええ……」

 倫子とヒカリは涙まで流していて、日和とジェニーが彼女を支える。そのまま全員がフェリーから出た途端、一人の男が姿を現した。
 その服装は武士の姿で、陣羽織を着用していた。まさにその姿は最強の武士と言ってもいいだろう。

「遅いぞお前等!この俺を待たせるとは言語道断!」
「お前が次の刺客か!何者だ!」

 零夜達は男の姿が刺客だと分かり、次々と戦闘態勢に入る。しかし、男は戦闘態勢には入らず、真っ直ぐな視線で相手を見ている。ここで戦う時ではないと判断したのだろう。

「俺の名は佐々木又之助!佐々木小次郎の子孫であり、現代の侍だ!」

 又之助が自己紹介したと同時に、ウインドウが召喚してプロフィールが映し出される。

佐々木又之助
佐々木小次郎の子孫であり、剣道を免許皆伝した数少ない一人。
しかし、粗行の悪さで剣道界から追放されていて、孤高の剣道男と呼ばれているのだ。

「免許皆伝を持つ元剣道戦士か……なら、相手にとって不足はないな!」
「杏、お前まさか……」

 又之助のプロフィールを見た杏は、やる気を上げたと同時に前に出る。どうやら一騎打ちを望んでいて、自ら前に出ようと決意しているのだ。

「アンタには聞きたい事がある。フェリーを自動運転の高速にしたのはアンタなのか?」

 杏は真剣な表情でフェリーの質問を聞いた途端、又之助はニヤリと頷いた。その様子だと、彼が黒幕という事だ。

「そうだ。お前達が来ると思って事前に手を打っていた。フェリーに少し細工したからな……」
「そう言う事か……なら、こっちだって考えがあるぜ!」

 杏は妖刀を鞘から引き抜いたと同時に、その先を又之助に向ける。その行動をよく見ると、その応えは一つしかない。

「一騎打ち……受けてもらえるかい?」
「「「一騎打ち!?」」」

 杏からの宣言に零夜達が驚きを隠せず、全員がざわつくのも無理はない。この一騎打ちは流石に危険としか言いようがなく、下手したら死んでしまう可能性もあるのだ。

「杏、本気なの!?」
「下手したら死んでしまう事もあり得るわ!」
「ソニアだって悲しむかも知れないわよ!」

 美津代達は一騎打ちは危険だと止める様に説得するが、杏の意志は固い。フェリーを自動操縦にして皆に危険を犯した以上、奴を倒さねば気が済まないのだ。
 するとソニアが杏に近付き、彼女の両肩に手を置く。ソニアは杏の良き理解者である為、心情は察しているのだ。

「杏、お前が戦うならアタイは止めないぜ。だが、絶対に死ぬなよ?」
「ああ。言われなくてもそのつもりだ!」

 ソニアからのエールに杏はガッツポーズで応え、彼女もそれに頷く。その様子を見ていた又之助は納得したかの様に、頷きながら了承する。

「良いだろう。決闘場所に行くぞ」
「「「決闘場所?」」」

 全員が首を傾げる中、又之助の案内で決闘場所へと向かい出した。するとトラマツが突然姿を現し、ソニアに声を掛けてきた。
 それに気付いたソニアは零夜達を先に行かせ、トラマツの元に駆け寄る。

「トラマツ、お前待機していたんじゃ……」
「杏に武器を渡しに来たんだ。彼女の妖刀と今から渡す刀を組み合わせれば、最強の刀になると……」

 トラマツが説明したと同時に、彼はバングルから魔法刀を召喚する。その刀を受け取ったソニアは、光り輝く刀に驚きを隠せずにいた。

「この刀……!もしや……!?」

 ソニアが冷や汗を流しながらこの刀を察した直後、トラマツはニヤリと笑いながら応えていた。



 巌流島にある武蔵と小次郎の銅像前では、杏と又之助が武器を持ちながら対峙していた。杏は妖刀、又之助は野太刀「燕星えんせい」を構えていて、両者とも睨み合いながら火花を散らしていた。

「この勝負、どうなるのかしら?」
「俺にも分からないが……」

 零夜達が心配そうな表情をする中、ソニアが走りながら駆け付けてきた。その手にはトラマツから受け取った魔法刀がある。

「ソニア!」
「杏、ようやく頼んでいた刀ができたぞ!誰か錬金術を使える物はいるか!?」
「いや、それは流石に……ん?」 

 ソニアの叫びに杏は喜ぶ中、錬金術を使える者に関しては零夜達は首を横に振りながら否定していた。しかし日和が手を挙げていて、それに彼等は驚いていた。

「日和ちゃん、もしかして錬金術ができるの!?」
「はい!私、錬金術というスキルが使えます!レベルアップで覚えましたので!」
「丁度いい!杏の刀とこの魔法刀を融合させてくれ!」
「了解!武器合体!」

 ソニアの指示に日和は承諾したと同時に、魔術を唱え始める。するとソニアの持つ魔法刀が宙を舞い、杏の妖刀にくっついてしまった。

「おい!くっついたぞ!」
「まだまだこれからよ!」
 
 杏の叫びに日和がウインクした直後、二つの武器が光を帯びながら変化し始め、あっという間に一つの武器に変化した。その武器は紫色の刀身をしていて、鬼の絵が刻まれている。更に切れ味も鋭くなっていて、刀身から闇のオーラが溢れ出していた。

「すげぇ……この武器は一体……」
「この武器こそ最凶の妖刀「閻魔えんま」!様々な姿に変化できる新たな武器よ!」

 驚きを隠せない杏に対し、日和が真剣な表情で説明。杏の妖刀は魔法刀と融合し、新たな姿に変化したのだった。
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