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第六章 山口観光騒動記

第百八十一話 零夜のデビュー戦

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 真っ昼間の後楽園ホール。そこではドリームバトルレスラーズの大会が行われていて、観客は多く誰もが彼が出る事を待っていたのだ。

「お待たせしました!本日の第四試合!東零夜&エヴァのデビュー戦、スペシャル六人タッグマッチを行います!」

 リングアナの合図と同時に音楽が鳴り響き、青コーナーの入場口から黒田、室山、太めの男である益村慶次郎ますむらけいじろうが姿を現す。
 益村はドリームバトルレスラーズのレスラーだが、系列店のマサカリ酒場の料理人も務めている。彼は倫子の事が好きだが、彼女はとても嫌がっている。其の為、黒田や室山から制裁されているのだ。

「青コーナー、ザ・料理人レスラー。益村慶次郎!」

 益村のコールが響き渡り、彼は拳を突き上げながら応える。

「紅の闘神、室山裕貴!」

 室山は普通に前を向き、冷静を保ちながら戦いに臨もうとしていた。

「金色の狂狼、黒田哲三!」

 黒田も同じく戦いに臨んでいて、唯一人の敵に狙いを定めようとしている。同時に三人が並び立ち、多くがスマホのカメラで次々と写真を撮り始めたのだ。
 すると別の音楽が響き渡り、誰もが赤コーナーの入場口に視線を移す。するとそこから倫子、エヴァ、零夜の順に入って行き、歓声が聞こえ始める。更にセコンドにはミミ達の姿もいる為、ブレイブペガサスが全員集結となっているのだ。

「赤コーナー、京国のジャンヌ・ダルク!藍原倫子!」

 倫子はコーナーポストに上がり、観客からの歓声に笑顔で応える。衣装は当然プロレスコスだ。

「本日デビュー戦、マキシマムウルフガール!エヴァ!」
「ウオオオオオオオオオオオオン!!」

 エヴァの狼の咆哮が響き渡ったと同時、彼女は拳を握りしめながらポーズを決める。異種族の者がプロレスのリングに上がるのは初めてなので、彼女の活躍にも注目が走るだろう。

「本日デビュー戦、長州忍者!東零夜!」
「はっ!」

 零夜は宙返りバック転で着地したと同時に、苦無を構えて戦闘態勢に入る。プロレスでの初めての戦いとなるが、これまでの経験をどう生かすかがカギとなる。

「ブレイブペガサス、ここにあり!」

 そして三人並び立ってポーズを決めた直後、彼等はコーナーポストに戻り始める。そのままボディチェックが始まりを告げられ、握手無しで試合が始まろうとする。

「いよいよ始まるこの試合!実況は私、ラビリンがお伝えします!レフェリーはトキコがやりますので!」
(あの二人、プロレスのレフェリーと実況もしていたんだ……いつも大変ね……)

 ラビリンがいつの間にか実況にいて、それにミミは呆れながら心から思っていた。同時に先発はエヴァと室山が前に出て、両者の戦いが始まりを告げようとしていく。
 同時にゴングが鳴り響き、エヴァが前進しながら室山に接近してきたのだ。

「お前が相手か!返り討ちにしてやる!」
「そうはいかないわ!」
「うおっ!」

 室山が駆け出してエヴァに立ち向かうが、彼女は襲い掛かる彼を掴み上げたと同時に、そのまま真上に強く放り投げる。天井まで行くほどの高さとなっているので、これには観客達も驚きを隠せずにいたのだ。

「これはいきなり真上に投げ飛ばした!凄い勢いだ!」
「まだまだ!これからが本番よ!」

 ラビリンの実況が響き渡る中、エヴァは跳躍したと同時にパイルドライバーの態勢に入る。今の技で一気に倒そうとして、完全に止めを刺そうとしているのだ。
 
空襲狼牙弾くうしゅうろうがだん!」
「ぐおっ!」

 強烈な空中パイルドライバーがリング上に炸裂し、その振動がリング全体に伝わる。ダメージを受けた室山は倒れてしまい、エヴァはすぐに抑え込みに入る。

「1、2!」
「くっ!」

 しかし室山はツーカウントで返し、すぐに起き上がる。プロレスラーは鋼の肉体を持つ為、この攻撃では倒れない。日々基礎の鍛錬をしているからこそ、今の姿があるのだ。

「そう簡単にはいかないみたいね。なら、一気に攻めさせてもらうわ!」

 エヴァは持ち前のパワーを活かして室山をコーナーポストに投げ飛ばし、彼は背中を強打しながら座り込んでしまう。同時に零夜にタッチをし、彼女はリングから降りていく。

「相手は室山か。最初から一気に攻めるのみだ!」

 零夜は素早く背負投で室山を投げ飛ばし、そのまま跳躍してセントーンでダメージを与えていく。更に両足で首を絞めたと同時に、相手の後ろ足を掴んで反り曲げたのだ。

「これが俺のオリジナル技!阿修羅だ!」
「ぐおおおお……!」
「室山!」

 零夜の絞め技で室山が苦しみ、体力も徐々に奪われていく。すると黒田がリングに入ったと同時に、零夜を蹴り飛ばして絞め技を解除したのだ。

「ここで黒田が動いた!零夜を蹴り飛ばし、絞め技を強制解除!」
「くっ……すみません、黒田さん……」

 ラビリンの実況と同時に、室山は転がりながらリングから降りる。現在は零夜と黒田の一騎打ちとなってしまい、零夜は立ち上がって戦闘態勢に入る。

「まさかあなたと一騎打ちを行うとは驚きました」
「俺もだ。藍原を奪った罪を償ってもらう!」

 黒田は強烈なハイキックを繰り出すが、零夜はしゃがんで回避に成功。更に強烈なタックルで押し倒し、仰向け状態の黒田の両膝裏に両手を交互に挟み込みながら胡座をかくように交差させる。そのまま彼を反転させてパラダイスロックを決めたのだ。

「ここでパラダイスロック!黒田、屈辱的だ!」
「こ、こいつ……!俺に対して余計な事をしやがって……」

 パラダイスロックを決められた黒田は屈辱にまみれていて、ワナワナと震えていた。すると益村が黒田を反転させて助けた後、零夜に視線を移して真剣な表情をしていた。

「お前だな!倫子ちゃんを奪ったとんでもない男は!」
「とんでもない男?いや、あれはチームだからしょうがないじゃないですか!」
「黙れ!」
「ぶべら!」

 強烈な張り手が零夜の顔面に当たり、彼は勢いよくロープに飛ばされてしまう。しかし、ロープの反動を利用して飛び出したと同時に、強烈なハイキックで頭にダメージを与えた。

「これは凄い!反動を利用して見事ハイキック!」
「こいつ!お返しだ!」
「うおっ!」

 ラビリンの実況が響き渡る中、益村は反撃として零夜を赤いコーナーポストに向けて投げ飛ばす。すると彼は倫子をこちらに来いと挑発しているが、彼女はリング下に降りて隠れてしまった。

「ちょっと!?倫子ちゃん!ここは戦うところでしょ!早くこっちに!」
「や!」

 益村は慌てながら倫子を呼び寄せるが、彼女は嫌がってリングに上がろうとしない。彼と戦うのは勘弁して欲しいと心から思っているのだ。
 すると黒田が益村の方に近付き、彼の肩を叩く。

「お前な。状況分かっているのか?藍原はお前の事を嫌がっているんだよ。あとこのデビュー戦、お前の手でぶち壊す真似するんじゃねーよ」
「うるせぇ!」
「ぐへら!」

 黒田は益田に殴り飛ばされてしまい、リング下に落下。それを見た室山がリングに上がり、益村を攻めに向かう。

「なんて事するんだ!やって良い事と悪い事があるだろ!」
「うるせぇ!」
「がはっ!」

 室山まで殴り飛ばされ、リング下に落下。そのまま益村は相手の方を見ると、エヴァが前に出て彼を睨みつけていたのだ。

「君も美人だな!僕が相手になってあげるよ」
(なんか嫌な予感しかしない……)

 益村は笑顔で戦闘態勢に入るが、エヴァは悪寒がして冷や汗を流してしまう。果たしてデビュー戦はどうなるのか……
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