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第五章 ハルバータの姫君

第百六十二話 襲来の紅蓮丸

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 夕暮れの刻。ハイン達はトンガラ渓谷へと再び向っていた。シオンとゲルダは離脱していたが、目的を達成する為ならそれでも構わない。ハインの頭の中は王位継承という目的が頭の中でいっぱいとなっている為、自身の命を散らしても立ち向かう覚悟があるのだ。

「トンガラ渓谷まであと少しだが、怪我の具合はどうだ?」

 ハインはヴィリアン達の怪我の具合が気になり、彼等に対して声を掛ける。ヴィリアン達はマギアスとブレイブペガサスとの戦いにより、ダメージがかなり蓄積されている。それがマギアスとのリベンジマッチに影響するのも無理なく、下手したらトンガラ渓谷に着く前に倒れてしまう事もあり得るのだ。

「今のところは大丈夫だ!心配しなくても上手くやれるからな」
「そうか。だが、あまり無理はするな。これ以上怪我をしていたら命に関わるからな」

 ヴィリアンは自信満々に答えるが、ハインは無理をするなと忠告。それに彼等は冷静に頷く中、マンティが零夜達との戦いを振り返り始めた。

「先程の戦い、俺達は手も足も出ずにやられてしまった。ブレイブペガサスは強過ぎて、俺達の足元にも及ばなかった……」

 マンティは自分達とブレイブペガサスの実力差を痛感し、何もできなかった自分に悔やんでいた。ミミに秒殺でやられてしまった事は最大の恥であり、攻撃できずに終わってしまった事を心から悔やんでいるだろう。

「私も格闘技でやられましたからね……あの女性は強かったとしか言えません」

 ネコブも倫子に魔術の発動を止められ、ケツァルコアトルでやられてしまった。魔術ばかり頼っていた為、近接攻撃はからっきし。それによって倫子にやられてしまうのも無理なかった。

「俺もエヴァに挑んだ挙げ句、この様な結末になっちまった。情けないとしか思えないぜ」

 ハクロも自身の攻撃は回避されてしまい、逆に満月雪崩落としでやられてしまった。今まで気絶した事のない彼が、この戦いで初めて気絶してしまった。今思い出すと恥ずかしさを感じるのも無理なかっただろう。

「俺達は戦ってなかったが、零夜という奴は強かったな……」
「ああ。是非とも我が軍に入れて欲しいくらいだ。あの戦いは実に見事としか言えない……」 

 アッシュ、李舜臣は戦ってはいなかったが、零夜の強さに脱帽していた。只の一般人であった彼が、ここまで強くなったのは努力の賜物である。李舜臣に至ってはスカウトしたいぐらい興味が湧き、貴重な戦力になると感じていただろう。

「確かに彼等は強かった。後で我々は彼等に対して謝罪をしなければなるまい。その前にマギアスを討伐し、アルメリアスの紋章を手に入れる。謝罪はそれからだ」
「そうだな。じゃあ、その目標で行くとするか!」

 ハインの宣言にその場にいる全員が頷いたその時、何処からか鐘の音が鳴り響く。

「ん?なんだこの音……」
「鐘の音だな……」
「何かあったのでしょうか?」
「さあ……私にも分からないが……」

 ヴィリアン達が鐘の音に疑問に感じる中、ハインは真剣な表情で考え始める。トンガラ渓谷の近くに教会はなく、あるとしたらヴァルムント王国内にある。どうやら何者かによる術式と考えても良いだろう。

(この鐘の音……幻影の術式か……だとしたら……)

 ハインは冷静に考えながら、すぐに鐘の音の正体に気付く。そのまま動揺しているヴィリアン達に視線を移し、彼等を落ち着かせる為に動き始める。

「気を付けろ!それは何者かによる幻想だ!どうやら我々を始末しようとしている!」
「「「!?」」」

 ハインからのアドバイスにヴィリアン達はハッと気付き、正気に戻る事に成功した。彼からのアドバイスが無かったら、混乱して大事になったかも知れない。

「すまない、ハイン。しかし一体誰が?」

 ヴィリアンが辺りを見回したその時、紅蓮丸が彼等の前に姿を現す。しかもその顔は殺気に溢れていて、今でも殺したくなる勢いだ。

「まさか俺の幻術を見破るとはな……その点は褒めてやろう」
「貴様……ロイヤルグリズリーズを壊滅させた紅蓮丸だな。一体何が目的だ!」

 ハインは紅蓮丸に対して怒鳴りながら質問し、彼は冷静に刀を引き抜いたと同時に、戦闘態勢に入ろうとしていた。

「決まっているだろ?俺は偽物を殺す主義。今回お前達を始末しようと決意したのは、先程の会話を聞いていたからな……」
「なんだと!?」

 紅蓮丸からの説明にハイン達は驚きを隠せずにいた。まさか自分達の会話が聞かれてしまうのは予想外で、盗み聞きされた事に気付けなかった。
 紅蓮丸はスパイ能力を持っている為、相手の行動を読み取るのが得意である。今回の件も会話を盗み聞きしていた為、ハイン達の行動を読み取る事が出来たのだ。

「さて、お前達には悪いが……偽物は殺す主義なのでね。目的の為だけに動く奴に……生きる資格などない!」

 紅蓮丸は百鬼夜行を構えながら駆け出し、ハイン達に襲い掛かる。しかしハクロが前に出たと同時に、攻撃をアックスロイヤルで防いでいた。しかしその威力はとても強く、下手したら押されてしまうのも時間の問題だ。

「ほう……俺の攻撃を受け止めるとは驚いたな」
「当たり前だ!俺だって選ばれし戦士として負けられない!虎を舐めるなよ!」

 紅蓮丸は自身の攻撃を受け止められた事に納得し、ハクロは抵抗しながら彼に向かって叫んでいた。ハクロはシルバーファングとしてのプライドは勿論、選ばれし戦士である事を自覚している。ここでやられてしまったら、ロイヤルグリズリーズと同じ結末になってしまうからだ。

「だが、それは何時まで耐え切れるかだ!」

 紅蓮丸はすぐにハクロから離れたと同時に、百鬼夜行を構えながら、目の前で大きな円を描き始める。すると円はワープゲートへと変化してしまい、そこから妖怪達が次々と出てきたのだ。

「なんだ!?」

 この光景にハクロ達が驚いた直後、妖怪達は武器を構えながらハイン達に襲い掛かる。レベルとしては雑魚クラスだが、大勢を相手にどう立ち向かうかだ。

「妖怪達は俺達が!ハインとヴィリアンは紅蓮丸を!」
「分かった!」

 マンティ、ネコブ、アッシュ、李舜臣は妖怪との戦いに挑み、ハイン、ヴィリアンはハクロの援護に向かい出す。すると紅蓮丸が動き出し、ハクロに対して一撃で倒そうと企んでいた。

「この俺を倒すなど言語道断!アースブレイカー!」

 ハクロは地面に斧を叩き、強烈な地面の波動を紅蓮丸に向かって放ってきた。その威力は大きく、高さは大波の様。紅蓮丸はそのまま直撃して大ダメージを受けてしまった。

「やったか!?」

 ハクロが勝利を確信していたその時、紅蓮丸はボロボロの姿で耐え切っていた。確かに大ダメージは喰らっていたが、根性がとても強いのでまだ戦える覚悟があるのだ。

「馬鹿な!耐え切っていただと!?」

 予想外の展開にハクロが驚く中、紅蓮丸は百鬼夜行を構えながら彼を睨み付ける。自身にここまで大ダメージを与えた以上、本気を出す必要があると感じているのだ。

「さて、ここからは俺のターンだ。お前等には死を与えてやらないとな……」

 紅蓮丸は背中から闇のオーラを放ちながら、本格的にハイン達を殺そうと動き出す。同時に雷の音も強く鳴り始め、暗雲が空に立ち込め始めたのだった。
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