上 下
158 / 276
第五章 ハルバータの姫君

第百五十六話 第一継承者ハイン

しおりを挟む
 ハインの姿にその場が緊迫感に包まれていて、彼はアメリアを真剣な表情で睨み付けていた。更にシルバーファングの面々もいるとなると、一触即発は避けられないだろう。

「で、お前はあの時、部下達と共にマギアスと戦っていたみたいだな。」

 ハインは真剣な表情でアメリアを睨み付けていて、彼女はコクリと頷きながらその時の状況を話し出す。

「はい。私達はマギアス討伐に向かいましたが、誰も犠牲を出さずに生きて帰る事を第一としていました。マギアスとの戦いはかなり手強く、次々と負傷者が続出してしまう事態となりました……」

 アメリアは俯きながら当時の事を話し、無様となった敗戦の事を振り返っていた。負傷者に至っては治療を受け、数日で回復するとの事。更に犠牲者が誰も出なかった事が幸いであるのだが、ハインにとっては呆れた結果であると感じているのだ。

「そうか……犠牲者が出なくて良かったが、お前の作戦はあまりにも無駄だったみたいだな。そんなのでは王位を継承するなど夢のまた夢だ。下手すればメルトの様に辺境の地に送られるかもな」

 ハインからの指摘にアメリアが項垂れるのも無理なく、ぐうの音も言えずに涙目となっていた。あれだけ正論を言われていては、何も反論する事も出来ず、ただ我慢するしかなかったのだ。
 すると零夜が怒りの表情をしながら、二人の間に入ってきた。この様子だと我慢出来ないのも無理ないのだ。

「兄妹喧嘩に入るのは良くないと思うが、今の言い方はどうかと思います」
「誰だ貴様は?」

 ハインは突如現れた零夜を鋭く睨み付けるが、彼は冷静に対処してハインに視線を合わせていた。以前のアルフレッドの件と同じく、立場が格上であろうとも一歩も引かない心強さがあるのだ。

「東零夜。異世界から来た選ばれし戦士『ブレイブペガサス』のリーダーです。彼女は俺達の世界に来たから助けさせてもらいました」

 零夜がハインに対して礼儀正しく自己紹介した直後、ヴィリアン率いるシルバーファングが突如ガタガタと震え出してしまう。この光景はロイヤルグリズリーズも同様に驚きを隠せずにいるが、今回も同様の展開となっていたのだ。

「おい、何を怯えている?」

 ハインが気になってヴィリアンに声を掛けるが、彼は急にハインに掴み掛かって真剣な表情をしていた。その顔には大量の冷や汗も流れているので、余程焦りがあると言えるだろう。
 
「ハイン……この人に対して喧嘩を売ってはいけない!」
「何故だ?どういう事だ?」

 ヴィリアンからの忠告に、ハインは思わず疑問に感じてしまう。わざわざ止めに来た見知らぬ男に、喧嘩を売らないなど自らのプライドが許せないのだ。

「ブレイブペガサスは選ばれし戦士のチームの中では、Aランクに属している!それに比べて我々はCクラス。いくら何でも彼等に喧嘩を売れば、コテンパンにされるのは確定だ!」
「コテンパン?逆ではないのか?いくら何でも有り得ないだろ」

 ヴィリアンの忠告に対してハインは呆れており、目の前の敵がAランクの強さを持つとは思えなかったのだ。AランクとCクラスの強さには天と地の差があり、そんなチームである零夜達に対し、まさか負けるなど有り得ない話だと考えていた。
 そしてアメリアも零夜に助けてくれた事を実感した後、涙を拭いて話し掛ける。

「零夜さん、助けてくれてありがとうございます。お兄様はいつもこうですので……」
「いえいえ。けど、こんな性格では王になるのは不可能。一発で破滅するかも知れませんし」
「「「ブホッ!」」」

 アメリアは零夜に対して説明した後、彼はハインの事を酷評しながら話していた。それにミミ達は我慢できずに吹いてしまい、口を抑えながら笑ってしまう。ボリスに至っては床に拳を叩きながら静かに笑っていて、それにハインが黙っていられないのも無理はないのだ。その証拠に身体はワナワナ震えているのが分かる。

「言ってくれるな……下民の癖に……」

 ハインはギロリと零夜を睨みつけたと同時に、彼を指さしながら宣言をする。同時に彼はある事を決意しているのだ。

「決闘だ!私のシルバーファングと、お前達ブレイブペガサスによるバトルオブスレイヤーで勝負だ!」

 ハインからの宣言にアメリアをやシルバーファングの皆は驚きを隠せずにいたが、零夜達は冷静に聞いていた。
 バトルオブスレイヤーは選ばれし戦士達による格闘技で、零夜達は練習試合を含めて何度も経験している。そのルールについてはこうなっているのだ。

・試合形式は八対八。
・戦士達はそれぞれの能力や武器などを使って戦う。
・相手陣地のフラッグを取るか全滅させれば試合終了。
・やられてしまった戦士は敗者ゾーンへと強制転移される
・時間無制限。
・ルール違反、不正行為は反則負けになる。

 ハインからの宣言を聞いた零夜は冷静に前を向き、同時に倫子達も彼の隣に移動する。その様子だと戦う覚悟は既にできているのだ。

「分かりました。この勝負、受けましょう!」
「そうか……後悔するのは貴様の方だがな……」

 ハインはその場から歩きながら、先に部屋を出てしまう。それを見たヴィリアン達も慌てながら後を追いかけ、残ったのは零夜達、アメリア、ボリス、レジー、数名の戦士達となった。

「すまないな……こんな事になってしまって……」
「いえいえ。奴とは一度戦わなければならなかったのかも知れません……喧嘩を売られたらやり返すのみ。皆もそうだよな?」

 ボリスからのすまなさそうな謝罪に、零夜は笑顔で答える。そのまま彼は傍にいるミミ達に視線を移し、彼女達も真剣な表情で頷く。

「ここまで来た以上は戦うしかないし、あの馬鹿にした態度は許せないわ!」
「私も我慢できません!戦う覚悟はできています!」
「ウチも……あのアホンダラはぶち殺したる!すぐにウチ等も戦いの場へ向かうで!」
「「「おう!」」」

 ミミ、ルリカもハインの態度に怒りを示していて、倫子はブチ切れて関西弁が出てしまった。そのまま彼女達はハインの元に向かおうとするが、ボリスが立ち上がって彼女達を制する。

「わざわざハインをボコりに向かおうとしなくても、専用の闘技場を用意してある。決着はそこで着けるべきだ」
「「「専用の闘技場?」」」

 ボリスからの提案に倫子達は首を傾げ、彼によってその専用の闘技場とやらに案内してもらう事になった。それと同時に零夜達のブレイブペガサスと、ハインが抱える戦士集団「シルバーファング」との戦いが始まろうとしているのだった。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

魔人に就職しました。

ミネラル・ウィンター
ファンタジー
殺気を利用した剣術の達人である男、最上 悟(さいじょう さとる)。彼は突然、異世界に転移してしまう。その異世界で出会った魔物に魔人と呼ばれながら彼は魔物と異世界で平和に暮らす事を目指し、その魔物達と共に村を作った。 だが平和な暮らしを望む彼を他所に魔物達の村には勇者という存在が突如襲い掛かるのだった――― 【ただいま修正作業中の為、投稿しなおしています】

十人十色の強制ダンジョン攻略生活

ほんのり雪達磨
ファンタジー
クリアしなければ、死ぬこともできません。 妙な部屋で目が覚めた大量の人種を問わない人たちに、自称『運営』と名乗る何かは一方的にそう告げた。 難易度別に分けられたダンジョンと呼ぶ何かにランダムに配置されていて、クリア条件を達成しない限りリスポーンし続ける状態を強制されてしまった、らしい。 そんな理不尽に攫われて押し付けられた人たちの強制ダンジョン攻略生活。

【R18】異世界なら彼女の母親とラブラブでもいいよね!

SoftCareer
ファンタジー
幼なじみの彼女の母親と二人っきりで、期せずして異世界に飛ばされてしまった主人公が、 帰還の方法を模索しながら、その母親や異世界の人達との絆を深めていくというストーリーです。 性的描写のガイドラインに抵触してカクヨムから、R-18のミッドナイトノベルズに引っ越して、 お陰様で好評をいただきましたので、こちらにもお世話になれればとやって参りました。 (こちらとミッドナイトノベルズでの同時掲載です)

進め!羽柴村プロレス団!

宮代芥
大衆娯楽
関東某所にある羽柴村。人口1000人にも満たないこの村は、その人口に見合わないほどの発展を見せている。それはこの村には『羽柴村プロレス』と呼ばれるプロレス団があるからだ! 普段はさまざまな仕事に就いている彼らが、月に一度、最初の土曜日に興行を行う。社会人レスラーである彼らは、ある行事を控えていた。 それこそが子どもと大人がプロレスで勝負する、という『子どもの日プロレス』である。 大人は子どもを見守り、その成長を助ける存在でなくてならないが、時として彼らの成長を促すために壁として立ちはだかる。それこそがこの祭りの狙いなのである。 両輪が離婚し、環境を変えるためにこの村に引っ越してきた黒木正晴。ひょんなことから大人と試合をすることになってしまった小学三年生の彼は、果たしてどんな戦いを見せるのか!?

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

冷酷魔法騎士と見習い学士

枝浬菰
ファンタジー
一人の少年がドラゴンを従え国では最少年でトップクラスになった。 ドラゴンは決して人には馴れないと伝えられていて、住処は「絶海」と呼ばれる無の世界にあった。 だが、周りからの視線は冷たく貴族は彼のことを認めなかった。 それからも国を救うが称賛の声は上がらずいまや冷酷魔法騎士と呼ばれるようになってしまった。 そんなある日、女神のお遊びで冷酷魔法騎士は少女の姿になってしまった。 そんな姿を皆はどう感じるのか…。 そして暗黒世界との闘いの終末は訪れるのか…。 ※こちらの内容はpixiv、フォレストページにて展開している小説になります。 画像の二次加工、保存はご遠慮ください。

強奪系触手おじさん

兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。

処理中です...