上 下
42 / 276
第二章 隠されたホムラの陰謀

第四十話 戦乙女達の決意

しおりを挟む
「よし、これで大丈夫やね」

 着替え終えた倫子達は、ストレッチをしながら体の筋肉をほぐしていた。変態スライムによってベトベトにされた分、身体を動かして気分を晴らそうとしているのだ。
 
「ええ……でも、今回の件は本当に最悪でした……」
 
 ルリカは変態スライムにやられた事を俯きながら落ちこんでしまい、この様子にミミ達も同意せざるを得なくなるのも無理はない。

「今回の件、スライムと思って侮っていた私達にも責任はあるし、今でもその感触がまだ残っている……皆からの期待を背負って頑張っているのに……やっぱり私達って選ばれし者達じゃないのかな……」

 ヒカリは俯きながら自身の行動を悔やんでいて、お尻を抑えて涙目となってしまう。皆の期待を背負いながら戦っているのに、今回の戦いでは変態スライムによって災難に遭っただけでなく、子供の様に大泣きしてしまった。いい年して大泣きするのは悪くない事だが、本人としては恥ずかしいのも無理はない。
 その様子を見たミミは、落ち込んでいるヒカリの頭を優しく撫で始める。

「そんな事ないですよ。今回の失敗で挫けたら駄目。次のクエストで挽回すればいいだけだから」

 ミミは笑顔でヒカリに声をかけ、倫子も後に続いて彼女達に声を掛ける。
 
「ミミちゃんの言う通り。ウチ等ならやればできるし、この悔しさをバネにして頑張るのみや」 
「ミミちゃん、倫子さん……」

 ミミと倫子に慰められたヒカリは涙を拭き、エヴァ達も彼女達の元に移動して励ましに来たのだ。

「私達も傍にいるから心配しないで!」
「次、変態スライムが来たら倒しましょう!」
「アタイもやられっぱなしは嫌いだからな!」
「失敗は成功のもと。これからです!」
「今回のクエストで貴重な経験をしましたが、この悔しさをバネにして頑張ります!」
「私も諦めずに突き進むのみです!」

 エヴァ達の励ましを受けたヒカリは次第にやる気を感じ始め、すぐに立ち上がって落ち込みから回復する事に成功した。この様子だと心配する事はないだろう。
 
「そうね。ここで落ち込むのは良くないし、私達は私達で頑張らないと!」

 ヒカリはエヴァ達の励ましに笑顔で応え、そのまま皆で決意を固めながら円陣を組み始める。

「今回はやられてしまったけど、次のクエストで挽回あるのみ!明日も頑張りましょう!」
「「「おう!!」」」

 ヒカリの宣言に倫子達が一斉に大きな声で応え、彼女達はそのまま零夜達の元へと戻り始めた。この失敗を糧にして自身が強くなる為に……



「なるほど。ラリウスでのアークスレイヤーの基地については、ホムラ支部以外にも6箇所ぐらいあるという事か」

 零夜はトラマツの説明を受けながら、ウインドウのスクリーンに映っているグラディアスのマップを見ていた。
 その中の赤い点がアークスレイヤーの基地がある目印となっていて、黒いバツ印は既に陥落しているアークスレイヤーの基地が一つ示されている。この前零夜達が制圧したフルール基地だ。

「そうだ。奴等はこの前戦ったボルグレンやベクトルの他にも強い奴等が多くいる。気を引き締めて戦わなければ、全滅する恐れもあるからな」

 ノースマンからの説明に零夜が真剣な表情で今後の事を推測する中、ミミ達が茂みの中から姿を現し、彼等の元に駆け寄りながら戻ってきた。その様子だと落ち込みから回復している様で、心配する事はない様だ。

「もう大丈夫なのか?」
「うん。迷惑掛けてごめんね」
「気にするなよ。皆が無事で本当に良かったし、俺はそれが気掛かりだったからな」

 零夜は本心を伝えながら苦笑いをしていて、その様子を見たミミが彼をムギュッと強く抱き締める。
 零夜の本心はいつも側にいるミミが一番よく知っている為、それに対しての行動も得意なのだ。それを見ていたルリカは嫉妬で頬を膨らましていたのは無理もない。

「大丈夫よ、零夜。私達はこんな所で落ち込み続ける事はないし、クヨクヨしても何も始まらないからね」
「そうだな……さっ、早くギルドに戻って報告しないと」

 零夜達がクエストを無事に完了した事を伝える為、歩きながらギルドに戻り始めたその時、アークスレイヤーのアジトが遠くから見えた。
 その外観は和風の城だが、フルール基地よりもとても大きい。支部基地だけあってとてもレベルが高いのは言うまでもないだろう。

「あれがホムラ支部のアークスレイヤーのアジトか……」
「改めて見ると凄い場所だな……」

 ヒカリとソニアはアジトの外観に冷や汗を流しながらポツリと呟き、ミミ達も真剣な表情をしながら冷や汗を流していた。
 ホムラ支部基地はフルール基地よりもランクが高い分、強い敵も多くいる。その為、今後の戦いは苦戦が予測されるので、現在はクエストをしながらレベルを上げているのだ。
 
「どうやらそこが私達の狙う場所となるけど、今のレベルでは不利のまま。その為にも次々とクエストを受けておかないと!」

 ルリカは真剣な表情で強くなる決意の宣言をし、キララも彼女と同様に頷く。彼女達は零夜達に追いつける様日々精進している為、更にレベルアップする事を心から強く決意しているのだ。
 そのまま皆でホムラの街に帰ろうとしたその時、何処からか荷車の音が遠くから聞こえる。

「?」

 零夜が荷車の音のした方を向くと、それはマンモスのようなモンスターが檻を乗せた荷車を引いていて、男が荷車に乗ってタバコを吹いていた。どうやら何処かに向けて何かを運んでいるのだろう。

「行商人か?」
「いや、違う……あれは……奴隷商人だ!」
「「「奴隷商人!?」」」

 ノースマンの真剣な表情での説明にミミ達が驚く中、突然モンスターが歩くのを止めてしまった。
 すると男が零夜達の方に視線を移し、彼等の姿を見て警戒態勢を取っていた。しかもその手にはハンドガンが握られている。

「貴様等は選ばれし戦士達!べムール様に奴隷を献上しようとしているのを邪魔するつもりか!?」

 奴隷商人は零夜達に冷や汗を流しながら質問するが、それを聞いた彼は真剣な表情で彼を睨みつける。

「アンタはアークスレイヤーと協力関係か……なら、話は早い!」

 零夜はすぐに駆け出したと同時に奴隷商人に向かい、彼が放った弾丸を余裕で回避する。そのまま零夜は奴隷商人の服を掴み、そのまま背負投で勢いよく投げ飛ばした。

「うわっ!」

 奴隷商人は地面に頭を打ち付け、倒れたと同時に失神してしまう。その隙にソニアが針金で扉を開け、中にいた奴隷達を解放する。

「ありがとうございます!」
「気にするな。数は十人いるぞ!」
「すぐにギルドに報告しないと!」

 アミリスがギルドに向けて報告の準備をする中、零夜は失神している奴隷商人を縄できつく縛り付ける。

「よし!奴隷商人は縛った!そのままモンスターに乗ってホムラへ戻るぞ!」
「ええ!荷車は改装しておきます!」

 ルリカはトンカチとノミを構えてトンテンカンカンと荷車を改造し、馬車に姿を変えてしまった。彼女は職人スキルを持っているので、どんな物でも作れる事が出来るのだ。

「さあ、皆!すぐに乗って!」

 エヴァの合図で皆が馬車に乗り込む中、奴隷の二人がエヴァの方を向いてきた。二人は彼女と同じくシルバーウルフの獣人だが、一人はボブヘア、もう一人はショートヘアだ。

「エヴァ!無事だったのね!」
「あなたは……アーニャにサーシャ!」

 エヴァがアーニャとサーシャの姿に驚きを隠せず、三人は再会した事で喜び合いながら抱き合う。
 その様子に全員が彼女達の方を向き、疑問の表情をしていた。

「知り合いなのか?」
「私の……故郷の仲間なの……」
「「「ええっ!?」」」

 いきなり俯いたエヴァからの衝撃発言に、その場にいる全員が一斉に驚いてしまった。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

魔人に就職しました。

ミネラル・ウィンター
ファンタジー
殺気を利用した剣術の達人である男、最上 悟(さいじょう さとる)。彼は突然、異世界に転移してしまう。その異世界で出会った魔物に魔人と呼ばれながら彼は魔物と異世界で平和に暮らす事を目指し、その魔物達と共に村を作った。 だが平和な暮らしを望む彼を他所に魔物達の村には勇者という存在が突如襲い掛かるのだった――― 【ただいま修正作業中の為、投稿しなおしています】

十人十色の強制ダンジョン攻略生活

ほんのり雪達磨
ファンタジー
クリアしなければ、死ぬこともできません。 妙な部屋で目が覚めた大量の人種を問わない人たちに、自称『運営』と名乗る何かは一方的にそう告げた。 難易度別に分けられたダンジョンと呼ぶ何かにランダムに配置されていて、クリア条件を達成しない限りリスポーンし続ける状態を強制されてしまった、らしい。 そんな理不尽に攫われて押し付けられた人たちの強制ダンジョン攻略生活。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

【R18】異世界なら彼女の母親とラブラブでもいいよね!

SoftCareer
ファンタジー
幼なじみの彼女の母親と二人っきりで、期せずして異世界に飛ばされてしまった主人公が、 帰還の方法を模索しながら、その母親や異世界の人達との絆を深めていくというストーリーです。 性的描写のガイドラインに抵触してカクヨムから、R-18のミッドナイトノベルズに引っ越して、 お陰様で好評をいただきましたので、こちらにもお世話になれればとやって参りました。 (こちらとミッドナイトノベルズでの同時掲載です)

進め!羽柴村プロレス団!

宮代芥
大衆娯楽
関東某所にある羽柴村。人口1000人にも満たないこの村は、その人口に見合わないほどの発展を見せている。それはこの村には『羽柴村プロレス』と呼ばれるプロレス団があるからだ! 普段はさまざまな仕事に就いている彼らが、月に一度、最初の土曜日に興行を行う。社会人レスラーである彼らは、ある行事を控えていた。 それこそが子どもと大人がプロレスで勝負する、という『子どもの日プロレス』である。 大人は子どもを見守り、その成長を助ける存在でなくてならないが、時として彼らの成長を促すために壁として立ちはだかる。それこそがこの祭りの狙いなのである。 両輪が離婚し、環境を変えるためにこの村に引っ越してきた黒木正晴。ひょんなことから大人と試合をすることになってしまった小学三年生の彼は、果たしてどんな戦いを見せるのか!?

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

冷酷魔法騎士と見習い学士

枝浬菰
ファンタジー
一人の少年がドラゴンを従え国では最少年でトップクラスになった。 ドラゴンは決して人には馴れないと伝えられていて、住処は「絶海」と呼ばれる無の世界にあった。 だが、周りからの視線は冷たく貴族は彼のことを認めなかった。 それからも国を救うが称賛の声は上がらずいまや冷酷魔法騎士と呼ばれるようになってしまった。 そんなある日、女神のお遊びで冷酷魔法騎士は少女の姿になってしまった。 そんな姿を皆はどう感じるのか…。 そして暗黒世界との闘いの終末は訪れるのか…。 ※こちらの内容はpixiv、フォレストページにて展開している小説になります。 画像の二次加工、保存はご遠慮ください。

箱庭から始まる俺の地獄(ヘル) ~今日から地獄生物の飼育員ってマジっすか!?~

白那 又太
ファンタジー
とあるアパートの一室に住む安楽 喜一郎は仕事に忙殺されるあまり、癒しを求めてペットを購入した。ところがそのペットの様子がどうもおかしい。 日々成長していくペットに少し違和感を感じながらも(比較的)平和な毎日を過ごしていた喜一郎。 ところがある日その平和は地獄からの使者、魔王デボラ様によって粉々に打ち砕かれるのであった。 目指すは地獄の楽園ってなんじゃそりゃ! 大したスキルも無い! チートも無い! あるのは理不尽と不条理だけ! 箱庭から始まる俺の地獄(ヘル)どうぞお楽しみください。 【本作は小説家になろう様、カクヨム様でも同時更新中です】

処理中です...