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第二章 追放奴隷のシルバーウルフ

第78話 ペンデュラスとの別れ

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 零夜達はペンデュラス家の屋敷から出た後、多くの住民達から迎えられていた。ゲルガーを倒した事で街は元に戻り、普段通りの生活を送る事ができる様になったのだ。

「本当にありがとうございます!なんとお礼を言えば良いのか」
「いや、大した事じゃないですよ。皆さんが無事でいればそれだけで十分です!」

 住民からの一礼に対し、零夜は苦笑いしながら応えていく。彼は住民達から褒められていて、照れ臭くなるのも無理ないのだ。

「お姉ちゃん、かっこよかった!」
「ありがとね。よしよし」

 倫子は子供達に囲まれながら、笑顔で話しかけていた。日和達女性陣も子供達と触れ合いながら楽しんでいて、特にエヴァは子供達に大人気となっているのだ。
 一方のルイザはヤツフサを抱きながら、この様子を微笑みながら見ていた。この触れ合いが苦手なのだろう。

「参加しなくて良いのか?」
「いや、別に良いけどね……住民達が幸せならそれで良いから」

 ヤツフサの質問に対し、ルイザは苦笑いしながらも零夜達を見つめる。彼等は役目を果たした上に住民達からの支持を集めている。まさにヒーローと言っても相応しく、この世界の救世主である可能性も高いのだ。
 しかしルイザは違う。自身はハイン達と共に悪い事をした上で、金の欲しさあまりに行動していた。その中に交わる事など許される事ではなく、自ら動こうとしても避けられてしまうだろう。

(まあ、私がどうせ行っても住民達には嫌われるだろうし……)

 ルイザが心の中で誰にも聞えない様、ポツリと呟いたその時だった。


「いいや!そんな事はないぞ!」
「その声は……!」


 全員が声のした方を見ると、ギルドマスターであるフェルネが姿を現した。全員が彼に視線を移した直後、住民達は零夜達から次々と離れてしまったのだ。その様子だとフェルネの前では、失敬な行動をするのは良くないと感じているだろう。

「フェルネ様!何故こちらに!?」
「うむ。ゲルガーを倒した英雄達に挨拶をしようかと思ってな」

 フェルネは零夜達に近付いたと同時に、彼等に視線を合わせる。そのまま穏やかな笑みを浮かべながら、零夜達に声をかけてきたのだ。

「八犬士達よ。このペンデュラスを救ってもらい、感謝する。お主達がいなければ、この街は暗黒のままだった」
「いえ。別に大した事じゃないですし、皆さんが無事である事が一番嬉しいです」

 フェルネのお礼に対し、零夜は苦笑いしながら返していく。それに倫子達も笑顔で頷きながら同意していて、その様子にフェルネは安堵の笑みを見せる。
 次にフェルネはユウユウ、ユイユイ、アンナ、サユリに視線を移したと同時に、彼女達に対して謝罪する。ハイン達によって彼女達は巻き込まれてしまい、酷い目に遭わせた事を後悔しているのだろう。
 
「お主等もすまなかったのう。奴等については厳しく処罰しておいた。お主達に襲い掛かる事は二度と無いじゃろう」
「それなら大丈夫です。彼等が二度と出てくる事が無ければ、私達にとっても安心ですので」

 ユウユウの笑顔にアンナ達も同様に頷く。アンナ達を誘拐した犯人が一生強制労働から出てこなければ、彼女達としても万々歳と言えるだろう。
 因みにハイン達は現在も強制労働で働かされているので、汗水垂らしてヒーコラ働いているのだ。彼等が二度と冒険者に復帰する事は二度となく、この様な日々を延々と過ごす事になるのは確定だ。
 フェルネはエヴァにも視線を移し、彼女に対して話しかける。

「エヴァよ。お主が八犬士である事には驚いたが、今は幸せか?」
「はい。私には零夜という好きな人がいますし、素敵な仲間が沢山います!今後は彼等と共に行動して、自身の役目を果たします!」

 フェルネの質問に対し、エヴァは笑顔を見せながら答える。大好きな人である零夜、友人のマツリ、そして仲間である倫子、日和、アイリンがいる限り、寂しい思いは二度とないだろう。

「そうか。わし等のギルドには戻れないが、お主の活躍を信じておる。必ずこの世界を救ってくれ」
「はい!必ず!」

 フェルネからの頼みにエヴァは真剣に応え、零夜達も頷きながら同意する。彼等の絆は誰にも負けない結束力がある限り、その絆は途切れる事はないだろう。
 そしてルイザの番となり、フェルネは彼女に近付いて視線を合わせる。しかしルイザは悪い事をした罪があるので、目を背けているのだ。

「ルイザよ。お主はハイン達と共に悪い事をしていたが、零夜達と出会って改心し、見事この街を救う事に尽力してくれた。実に良かったぞ」
「フェルネ様……」

 フェルネの笑みに対し、ルイザは目に涙を浮かべてしまう。叱られるかと思ったが、まさか褒められてしまうのは想定外であったのだろう。
 更にフェルネの話は続いていて、彼はルイザの方に両手をポンと置いた。

「お主はわし等のギルドに欠かせないメンバーじゃ。これからは皆を率いるリーダーとして……このギルドを宜しく頼むぞ」
「フェルネ様……!うわーん!!」

 ルイザは我慢できずにフェルネに抱き着き、そのまま大粒の涙をこぼしながら大泣きしてしまう。住民達はそんな彼女の姿を見て、誰もが拍手をしていたのだ。

「ルイザ!お前はこの街のヒーローだ!」
「これからもこの街を頼んだぞ!」
「ルイザお姉ちゃんはカッコ良いヒーローだよ!」

 住民達はルイザに対して声援を送り、この様子に零夜達は微笑んでいた。更に彼等は役目を終えた以上、これ以上ペンデュラスに長居をする理由にはいかないのだ。

「では、俺達はこれで失礼します。役目を終えた以上は戻らないといけないので」
「そうか。しっかり気を付けて帰るんじゃぞ!」
「はい!皆、出発だ!」
「「「おう!」」」

 零夜の合図と同時に、彼等は走りながらこの街から去っていく。零夜達の姿を見たルイザはフェルネから離れたと同時に、大きく息を吸い込みながら彼等に向かって叫び始めた。

「ありがとう!八犬士の戦士達!」

 ルイザの叫びを聞いた零夜は、後ろを向きながら笑顔で応える。そのまま彼等はペンデュラスから去って行き、その姿は見えなくなってしまったのだ。

「行っちゃったか……今度会う時は強くならないと!」

 ルイザは笑顔を見せながら決意を込めた後、フェルネ達に視線を移す。そのまま彼女達は、今後ペンデュラスの街をどうするか話し合ったのだった。

 ※

 その頃、悪鬼のアジトではFブロックがやられた報告を受け、タマズサはワナワナと怒りに震えていた。Gブロックに続き、Fブロックまで立て続けにやられてしまった。これに関しては怒りに震えるのも、無理はないだろう。

「まさか二つのブロックがやられてしまうとは……犯人については奴等しかいないみたいだな」
「おっしゃる通りです。あの八犬士の奴等しかいませんので」

 ゴブゾウはタマズサの推測に同意しながら、八犬士の仕業だと確信する。零夜率いる八犬士によって、基地と隊員は次々と減らされていく。この話を聞いたタマズサが、怒りでワナワナ震えてしまうのも無理ないだろう。

「奴等は次に向かうのはDブロック。その隊長に伝えろ。失敗したら死あるのみと……」
「はっ!」

 タマズサからの命令と同時に、ゴブゾウは急いでDブロックの隊長に通信を入れ始める。その様子を見たタマズサは苛つきを隠せず、手に持っていたワイングラスを握り潰して破壊してしまったのだ。

(おのれ、八犬士!この恨みは忘れんぞ!)

 タマズサは心の底からの怒りで、零夜達を憎んでいた。彼女との戦いはどうなるのか……それは先に進まなければ分からないだろう。
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