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第二章 追放奴隷のシルバーウルフ

第73話 三つの扉

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 零夜達は最上階に到達し、ゲルガーのいる部屋を探していた。最上階にある部屋はボスの部屋以外に二か所ある事が判明されている。しかしどの部屋にいるのかは分からない為、四名ずつに分かれて三か所の部屋を調べる事にしたのだ。グループ分けはこうなっている。

・零夜、倫子、エヴァ、ユウユウ
・日和、アイリン、サユリ、ユイユイ
・マツリ、ヤツフサ、ルイザ、アンナ

 まずは日和達が一つ目の扉を確認する事に。そこは鍵が掛かっていて、扉を開ける事は不可能となっているのだ。

「参ったわね……鍵が掛かっているとなると、ルイザが必要になるかも」
「私は鍵を解除できるスキルを持っていないし……」

 日和とアイリンは難しい表情をしながら、目の前の扉をどう開けるか考え始める。
 ルイザは鍵を開ける事ができるスキルを持つ為、どんな扉でも開く事が可能である。しかし今回は彼女が別チームにいるので、連れて来るのは流石に迷惑となるだろう。

「それなら私に任せて!こう見えても鍵の解除は得意だから!」
「「サユリが!?」」

 するとサユリが手を挙げて、自ら鍵を開ける事を宣言する。それにアイリンと日和が驚きを隠せずにいたその直後、サユリは右手を扉に当てて魔術を唱え始めた。

「ロックオープン」

 サユリが魔術を唱えた直後、扉のロックが強制的に解除された。彼女はロックが解除された事を確認した後、扉をゆっくりと開き始める。

「サユリ、いつの間にこんな技を持っていたの?」
「鍵の開け方の講座を受けていたからね。中はどうかな?」

 サユリが扉の中を覗いてみると、その部屋にはお宝が沢山あった。恐らくこの部屋は宝物庫であり、ペンデュラス家の財宝が多く眠っていたのだ。

「ペンデュラス家の財宝の様ね。彼等は殺されて無念の思いをしたみたい……」
「ええ……財宝については回収しないと。ペンデュラス家の思いを無駄にしない為にも……」

 ユイユイは前を向いたと同時に、ペンデュラス家の財宝の回収に取り掛かる。日和達も彼女の手伝いに取り掛かり、財宝は僅か数分で回収完了する事が出来たのだった。

 ※

 マツリ達は二つ目の扉の前に辿り着き、真剣な表情で前を見る。そこは厳重なロックがしてあるので、普通のロック解除では簡単に開かないだろう。

「恐らくこの部屋にゲルガーの秘密が隠されている。用心して」

 ルイザはマツリ達に忠告したと同時に、真剣な表情で扉のロックを解除する。彼女の魔術によって僅か数秒で解除する事に成功し、アンナが扉のドアノブを真剣な表情で掴み始める。

「じゃあ、行くわよ」

 アンナの合図に全員が頷き、彼女はゆっくりと扉を開ける。そしてその先に見えたのは……予想もしない物が置いてあったのだ。

「な、何これ!?」
「これって……禁断の本の……」
「なんであいつこんな物を隠しているのよ!」

 アンナ、マツリ、ルイザの三人は赤面をしてしまい、思わず顔を抑えてしまう。この部屋にある物はゲルガーが集めた変な本ばかりである。その数は百冊以上であり、誰にも見つからない様に厳重なロックをしていたのだ。

「恐らく奴は趣味として持っていたのだろう。それにしても際どい物ばかりだな……」

 ヤツフサは唖然としながらこの様子を見ていて、ゲルガーの行動に呆れるしか無かった。アンナ達はすぐにその部屋から移動したと同時に、バタンと扉を閉めて後ろを向く。

「早く皆のところに向かいましょう」
「そうね。こんな部屋に入った私達がバカだったわ」
「ゲルガーに対してお仕置きしておかないとね」
(この部屋に行ったのは、ハズレだったのかも知れないな……)

 アンナ達は赤面しながら仲間達の元に向かい出し、早歩きで移動していた。彼女に抱かれているヤツフサはこの様子を見て、盛大なため息をつくしかなかったのだった。

 ※

 零夜達四人は大きな扉の前に辿り着き、真剣な表情をしながら前を向く。恐らくこの部屋こそゲルガーがいる部屋であり、決戦を前に誰もが緊張しているのだ。

「いよいよか……戦う覚悟はできていますか?」
「うん。怖いかも知れないけど、零夜君が一緒だったら大丈夫」
「私も零夜がいるからこそ、今の私がここにいる。ゲルガーとの因縁を終わらせる為にも、絶対に勝つわ」

 零夜の質問に対し、倫子とエヴァは笑顔を見せながらそう応える。そのまま彼女達は零夜に抱き着いたと同時に、目を閉じながらゆっくりと落ち着き始めたのだ。

「いつもしている事なん?」
「まあな。そのお陰で俺が赤面して倒れる事は無くなったけど」

 ユウユウの質問に対し、零夜は苦笑いしながらそう応えていく。
 零夜は以前女性に抱かれてしまうと、赤面しながら倒れてしまう悪い癖があった。しかし倫子とエヴァによってその効果は薄れてきてしまい、今ではすっかり慣れてきたのだ。

「じゃあ、ウチも抱っこしてくれへん?少し緊張があって……」
「別に良いけど……」

 ユウユウが零夜に近付いたと同時に、倫子とエヴァは彼から離れる。そのまま彼女はピタッと全身を零夜にくっつかせ、ムギュッと優しく抱き締めたのだ。

(暖かい……けど、眠くなって……むにゃ……)
 
 ユウユウは異性と抱き合うのは初めてだが、零夜を抱き締めた感触に安心感を覚えていく。そのまま彼女は緊張感が解けてしまったが、同時に静かに眠りそうになってしまう。

「起きやんか!」
「うわっ!」

 倫子の叫びにユウユウは驚いてしまい、ハアハアと息を荒げながら落ち着きを取り戻す。戦いを前にして抱き着いたまま眠ってしまったら、戦闘どころではなく足手まといとなってしまうだろう。

「ご、ごめん……今の叫びで目が覚めた……抱っこすると眠くなる悪い癖があるから……」
「その悪い癖を治さないとね。それじゃ、行くわよ!」

 倫子の合図と同時に、零夜が扉を勢いよく開く。彼等の前にはゲルガーが椅子に座りながら待ち構えていて、真剣な表情で睨みつけていたのだ。

「まさか八犬士達がここに来るとはな……この時が来たという事か……」

 ゲルガーは決心したと同時にスックと椅子から立ち上がり、真剣な表情で零夜達の方へ歩き始める。その姿を見た彼等は真剣な表情をしながら、警戒態勢に入ろうとしていた。

「アンタがゲルガーか。アリウスを殺して姿を変え、ペンデュラスを征服したそうだな」
「そうだ。正確に言えば奴隷を多く増やし、自身の思い通りにしようとしていた。其の為にもまずは街を征服しようと思っていたからな……」

 ゲルガーは真の目的を零夜達に話し、その理由に彼等は怒りに震え上がっていた。好き勝手な目的で街を征服した事はとても許さず、今にでも怒りで飛び出そうとするのも無理はないだろう。
 するとゲルガーは突然ワナワナと震え、いきなり怒りの表情へと変化したのだ。

「しかし計画は狂ってしまった!エヴァとルイザには逃げられてしまい、奴隷商まで殺された!その計画の元凶であるお前達を始末し、女性は奴隷となってもらう!」

 ゲルガーは怒りの表情で零夜達を睨みつけ、宣言したと同時に戦闘態勢に入る。自身の計画は成功される筈だったが、イレギュラーの存在である零夜達によって滅茶苦茶な結末になってしまった。その責任を取らせる為、彼は戦う決断をしたのだろう。

「だったら俺達はアンタを倒す!エヴァやルイザ、ユウユウ達を悲しませた罪、住民達を恐怖に陥れた罪、ペンデュラス家の親子を殺した罪を償う為にも!」

 零夜達も一斉に戦闘態勢に入り、真剣な表情でゲルガーを睨みつける。Fブロック基地での決戦は、間もなく始まろうとしているのだった。
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