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第二章 追放奴隷のシルバーウルフ

第67話 背中に生える光の翼

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 零夜達は無事にゼルクスから逃げ切る事に成功し、目的地である要塞の前に到達。目の前の要塞は西洋の城をモチーフにしているが、禍々しいオーラが漂っているのだ。

「あれがFブロック基地のアジト……見た目だけでも怖そうな雰囲気ね……」
「うん。近付いたら危険だから用心しないと」
「そうだな。他の皆は大丈夫だろうか……」

 零夜が真剣な表情で他の皆を心配したその時、日和達、ヤツフサ達、アイリン達も駆け付けてきた。この様子だと誰一人欠ける事なく、問題なく逃げ切る事が出来たのだ。

「皆、無事だったか!」
「ええ!あと、黒服の男の正体が分かったわ!」
「本当なの!?」

 ルイザからの報告に全員が反応し、一斉に彼女の周りに集まる。ルイザは一瞬驚いてしまうが、すぐに気を切り替えて全員に話し始める。

「彼等はゼルクス。オートマタメカの進化形で、機械人間の一つよ。何故黒服とサングラスなのか気になるけど……」

 ルイザからの説明にエヴァ達は納得するが、零夜、倫子、日和の地球組三人はまだ疑問に感じていた。黒服の男達の正体が分かったのは良いが、何故あの様な格好をしていたのは理由があると判断しているだろう。

「恐らく俺達の世界に逃走ロワイアルという番組があったから、それを見たんじゃないのか?」

 零夜は真剣な表情で推測し、倫子と日和も納得の表情をする。ゲルガーは地球の文化を調べていて、逃走ロワイアルをテレビで見ていた可能性が高い。その番組を見てヒントを掴み取り、今のゼルクスが出たという事になるだろう。
 
「確かにあり得るかもね。そうでなかったら、ゼルクスがこんな格好をしていないし」
「そうそう。戦いの準備をしている時に、わざわざ私達の世界の番組を見る人はいませんからね」
(((どんな番組なの……?)))

 倫子と日和はゼルクスが黒服である理由に意見を述べるが、エヴァ達は益々疑問に感じてしまう。彼女達は地球には行った事が無いので、今の話を疑問に感じるのは当然と言えるだろう。
 アイリンとヤツフサは地球にいた事がある為、ある程度の事は知っているのだ。

「ともかく、さっさとこの要塞の中に入ればゴールインよ!すぐに入らないと!」
「待って、アイリン!」

 マツリの静止も聞かず、アイリンは要塞に向けて走り出し始めた。すると彼女の眼の前に地面から壁が姿を現し、要塞への道を阻んでしまったのだ。いくら何でも想定外であり、こんな作戦をするのはインチキとしか思えないだろう。

「壁!?どういう事よ!」

 予想外の展開にアイリンが怒鳴った直後、目の前にウインドウが出現。そこには余裕の笑みを浮かべたゲルガーが映し出されていた。

『ガハハハハ!そう簡単に行かせてたまるかよ!ここで突破されたらゲームが面白くないからな!』

 ゲルガーが指を鳴らした途端、インプ、ゾンビ、ゴブリン、ノームヒューマン、悪魔の軍勢が出現。更には兵士達まで姿を現したのだ。

『ここからは制限時間制だ。多くの敵を倒すか、この壁を破壊か乗り越える事が出来たらクリアだ。但し……十分経ったらゼルクスがお前達を捕らえに向かうからな……』

 ゲルガーはあくどい笑みを浮かべた直後、ウインドウは消えてしまう。同時に零夜達は一斉に戦闘態勢に入り、襲い掛かるモンスター達を睨みつけた。

「いざという時は自来也、さゆりんごの二つを使う。その時は分かっていますか?」
「うん。対策はバッチリだから」

 零夜からの質問に対し、倫子達は頷きながら答える。彼女、日和、アイリンは一度自来也に巻き込まれた経験があり、さゆりんごについても皆が潰されそうになってしまった。この様な苦い経験をした以上、二度と喰らいたくはないと考えているだろう。

「よし!突撃開始!」
「「「おう!」」」

 零夜の合図で全員が突撃に入り、襲い掛かるモンスターを次々と蹴散らしていく。モンスターの数はかなり多いが、倒すとお金、経験値、素材の三つが入るので、結果はプラマイゼロと言えるだろう。

「一気に攻めればこっちのもんや!フレイムショット!」
「私も本気で行かへんと!アイスキャノン!」

 ユウユウの炎、ユイユイの氷による連続波動弾が炸裂し、ゴブリンとインプ達は次々と倒れて金貨と素材に変化していく。しかし倒しても次々と出てくるのでキリがない状態となっているのが現状だ。恐らく何者かによって召喚されているに違いないが、今はそんな事を考えている暇はない。

「それなら私がやるわ!さゆりんご!」

 サユリのお決まりのポーズで、空からリンゴが落下。多くのモンスター達を潰す事に成功するが、倒してもまだ出てきてしまうのだ。

「倒してもまだ出てくるなんて!」
「残り時間が半分!このままだと捕まるのも時間の問題だ!」

 サユリがこの状況に驚く中、ヤツフサは真剣な表情をしながら残り時間が半分である事を通告。それを聞いた倫子達は冷や汗を流してしまい、零夜に至っては物凄く動揺して立ち止まってしまう。

(終わってしまうのか……?誰も救えないまま……)

 零夜は心の中でそう思ってしまい、戸惑いの表情をしながら動きを止めてしまう。その瞬間、過去の記憶がフラッシュバックしてしまったのだ。

 ※

「うう……」

 それは逃走ロワイアルの収録後、零夜は人気タレントの橘ヒカリに抱かれながら泣いていたのだ。彼女をハンティングマンの魔の手から救えなかったのが唯一の心残りであり、零夜にとっても自分の使命を果たせなかった事を悔やんでいるのだ。

「大丈夫。賞金は山分けしてくれたから。それに零夜君にはさらなる可能性があるし、もしかすると背中に翼が生えるんじゃないかな?」
「背中に……翼……?」

 ヒカリの笑顔に零夜はキョトンとする中、空から鳩の羽が落ちてきた。それを彼女はキャッチしたと同時に、零夜のおでこにその羽根を指で押さえた。

「うん。零夜君は仲間を守る性格だからこそ、限界を超えて皆を助ける事ができる筈だよ。だからメソメソしないで、精一杯頑張ってね」
「……はい!」

 ヒカリの笑顔のエールを受けた零夜は、泣くのを止めて精一杯応える。それに彼女は微笑んだと同時に、二人は皆が待つ場所へと向かったのだった。

 ※

(いや!ヒカリさんは皆を助ける事ができるアドバイスをしてくれた!だからこそその力を……発揮してみせる!)

 零夜は心の中で決意を固めたと同時に、真剣な表情で潔く前を向く。そのまま自身の集中力を高めたと同時に、背中の部分が光り輝き始めたのだ。

「零夜の背中が光った!?」
「一体どうなっているの!?」

 いきなり発生した予想外の展開に、敵味方関係なく誰もがざわついてしまう。同時に零夜の背中から白い翼が生え始め、そのまま大きく広げていく。
 その翼はまさに大鷲その物であるが、イカロスの翼に似ている事もある。しかし、正義の翼である事は確かだろう。

(背中に翼……これで皆を助けられるのなら……俺は覚悟を決めるのみだ!)

 零夜も自身の背中に翼が生えた事で、驚きの表情をしてしまう。しかし彼はこれで皆を助けると確信し、倫子達に視線を移す。その瞳には真っ直ぐな目をしていて、迷いなく覚悟を決めているのだ。

「皆さん!聞いてください!この状況を打破できる方法が一つだけあります!」
「えっ!?何か分かったん!?」

 零夜が皆に説明をしようとしていて、それに倫子達は一斉に彼の方を向く。どんな方法だろうと興味を示し、次々と零夜の元に寄ってきたのだ。

「全員俺に捕まってください!その壁を乗り越えて、要塞に突入します!」
「「「ええっ!?」」」

 零夜からの想定外の提案に対し、倫子達は驚きを隠せずにいた。まさかの無茶苦茶な行動をするのは想定外であり、誰もが驚かずにはいられなかったのだった。
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