上 下
54 / 122
第二章 追放奴隷のシルバーウルフ

第50話 ブティックでの一時

しおりを挟む
 ギルドを出た零夜達は、そのままブティックへと向かっていた。その理由はルイザのボロボロの服を変える事だ。

「さて、ルイザの服も変えておかないとね。この姿じゃ笑われるし。さて何処にするか……」

 マツリがブティックを何処にするか考えたその時、日和がある店を思い出し始める。彼女はこの街のファッション情報を熟知しているので、相手をコーデするにはお手の物だ。

「ルイザは盗賊だから、あの店が似合うと思うわ。ほら、そこにお店があるから」

 日和が指差す方を見ると、そこはカジュアルの服専門店の店が建っていた。他にも民族衣装や高級衣装などもあるが、ルイザの事を考えれば、この方が似合うだろう。

「確かに盗賊と言えばカジュアルだけど、似合う物はあるのかしら?」

 ルイザは店の前に立ちながら、疑問の表情で見つめている。この店で似合う物はあるかも知れないが、後は本人がどう好むかだ。下手に変な物を買えば、とんでもない格好をする事もあり得るだろう。

「まあまあ。取り敢えず中に入りましょう!」
「キャッ!」

 ルイザは倫子に押されながらも、店の中へと入って行く。エヴァ達も後に続くが、零夜とヤツフサは入らなかった。零夜は服装に興味がなく、ヤツフサはフェンリルなので入れないのだ。

「零夜は興味無いのか?」
「俺はこういうのはあまり……」

 ヤツフサの質問に対し、零夜は苦笑いしながらもそう応える。彼は忍者服で十分だと言えるが、それ以外の場合はどう対応するかが気になるところだ。ヤツフサはこれ以上の深追いは止めて、倫子達が戻るまで待ち始めたのだ。

 ※

 倫子達はブティックの中に入った後、色んな服を確認する。ジーンズ、デニムスカート、オーバーオールなどのボトムス、更にはチェック柄のシャツやノースリーブシャツ、へそ出しのスポーツブラまであるのだ。

「ウチの服もこういうジーンズとか良かったな……」

 倫子はオーバーオールの胸ポケットを引っ張りながら、ため息をついてしまう。しかしオールラウンダーとなってしまった以上、この姿である裸オーバーオールは避けられない。それどころか変更する事さえできないので、女性にとっては厄介な職業となっているのだ。

「まあまあ。今はルイザの着替えをどうにかしないと」
「う、うん……」

 アイリンが苦笑いしながら倫子を落ち着かせ、彼女は頷きながら応えるしか無かった。するとマツリがとある服に視線を移していて、エヴァ達がその姿に疑問に感じる。

「何か見つけたの?」
「ええ。この服が似合うんじゃないかと思って」

 マツリが指差す方を見ると、それはデニムのショートパンツだった。確かに盗賊としては相応しい服装であり、動きやすさも抜群。それを見たルイザも、この服装を気に入るのも無理ないだろう。

「確かにこれは似合うわね。まずはこれにするわ」

 ルイザはショートパンツを手に取り、次の場所に向かう。そこはビキニ水着の場所であり、様々な種類が置かれているのだ。彼女は真迷う事なく黒いビキニを選び、その行動に皆は驚いてしまう。

「ルイザ、アンタ大胆な衣装が好きなのね……」
「そう?盗賊ならこの衣装の方が似合うしね」

 エヴァは唖然とした表情をするが、ルイザは平然としながら応えた。彼女としてもこの衣装がとても似合うので、これはしょうがないと言えるが。
 後は靴と手袋なども購入し、買い物は終わりを告げられたのだった。

 ※

「お待たせ!」

 エヴァ達がブティックから出てくると、そこには零夜とヤツフサがいた。彼等はエヴァ達が店から出るのを待っていたそうだ。

「終わったのか?」
「ええ。彼女はこうなっているわ!」

 倫子が指差す方を見ると、ルイザは新しい服に着替えていた。青デニムのショートパンツ、黒いビキニブラ、赤いスカーフ、手袋、更には膝当てという組み合わせとなっている。
 この姿こそ本来の盗賊の姿であり、身動きも前より軽くなっている。このコーデこそ正解と言えるだろう。

「似合うじゃないか!ルイザはこの方がピッタリだ」
「確かにそうだな。ショートパンツを履いた方が、柔軟性や動きやすさも抜群と言える。良い組み合わせだと思うぞ」

 零夜とヤツフサもルイザの服装を称賛し、彼女は照れ臭くて顔を赤くしてしまう。人から服を褒められたのは久しぶりで、照れ臭くなるのも無理ないのだ。

「あ、ありがとう……」

 ルイザは小声でボソッと言いながら、横を向いていた。どうやら素直になるには時間が掛かるだろう。
 すると空は夕暮れ時となり、カラスも鳴き始めた。一日があっという間に過ぎたのだろう。

「じゃあ、帰りに買い物して帰りましょう!」
「今日の夕食のメニューは鍋料理だからね。早速市場へ向かうわよ!」

 アイリンの合図で全員が市場に向かおうとするが、ルイザが突然足を止めてエヴァに視線を移し始める。その様子は真剣な表情であり、何かを伝えようとしているのだろう。

「エヴァ……あの時はごめんなさい!」

 するとルイザは頭を下げながら、エヴァに対して謝罪する。彼女を奴隷として引き渡してしまった事だけでなく、恨みで殺そうとしていた事を謝罪しているのだ。

「私、奴隷として引き渡される時、エヴァの気持ちも感じたの。あなたもこの様な辛い思いをしたんじゃないかって……許せる理由じゃないけど……本当にごめんね……」

 ルイザは涙を流しながら、心から謝罪の言葉を述べていた。その言葉には偽りはなく、正真正銘の謝罪である。それを聞いたエヴァはルイザに近付き、彼女を優しく抱き締める。

「大丈夫。あなたが謝ってくれたら、それだけで十分だから」
「う……うわあああああ!!」

 エヴァの優しい笑顔に救われたルイザは、我慢できずに大泣きをしてしまった。その様子を見ていた零夜達は、微笑みながら見ていた。
 これでエヴァとルイザの問題は無事に解決。夕陽が彼女達を照らしていたのだった。

 ※

 同時刻。ロックマウンテンの中腹では、ハイン達が崖崩れの跡を発見していた。それを見た彼等は冷や汗を大量に流し、このままだとアリウスに殺されると思い込んでいた。

「どうすんだよ!ルイザが崖から落ちたのなら、俺達は殺されるぞ!」
「まだそうと決まった理由じゃない!エヴァがまだ残っているじゃないか!」

 ハインが頭を抱えながら思わず絶叫してしまうが、クルーザが冷静に彼を落ち着かせる。ザギルに至っては冷静に考え事をしていて、崖崩れの現象を確認していた。

(あのルイザが崖から落ちて死亡はあり得ないな……恐らく何者かによって助け出され、街へと向かったのだろう)

 ザギルはそう考えたと同時に、冷静な判断で推測する。三人の中では物事を冷静に判断できるので、どんな状況でも落ち着いて対処できるのだ。

「ザギル、何か分かったのか?」
「ああ。ルイザはまだ死んでいない。彼女にはヒューマンインプがいるし、何者かによって助けられたに違いないな」
「そ、そうか……そう言えばそうだったな……」

 ザギルの説明を聞いたハインは落ち着きを取り戻し、すぐに深呼吸をしながら整え始める。ルイザはS級ランクの一人なので、そう簡単に死ぬ事はないだろう。

「とは言え……彼女を探さなくてはならないし、見つけられなかったら殺されるからな。今日は近くの街で泊まるとするか」
「ここからだとクローバールの街が近いな。もしかするとルイザとエヴァに関する情報を聞けるかも知れないし」
「その方が効率的だな。行くとするか」

 ハイン達は満場一致で、そのままクローバールの街へと動き出し始める。同時に彼等と零夜達が邂逅する瞬間も、刻々と迫り来るのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...