上 下
9 / 81
第一章 珠に導かれし戦士達

第5話 ハルヴァスへの旅立ち

しおりを挟む
 零夜達がヤツフサから話を聞いてから十日後、異世界ハルヴァスへの出発の時が来た。彼等は誰もいない河川敷に集まり、ヤツフサは全員いるか確認する。

「ふむ。全員いるみたいだな。それまでの期間は色々大変だったと思うが」

 ヤツフサは零夜、倫子、日和、アイリンの四人がいる事を確認した後、彼等は当日までの日々を振り返り始めた。
 零夜達による職場への説明と記者会見は勿論だが、彼等の壮行会などのイベントにも参加させられる羽目になってしまった。零夜とアイリンは記者会見とイベントに参加するのは初めてであり、疲れでヘナヘナとすわりこんでしまう事もあったのは言うまでもないだろう。

「まあ、私達が新たな希望となる八犬士である以上、記者会見などは避けられなかったけどね」

 アイリンは当時の事を振り返りながら苦笑いしていて、零夜達も同様に頷きながら同意していた。
 彼等八犬士に選ばれた事でイベントなどにも呼ばれてしまうのは想定外だったが、貴重な経験をする事ができて良かったと心から思っている。特にアイリンは異文化を体験する事が出来たので、充実した日々を過ごせる事ができたのだ。

「さて、本題に入るぞ。いよいよ異世界ハルヴァスへと出発するが、準備はできているか?」

 ヤツフサは異世界に向かう零夜達に対し、真剣な表情で質問をする。ここから先は異世界での戦いとなり、彼等がその世界に耐え切れる事ができるのか質問してきたのだ。

「俺は覚悟を決めています!あの後楽園の悲劇は今も覚えていますし、八犬士の一人として最後まで戦います!」

 零夜は決意の表情をしながら宣言をしていて、ヤツフサも納得の表情をする。零夜は最後まで諦めずに立ち向かう覚悟があり、どんな状況でも一歩も引かない性格を持っている。
 その覚悟を見た倫子達もお互い頷き合い、ヤツフサに視線を移し始めた。

「私も戦う!零夜君ばかり無茶させる理由にはいかないからね。それに団体の活動停止の責任を、取らせてあげないと!」
「あの事件を目撃しただけでなく、八犬士として戦う覚悟があるわ。奴等は絶対に許さないから!」
「私も仲間の分まで戦うと決めたわ。ケンジ達の為にも……私は最後まで戦い続ける!」

 倫子、日和、アイリンも零夜と同様、真剣な表情で戦う事を決意。彼女達もタマズサ達によって不幸になってしまっているので、やり返さないままでは終われない。むしろ零夜と同じく、どんな状況でも一歩も引かない覚悟を示しているのだ。

「それなら心配無用だな。では、ワープホールを開くぞ!」

 ヤツフサは倫子達の様子を見て大丈夫そうだと安心したと同時に、自身の目の前にワープホールを召喚する。その行き先はハルヴァスと固定されているのは勿論、目の前には自然豊かな景色が広がっていた。

「いよいよ冒険が始まるのか……なんだか緊張するな……」
「ウチも。色々不安なんやけど、やるしかあらへん!」
「必ず生きて帰りましょう!皆の為にも!」
「私としては元の世界に帰るけどね」

 零夜達はこれから始まる冒険に対し、ドキドキしながらも談笑していた。アイリン以外異世界ハルヴァスに突入するのは初めてだが、これから始まる冒険に内心期待しているのは当然と言えるだろう。

「よし!突入開始!」

 ヤツフサの合図と同時に、彼等は次々とワープホールの中に飛び込んでいく。そして全員が飛び込み終えたと同時に、ワープホールはその場で消滅してしまったのだった。

 ※

 零夜達はワープホールをくぐり抜けると、目の前には広大な自然が繰り広げられていた。空にはドラゴンやロック鳥が飛んでいて、遠くでは西洋の街並みも見えている。まさにファンタジー世界その物となっているのだ。

「小説や漫画、アニメ、ゲームなどで知ったけど、こんな世界もあるんだ……」

 日和は今いるこの景色が、現実だという事を信じられずにいる。それに関しては零夜と日和も同じで、ただ景色に見惚れるしか無かった。初めて来た人にとっては見たことの無い物ばかりで、ポカンとしてしまうのも無理はない。
 因みに零夜達の服も変わっていて、零夜は忍者服、倫子は裸オーバーオール、日和はカウガールの衣装となっているのだ。

「ええ。ハルヴァスはファンタジー世界でモンスター達も多くいるからね。けど、最先端技術の発達でスマホなどが使えるけど」
「へ!?ここでもスマホが使えるの?」 

 アイリンの説明に零夜達が驚きを隠せず、スマホが使える事にポカンとしてしまう。ファンタジー世界なのにスマホが使える事で、違和感や疑問に感じてしまうのも少なくない。むしろこの世界が異常と言うべきじゃないかと、心から思う人もいるだろう。

「魔術と科学が最先端に進んでいるのが、この世界の最大の特徴なの。あなた達の世界と変わらない部分もあるけど」
「ファンタジー世界なのに、近未来の技術も取り入れてるなんて凄いな……」
「確かに……ん?」

 アイリンの説明を聞いた零夜は、感心の表情で納得しながら頷く。倫子と日和も同様に頷いた直後、自身の服が変わっている事に気付き始める。
 地球にいた時は私服だったが、ハルヴァスでは現在の服装に変わっている。恐らくこの世界に来と同時に、自動的に服装まで変化するシステムが発動しているのだろう。

「服装がいつの間にか変化している……」
「この世界に来た途端に変化したみたいですね」

 倫子と日和は服を引っ張りながら、自身の服が変化している事に納得する。倫子は最初この服装を恥ずかしがっていたが、次第に慣れて好む様になっているのだ。
 その様子を見たアイリンは微笑んだ後、すぐにバングルを使いながらウインドウを開く。画面には現在地を示しているマップが映し出されていて、内容を確認しながら最初の目的を決め始める。

「まずはクローバールの町へ向かいましょう。そこには私達がよく通うギルドがあるから、私が無事である事を伝えないといけないの」
「確かにそうだな。それに行方不明のままで行動していたら、皆がびっくりして大変な騒ぎになるだろうし」 

 アイリンはウインドウを指差しながら、これからの目的を説明する。その内容に零夜達も納得し、報告をしなければパニックになるのは当然だと感じているのだ。

「そういう事。あと、ギルドに登録すれば様々なクエストも受けられるから。其の辺の手続きも済ませましょう!」
「そうやね。よっし!まずはクローバールに向けて出発開始!」
「はい!」

 倫子の合図と同時に、アイリンの案内で彼女達はクローバールへと向かい出す。それを見た零夜とヤツフサも、倫子達の後を追いかけ始めた。

「彼女達の行動力は大した物だ。我々も見習わないとな」
「元の世界でもそうでしたけどね……」

 ヤツフサは倫子達の行動力に感心をするが、零夜は複雑な表情で彼女達に視線を移していた。
 かつて零夜は倫子と日和の行動に振り回されていて、その苦労は絶えなかったそうだ。今後はこの世界でも振り回されるだろうと思いながら、零夜はため息をつくしかなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

大好きなおねえさまが死んだ

Ruhuna
ファンタジー
大好きなエステルおねえさまが死んでしまった まだ18歳という若さで

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

処理中です...