絶対不要の運命論

小川 志緒

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過去、十五歳(まだ、一度目の)

「個人と個人がうまくいかなくなるのはいつだって」

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 ばあやが聞かせてくれた、わたしが生まれてくる前の話。

     〇

 吹雪の吹き荒れる夜に、城の門を叩く者がありました。
 ――どうか一晩泊めてください。
 全身黒づくめの女は、いかにも魔術を極めた者特有の妖しさを纏って佇んでおりました。けれども、まあ、魔女など特段めずらしくありませんでしたし、突然の来訪に驚きこそすれ、みなちっとも狼狽えたりはしませんでしたよ。

 肩や頭に積もる雪が憐れに思われて、お嬢さまのお父さまはすぐに下働きに命じて、女を手厚く迎え入れて差し上げました。女は何度も感謝の言葉を申し上げ、お礼としていくつかの万能薬を置いて翌朝去っていきました。別れの挨拶もそこそこに、門を出たらもう振り返りもしないんですからねえ。あんまりあっさり行ってしまうから、かえってこちらが寂しいような気になったものですよ。もう会えないと思っておりましたから。
 
 しかしですね、お嬢さま。
 しばらくするとまた女は城を訪れたのです。
 
 女はその後も時折ふらりとやってきては一晩泊まり、数々の貴重な品を置いて朝方帰っていくのを繰り返しました。滅多に表情の動かない女ではございましたが、よほど城の居心地がよかったのでしょうかね。ふっと訪れてふっと後にする女の猫のような態度を、ばあやも他のものも、みな面白がりながら好意的に受け止めておりました。
 それはきっと、女がぽんぽん気軽に置いていく薬の効能は抜群で、重宝したことも大きいでしょう。ばあやたちにはちんぷんかんぷんの難解な専門書を読み解き、どんな医者に診せてもよくならなかった病をたちまち治してしまう女の豊富な知識には驚かされるばかりで、自然と敬意をもって接するようになっていったのでございます。
 ばあやたちはみなあの女を好いておりました。好ましく思うからみな女には格別に親切にしてやりましたし、そうすることで、女のほうもうれしそうにはにかみ、ますます多くの薬を置いていくようになったのです。女は感情表現が苦手なきらいがありましたが、それでも時折ちらっと浮かべるささやかな笑みを、城の誰もが見逃しませんでした。不器用で滅多と懐かない性質のものが心をひらいてくれているという実感に、ますます愛おしさが膨らんでいきました。

 そうですとも、最初はうまくいっていたのですよ。
 個人と個人がうまくいかなくなるのはいつだって、世間が放っておいてくれなくなってからでございましょうね。
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