上 下
12 / 24

第12話 ライバルと恋心

しおりを挟む
 ーーーー時が流れ新たな歴史が積み重なるーーーー



 アメリアを含め、ドラキュリア一族達は吸血鬼ヴァンパイアになった時に髪の色が漆黒に変化し、そして年を取ることは無くなった。

 更に、異能の力を使うときと月の光を浴びたときに限り今までの瞳の色は緋色に変化する。


 
 そして、ドラキュリア一族が冥界の神と血の契約直後、森の中は黒い霧に包まれその中心に黒曜石オブシディアンの城が土中から顕現した。ドラキュリア一族が吸血鬼ヴァンパイアとなり冥界の神の眷属として活動する為の拠点の為に冥界の神ハデスから下賜されたのだ。

 黒い霧に覆われた森は人々からは「魔窟の森」と呼ばれ昼間さえ近づくものはいなくなった。

 アメリアは時折、魔窟の森の入り口にある湖の近くへ足を向けた。湖の脇にある小さな丘の上には1本のセコイアの木が立っている。ディーンとの思い出の場所だった。

「そう、この木の下で…………」
 気付けば誰に話す訳でもなく言葉が零れていた。

 甘く切ないディーンとの思い出が頭に蘇ってくる。


 ーーーー


 アメリアとディーンは幼馴染みであり良きライバルだった。小さい頃からお互いを知り、切磋琢磨しながら研鑽を積んでいった。

 アテナ王国の王都ユストアにあるスターレン国立魔法学園に通い始めた後もそれは変わらなかった。その魔法学校は大昔に存在した大魔導師グレイ・スターレンに因んで創立された由緒ある学校である。

 殆どの貴族は14才から17才で成人するまでこの学校に通うことになっていた。

 最初、ディーンは首席で入学し、アメリアは次席。入学試験でディーンに負けていたことを知ってアメリアはショックを受けた。

「ディーン! 次は絶対に負けませんわ!」
 アメリアはディーンに宣戦布告をした。

 いつだってディーンはアメリアの言葉を受け流していたが、負けず嫌いのアメリアはディーンのその態度が気に入らなかった。

 そのせいもあってディーンに何かと突っかかって行った。座学でも実技でも何度挑戦しても勝つことが出来ない事にいらだちは募っていった。

 ある日、アメリアは1年生の最終試験でもディーンに勝てなかったことに悔しさを滲ませて学園の裏庭にある大きなハルニエの木の下で1人唇を噛みしめていた。

「なんだ、こんな所にいたのか? 探したよ」
 声のする方に顔を向けるとディーンがゆっくりとアメリアの方に近づいて来た。

「どうしてあなたが私を捜してるのよ?」
 アメリアは訳が分からず棘のある声を出した。

(誰のせいで私がこんな所にいると思っているのよ! あなたの顔を見ると悔しくて仕方がないから避けていたのに何で来るのよ! そりゃあ、ディーンが悪い訳じゃないけど、少しは私の気持ちを思いやっても良いんじゃない?)

 そんな思いが頭を巡り、ついつい突っ慳貪な物言いになってしまうのを抑えることが出来なかった。

「どうしてって、君を修了パーティーに誘おうと思ってだけど」
「えっ?…………」

 その意味がアメリアの脳内に到達するまで時間が掛かった。

 何て言って良いか分からずディーンが見つめる群青色の瞳から目を逸らした。


 毎年、年末試験が終了すると修了パーティーが開かれる。
 必ずしもパートナーは必要ではなく、婚約者や恋人がいない人は通常1人で出席する。もちろん出欠は自由なので欠席することも構わない。

 アメリアは婚約者も恋人もいないから1人で出席するつもりだった。友人達がいるから大丈夫だろう、そんな安易な考えもあった。

「なっ、なんで……」
「なんでって、ずっと前から君のことが好きだから……君は気づいていないようだったけどね」

 やっと押し出した言葉にディーンが躊躇なく答えた。

「うっ、うそ……」
 アメリアは思わず後ずさりすると背中に木が当たった。これ以上、後ずさることは出来ない。

 徐々に顔に熱が集まってくるのを感じる。まともにディーンの顔を見ることが出来ない。アメリアはそれを隠すために顔をうつむけた。

「なんで俺が嘘を吐かなきゃならないの?」
 見なくても分かる。直ぐ目の前にディーンが立っていることが…………。

(だって、ディーンは成績が良いだけじゃなくて見た目もかなり良くって、女子からはかなり人気があって、告白されていたことだって知っているし、私の事なんてライバルとしか視ていなくって…………だから、ドキッとした時だって気のせいだと思って…………)

 アメリアはグルグルと駆け巡る様々な思いを何とか整理しようと試みていた。

(あっ、私今ドキッとした時って思った。そう、認めるわ。ディーンにときめいたことがあることを。それを封印していたことを)

 アメリアはそっと上目遣いにディーンの顔を見上げた。火照った顔を隠す事が出来ない。

「うっ……」
 目が合った瞬間、ディーンが右手で口を覆い顔を背けた。

「えっ? ディーン、どうしたの?」

「なっ、なんだ? この破壊力。普段勝ち気なくせに、その顔は反則だろ? 不味い、落ち着け、俺…………」
 顔を背けたままブツブツと呟くディーンの耳が赤く染まっていた。

「大丈夫?」
 アメリアがディーンに声をかけると、ディーンはハッとしてアメリアに顔を向けた。

「でっ、返事は?」
「あっ、あの……よろしくお願いします」

 復活したディーンに、アメリアは小さな声で答えたのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

「股ゆる令嬢」の幸せな白い結婚

ウサギテイマーTK
恋愛
公爵令嬢のフェミニム・インテラは、保持する特異能力のために、第一王子のアージノスと婚約していた。だが王子はフェミニムの行動を誤解し、別の少女と付き合うようになり、最終的にフェミニムとの婚約を破棄する。そしてフェミニムを、子どもを作ることが出来ない男性の元へと嫁がせるのである。それが王子とその周囲の者たちの、破滅への序章となることも知らずに。 ※タイトルは下品ですが、R15範囲だと思います。完結保証。

人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。 やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。 お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。 初めて投稿します。 書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。 初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。 小説家になろう様にも掲載しております。 読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。 新○文庫風に作ったそうです。 気に入っています(╹◡╹)

いつかの空を見る日まで

たつみ
恋愛
皇命により皇太子の婚約者となったカサンドラ。皇太子は彼女に無関心だったが、彼女も皇太子には無関心。婚姻する気なんてさらさらなく、逃げることだけ考えている。忠実な従僕と逃げる準備を進めていたのだが、不用意にも、皇太子の彼女に対する好感度を上げてしまい、執着されるはめに。複雑な事情がある彼女に、逃亡中止は有り得ない。生きるも死ぬもどうでもいいが、皇宮にだけはいたくないと、従僕と2人、ついに逃亡を決行するのだが。 ------------ 復讐、逆転ものではありませんので、それをご期待のかたはご注意ください。 悲しい内容が苦手というかたは、特にご注意ください。 中世・近世の欧風な雰囲気ですが、それっぽいだけです。 どんな展開でも、どんと来いなかた向けかもしれません。 (うわあ…ぇう~…がはっ…ぇえぇ~…となるところもあります) 他サイトでも掲載しています。

初恋が綺麗に終わらない

わらびもち
恋愛
婚約者のエーミールにいつも放置され、蔑ろにされるベロニカ。 そんな彼の態度にウンザリし、婚約を破棄しようと行動をおこす。 今後、一度でもエーミールがベロニカ以外の女を優先することがあれば即座に婚約は破棄。 そういった契約を両家で交わすも、馬鹿なエーミールはよりにもよって夜会でやらかす。 もう呆れるしかないベロニカ。そしてそんな彼女に手を差し伸べた意外な人物。 ベロニカはこの人物に、人生で初の恋に落ちる…………。

あなたにはもう何も奪わせない

gacchi
恋愛
幼い時に誘拐されそうになった侯爵令嬢ジュリアは、知らない男の子に助けられた。 いつか会えたらお礼を言おうと思っていたが、学園に入る年になってもその男の子は見つからなかった。 もしかしたら伯爵令息ブリュノがそうかもしれないと思ったが、確認できないまま三学年になり仮婚約の儀式が始まる。 仮婚約の相手になったらブリュノに聞けるかもしれないと期待していたジュリアだが、その立場は伯爵令嬢のアマンダに奪われてしまう。 アマンダには初めて会った時から執着されていたが、まさか仮婚約まで奪われてしまうとは思わなかった。

今世ではあなたと結婚なんてお断りです!

水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。 正確には、夫とその愛人である私の親友に。 夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。 もう二度とあんな目に遭いたくない。 今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。 あなたの人生なんて知ったことではないけれど、 破滅するまで見守ってさしあげますわ!

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

処理中です...